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信長のアレを千回クリアした俺が戦国最強の軍師に転生して甲斐の虎に会いに行ったら、赤べこだったんだが(ていうか、男だらけの温泉回なんて誰得なんだよ)  作者: 犬上義彦
第8章 後始末、そして新たなる裏切り

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(8-7)

 馬で駆け寄ってきた武者が声をかける。


「武田家より馳せ参じた馬場信房、羽柴殿のお手柄、しかとこの目で見届け申した」


「かたじけない」と、秀吉は今川義元の首を空に掲げた。「わしだ! このわしだぞ! 今川義元の首を取ったのはこのわしだ!」


 ホラ貝が鳴らされ、戦いが止み、「えいえいおーぅ」とときの声が上がる。


《戦場における経験により、統率と武勇が上昇しました》


《足軽属性『槍突撃』を習得しました》


 次々と立ち上がる脳内モニターのアラートも、俺にはもうどうでもいいことだった。


 終わったんだ。


 復讐も後始末も、なにもかも終わったんだ。


 立ち上がると、肩の重荷がどこかへ舞い上がってしまったかのように、体がふらつく。


「しっかりしろ、光秀。これもみなおぬしの功績であろうが」


 秀吉が俺の肩をつかんで揺さぶる。


 ――おいおい、目眩(めまい)がするじゃないかよ。


「そんなに興奮しないでくださいよ」


「これが落ち着いてなどいられるか!」


 秀吉が俺に抱きつく。


 こら、やめろ、汗臭い男なんかと抱き合いたくないっつうの。


「明智殿」と、馬から下りた馬場信房が俺たちに歩み寄る。「我らの絆、ここにありですな」


「はい、わざわざのご出馬、ありがとうございました」


「これもすべて春先から織田家が整備していた街道のおかげ。道中、何の障害もなく大軍を迅速に動員できましたぞ」


 馬場信房が俺の手をつかんで両手で包むと、じっと俺の目を見つめた。


「盟友の恩義は礼節を持ってお返しいたす」


 歴戦の勇士の目は優しかった。


「では、これにて御免」と、馬場信房がひらりと馬にまたがる。「明智殿のためなら、我ら、いつでもどこへでもすぐに馳せ参じますぞ」


「おう、わしらもいつでも駆けつけるぞ」と、秀吉が答える。「ただし、歩きだがな」


「よかろう。頼りにしておるぞ」と、馬場信房は馬を返すと後方に整列した飯富昌景の赤備え軍団に駆けていった。


 俺が手を振って頭を下げると、騎馬武者が一斉に槍尻で地面を突き、それを宙に突き上げる。


「「「おーぅ」」」


 騎馬軍団の雄叫びは山にこだまし谷を震わせ、それを合図に、さっそうと伊那街道へと帰って行く。


 俺はその姿が見えなくなるまで見送っていた。


「なんじゃ、どうした。しんみりして」


 秀吉に肩を叩かれ、城に向かって歩き出す。


 史実ではこの地、長篠で、十四年後に馬場信房は討ち死にすることになっていた。


 だが、このまま同盟が続けば、その悲劇は避けられるだろう。


 それまでに天下統一が達成されていれば、無益な戦いなど起こらなくてすむ。


 俺がこの時代に来たことで歴史が変わった。


 桶狭間の戦いで死んだのは今川義元ではなく、徳川家康となるはずだった松平元康で、いまは影武者が松平信康と名乗っている。


 そして、今、長篠の戦いで全滅したのは武田の騎馬軍団ではなく、今川義元と水野信近の連合軍だった。


 だが、なんだろう。


 いいようのない不安が俺の胸に沸き起こる。


 桶狭間の悲劇を回避した今川義元は、結局一年後の今、討ち死にしてしまった。


 この長篠の戦いも、もしかしたら、別の場所での悲劇にすり替わっただけなんじゃないだろうか。


 いやいや、よけいなことを考えるな。


 武田と織田の同盟は確固たるもので、馬場信房と飯富昌景の援軍は俺自身が要請して実現した、絆の(あかし)ではないか。


 何を心配することがある。


 これからだって歴史はどんどん変わっていく。


 史実という知識と、情報という武器を駆使して、この乱世に終止符を打つ。


 俺にできないはずがないんだ。


 だって、俺は『信長のアレ』で千回も全国統一を成し遂げているんだからな。


 長篠城へ戻った俺たちを出迎えたのは、前田利家以下、織田家五千の兵だった。


 味方の兵にほとんど損害のない大勝利だったのだ。


「我ら最強の軍師明智光秀を称えて宴会だ!」


 秀吉のサル踊りが始まり、酒と飯が振る舞われる。


 血と汗と埃まみれの兵たちが握り飯を頬張り、米粒を飛ばしながら笑い合う。


 俺も差し出された握り飯にかじりついた。


 塩気が体に染みこんでいく。


 ――だが……。


 何なんだろうか、急に沸き起こってきたこの虚しさは。


 歌をわめく者もあれば、裸になって踊り出す者もいる。


 みんな勝利に酔いしれているのに、俺の心だけは凍りついている。


 浮かれた空気から切り離されて、俺はただ一人ぼんやりとその騒ぎを外から眺めていた。



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