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大聖女は聖騎士をさらって逃走しました  作者: 岩上翠
第二章

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アルバ島のエルフ4

 わたしとロータヤは急いで屋敷に戻り、再びみんなに集まってもらい、計画を話した。

 うまくいくかは半信半疑といったところだったけど、どうせ八方塞がりなんだ。やってみよう、ということになって、それぞれに割り振った仕事をしてもらった。

 

 わたしとロータヤとヘイディは、食堂で作業をする係だった。

 オーウェンたちに調達して来てもらった材料を使い、黙々と作業を進める。


 一心に手を動かしていると、扉が開いて、カールスクーガ大公が顔を覗かせた。

 けれど、父親に見られていることにも気がつかないロータヤの真剣な表情を見ると、扉を閉めて、どこかへ行ってしまった。




 計画は順調に進み、夜も更ける頃には、準備は完全に整った。

 あとは再び大公と交渉するだけだ。

 けれど、さすがに夜中に大公の元へ押しかけるわけにはいかないので、今夜はゆっくり休もうということになった。

 大公の気分を害して協力を断られるのは得策ではなかったし、明日まで待ったとしても、聖祭まではあと八日の猶予がある。

 時間がたっぷりあるわけではないけど、まだなんとかなりそうだ。


 わたしは自分の部屋へ戻ると、寝台に座って心を落ち着かせて、目を閉じた。

 計画がうまくいきそうな予感に、自然と口元が緩んでしまう。

 ルーも喜んでくれるといいな、と思いながら、彼の思念を探し、語りかけた。


〈ルー、聞こえる?〉


 少し間があってから、ルーが答えた。


〈……リネット……君なのか!? 今どこにいる? 無事か!!?〉

〈えっ? う、うん、元気だよ?〉


 わたしは驚きながら答えた。

 ルーが心配性なのは知っていたけど、昨日も《感応術》で話したばかりなのに、こんなに心配されるなんて。

 ほっとしたように、ルーが大きく息を吐いた気配が伝わってくる。


〈そうか……それなら良かった〉

〈あの……どうかしたの? そっちで何かあったとか?〉

〈……いや、いいんだ。君が無事なら〉


 どこか釈然としなかったけど、ルーがいいと言ってる以上、しつこく尋ねるのも気が引けた。


 わたしは気を取り直して、計画のこと、それが順調に進んでいることを話した。

 それから、ロータヤに森の湖に連れて行ってもらったことも。

 ルーは湖のことも、ロータヤのことも憶えていた。


〈…………あの湖か。あそこはエルフにとっては特別な場所なんだ。ロータヤに、そのことは聞いた?〉

〈うん、聞いたよ〉

〈そうか。彼女が君をそこへ連れて行ったということは、君をとても気に入ってるということなんだろうな〉

〈……そうだったら嬉しいな〉


 ロータヤの美しいほほえみを思い出して、わたしは心からそう思った。

 わたしも彼女が好きだ。まさかアルバ島でエルフと仲良くなれるなんて思ってもみなかったけど、こうして友達になれて嬉しい。ロータヤのためにも、絶対にこの計画を成功させないと。

 そしてもちろん、ルーのためにも。


〈ねえ、ルー。あの湖は鏡みたいで、吸い込まれそうで、とてもきれいだったよ。島にはいつも霧がかかっているんだけど、遠くの景色が雲の上に浮かんでいるみたいに見えて、それも素敵だった〉

〈……そうか。君がアルバ島を気に入ってくれたようでよかった〉

〈うん。だから、今度はルーも一緒に行こう? ルーと一緒にあの景色が見たい〉

〈……………………〉


 ルーは黙り込んでしまった。

 たぶんきっと、彼はまだ聖祭から逃れられる可能性を信じ切れずにいるんだろう。

 だけど、わたしは昨日からずっとそう思っていた。ルーと一緒にこの島の景色を見たい。ここにしかいない鳥や珍しい花を、霧で霞んだ空や幻想的な湖を一緒に見たい。

 ただのわがままかもしれないけど、わたしがそう言えば、優しいルーはそれを叶えようとしてくれるかもしれない。

 生きようとしてくれるかもしれない。


 遠い場所で、ルーが、ふっと笑った気がした。


〈……どうしてだろうな。君の望みは、何でも叶えてあげたいと思ってしまう〉

〈ほ、本当に?〉

〈ああ。アルバ島には、もう二度と足を踏み入れることはないだろうと思っていた。だが君が望むなら、どこへだって一緒に行こう。私を、君のそばにいさせてほしい〉


 わたしは寝台の上をごろごろと転がった。

 ルーったら……! 心臓がもたないから、そんな殺し文句をさらっと言わないでほしい……!


〈こ、っここ、こちらこそ、そうしてくれたら、すごく……嬉しいです………………あっ、明日早いから、そろそろ寝るね〉

〈……この時間に? ……いや、なんでもない。おやすみ、リネット。良い夢を〉

〈? うん、おやすみ。ルーも良い夢を〉


 心臓が弾んでいて、体が熱い。わたしはそのまま眠りに着こうとしたけれど、ルーの声が何度も耳の奥に響いて、その夜もなかなか眠れなかった。




 翌日、わたしたちは再び大公に会いに行った。

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