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信長のアレを千回クリアした俺が戦国最強の軍師に転生して甲斐の虎に会いに行ったら、赤べこだったんだが(ていうか、男だらけの温泉回なんて誰得なんだよ)  作者: 犬上義彦
第8章 後始末、そして新たなる裏切り

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(8-5)

 引き金に指を当てた瞬間、美月の顔が思い浮かんだ。


 権造、吉三郎、十蔵、小助、入道。


 俺に関わって死んでいった仲間たちの顔が次々と浮かんでは消えていく。


 そういえば、丸根砦で死にかけていた雑兵も武井村の権造って名前だったな。


 この時代に来てから、いろいろな人が死んでいった。


 令和の世なら犬死にとされるような死に方ばかりだった。


 人の命が軽い。


 今の俺にできることはただ、この引き金を引くことだけだ。


 待っていてくれ、美月。


 殺し合うのが当たり前のこの時代を俺がこの銃で終わらせてみせる。


 弱い者同士で奪い合うのではなく、商業や工業でまっとうに稼いで皆が笑って暮らせる世の中を俺が作ってみせる。


 そのために俺は水野信近を殺すんだ。


 それがまた新たな憎しみの連鎖を生むのだとしても、運命に逆らうことなどできない。


 深く息を吸い、止め、俺は脳内に仇の顔を刻み込んだ。


 ――よし!


 ズゴオオオオン!


 天地を揺るがし、時を止め、弾が放たれ、視界が硝煙で真っ白に曇る。


 戦場が静まりかえっている。


 脳内モニターにアラートがポップアップした。


《伝令:水野信近が討ち死にしました》


 それはこの戦場に散った軽い命の一つに過ぎなかった。


 ――終わった。


 俺の復讐は終わったんだ。


 もはや俺の脳内にはスコープはない。


 白い煙の向こうに霞む今川義元の本陣を肉眼で凝視すると、水野信近の頭は吹き飛んで、胴体だけが床几のかたわらに転がっていた。


 その前で今川義元は腰を抜かして地面に手をついてへたり込み、腰回りには水が流れ出している。


 わななきながら小便を垂れ流す大将を抱え上げ、側近たちがまわりを取り囲む。


 連中はおそらく今川義元を狙った弾が逸れて水野信近に当たったのだと思い込んでいるのだろう。


 だが、俺の狙いは間違ってなどいない。


 憎しみで人を殺すことが罪だというのなら、俺はこの手に握りしめて地獄の果てまで投げつけに行ってやる。


 ――今川義元よ。


 おまえなど、俺にとっては何の価値もない塵だ。


 撃とうと思えばおまえを撃てる。


 だが、俺はここではやらない。


 あんたにはまだやってもらうことがある。


 戦国一の笑い者としての道化を演じてもらう。


 それがこの復讐劇の総仕上げだ。


 と、その時だった。


 北側の伊那街道に新たな軍勢が現れた。


 脳内モニターに情報画面がポップアップする。


《武田軍が到着しました》


 それは馬場信房と飯富昌景の率いる武田の騎馬隊の姿だった。


 織田家によって整備された伊那街道を迅速に移動して、『疾きこと風の如く』この地に到着したのだ。


「武田家中に名の知れた馬場信房である。織田家の盟友として助太刀つかまつる」


「同じく飯富昌景、我らが武田の赤備え、その方どもの胸にしかと恐怖を刻み込んでやるわい」


 突如現れた騎馬隊が『侵掠すること火の如く』今川本陣へ中央突破を開始した。


 慌てふためく今川勢は義元の馬印もなげうって右も左も分からぬままに退却を始めた。


 川へ出れば秀吉の伏兵、谷へ突き進もうにも松平が待ち構え、行き場を失った今川勢は武田の騎馬隊に、穴の塞がったところてんのように無様に押しつぶされていく。


 今川義元は自ら槍を取ってなだれ込む敵を振り払う。


 ――見たか!


 義元よ、おまえは自らの運命から逃れることはできないのだ。


 戦場で無様な姿をさらし、『海道一の弓取り』と称えられた名門の誇りを踏みにじられろ。


 これが失われた桶狭間の後始末なのだ。



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