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信長のアレを千回クリアした俺が戦国最強の軍師に転生して甲斐の虎に会いに行ったら、赤べこだったんだが(ていうか、男だらけの温泉回なんて誰得なんだよ)  作者: 犬上義彦
第8章 後始末、そして新たなる裏切り

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(8-10)

 広間へ戻ると、信長は氏真に俺の要望通りの内容を告げた。


「これより氏真殿はこれなる明智光秀の与力として清洲にて勤めるが良い。駿河の経営については、すべて織田家すなわち勝家に任せてもらうことになるが良いか」


 氏真は畳に額をこすりつけた。


「すべて異存はございません。仰せの通りに」


 こうして今川家はあっさりと織田の傘下に下った。


 城を退去した俺は氏真を伴って屋敷へ帰ってきた。


 これまでに書きためていた『隼ストライカー瞬』の続きを見せる。


「ほほう、これはまた熱き展開でございますな」


 氏真は発売日前の早売りを手に入れた少年のように目を輝かせて食いついている。


「氏真殿」


 俺の呼びかけに氏真は手を止めた。


 だが、視線はこちらに向けない。


「盗賊たちをけしかけたのはあなたですね」


 うつむいたままつぶやく。


「あの者たちが白状したのですか」


『あの者たち』という言い方が知っていると自白しているようなものだ。


 名門のお坊ちゃまらしく、駆け引きにはとことん向かない性格なのだろう。


「なにゆえに私の命を狙ったのですか」


「父に命じられただけのことです」と、ようやく顔を上げた。「父は明智殿を恐れていました」


 ――今川義元が?


「昨年の会見の後に松平を織田家に引き入れた手腕を知り、脅威を感じていたのでしょう。生かしておいては今川家のためにならぬと、わたくしに手配をさせました」


 そこで氏真はため息をついた。


「明智殿には漫画のことで世話になっておりましたが、わたくしが父に逆らうことはできませんでした。父は今川家に君臨し、すべてを取り仕切っておりました。わたくしは家督を継いでいたとはいえ、名目上の当主に過ぎません」


 ただありのままを述べているだけで、言い訳をするつもりではないようだ。


 名門に生まれた跡継ぎの悩みを吐露したところで、ふっと笑みを浮かべる。


「あの者たちが明智殿に味方するとはわたくしには予想などできませんでした。また、明智殿が甲斐の武田との同盟を成立させることも、それがさらなる脅威となって父が明智殿の暗殺を水野信近に指図することも、あの時点では考えようもなかったことです」


 俺の行動がそれほどまでに今川義元を焦らせたというわけか。


 ただ、氏真の語り口は、俺に責任をなすりつけるような言い方ではなく、あくまでも自分の無力さを吐露しているに過ぎなかった。


 そして、氏真は思いがけないことを口にした。


「わたくしはあの者たちを死なせてしまったことに責任を感じ、織田家の女忍びに父と水野信近のことをありのままに話しました」


 ――なんだって!


 それはつまり……心結(みゆ)だよな。


 ああ、そういうことだったのか。


 靄に包まれていた部分が急に晴れてあらゆる筋がはっきりと分かった気がした。


 そうか……。


 だから心結は確信を持って仇を指名できたのか。


 あの時俺は復讐の念に駆られるばかりで、情報の出処に疑問を感じることがなかった。


 それまでも心結には使いを頼んでいたから氏真と面識があったわけで、そこから情報を得ていたとしても何らおかしなところはない。


 ただ、それを知っていれば、俺は今回の行動に出ていただろうか。


 もしかしたら、氏真に配慮して、ここまで今川家を追い詰めようとはしなかったかもしれない。


 まさか、心結は、そこまで考えて伏せていたというのだろうか。


 もしかして……。


 俺は何者かに操られているのか?


「氏真殿」と、俺は内心を隠してたずねた。


「はい」


「これで良かったのですか? 名門の家を没落させて、こんな結末で良かったのですか」


「ええ、むしろ心晴れやかな気分ですよ」


 その言葉が強がりでも見栄でもないように、氏真の表情は本当に明るかった。


「父に押さえつけられ、父の言いなりになり、つねに偉大な父と比べられ、あの家はわたくしにとっては牢獄に過ぎませんでした。蹴鞠に夢中なうつけを演じていたのも、何をしても無駄だったからです。学問を修めても政治に口出しは許されませんでした」


 氏真の口元には薄い笑みが浮かんでいた。


「父が長篠へ出馬するとの知らせは当日聞かされました。わたくしはその程度の存在に過ぎなかったのです。織田家への恨みはありません。むしろ、感謝しているくらいですよ」


 氏真は手をついて俺に頭を下げた。


「どうかわたくしを明智殿の配下として働かせてください。わたくしはうつけではありません。名門今川の血を受け継ぐ者として、必ずやお役に立てると存じます。そのために今川の名だけは残してもらえるようにお願いしたのです」


「分かりました」と、俺は氏真を受け入れた。


 死んだ美月たちも反対はしないだろう。


 いや、そんなことはもちろん分からないことだ。


 俺はすべてを飲み込んだのだ。


 天下のため、野望のため、その先にあるお市様との約束のために。


 俺の勝手な都合のために。


 しょせん、俺は裏切り者の宿命を背負った明智光秀なのだ。




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