表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大聖女は聖騎士をさらって逃走しました  作者: 岩上翠
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/47

禁じられた恋2

 三日間馬車に揺られて、また違う馬車に乗り継ぎ、ようやくメルスタとルーはクラドック家の門の前にたどり着いた。

 クラドック家の門を叩くと、従僕が出てきた。

 メルスタが要件を告げると、今度は執事が出てきた。

 それからずいぶん長いあいだ門前で待たされて、やっと応接間へ通されると、出迎えたのはリシャールの妻だった。


 応接間へは入らなかったが、このとき扉の後ろでは、ブラッドもひそかに成り行きを窺っていた。父の愛したエルフの女がやってきたと聞き、じっとしてはいられなかったのだろう。


 応接間では、リシャールの妻が嫌悪感もあらわにメルスタをねめつけていた。


「あなたが例のエルフですか。魔法を使って人様の夫を奪うなど、さすがは汚らわしい魔物ということね。リシャールはあなたには会いません。今すぐにあなたの島へ帰りなさい」


 メルスタは気丈な女だった。


「あなたは嘘をついている。リシャールが私に会いたくないはずがないわ。人間のしがらみにがんじがらめにされて、身動きが取れないだけ。あなただってリシャールのことを愛してなどいないでしょう? 金と地位のためだけに彼と一緒にいるのでしょう? そんなくだらないもののために私たちの邪魔をしないで。早く彼を自由にしてあげて」

「なっ……! た、たかがエルフの分際で、何を偉そうな口を…………!!」


 リシャールの妻は顔を真っ赤にした。

 一番言われたくないことを、エルフの女などに言われたからだ。


 ルーはうつむいたまま、黙って母親の服の裾を引いた。もうやめて、と言いたかったのだろう。だがメルスタは続けた。


「たかがエルフですって? 私はあなたがたにこう言いたいわ。『たかが人間の分際で』と。古代エルフの末裔である私は、どんなに強い呪いでも浄化する力を持っている。あなたはリシャールの財産で遊び暮らす以外、仲間のためにどんな貢献をしているのかしら? もしほんの少しでも、何かの貢献ができると言うなら」


 リシャールの妻は憤怒の表情を浮かべた。

 それを見て、ルーは今度は声に出して「母さま、やめて」と言った。

 その静止はあまりにも無力だった。

 すでにリシャールの妻は、烈火のごとく怒り狂っていたからだ。


「……この……悪魔めっ!! そのよく回る舌と邪悪な術で、わたくしの夫を二度も誑かそうというのね!? そんなことは絶対に許しません!! あなたたち、早くこの魔女を追い出してちょうだい!!」


 女主人に命じられ、応接間の隅に控えていた執事と従僕たちはびくっと震えた。

 魔法を使うという古代エルフの女が恐ろしいのだ。

 けれども女主人も同等かそれ以上の恐ろしさだったので、腰が引けつつも、彼らはメルスタを捕えようとした。


 メルスタは冷静に彼らを眺め、トネリコの杖を軽く振った。

 その途端、執事も従僕も、見えない壁に阻まれるかのように、彼らの立っている数メートル四方の場所から、一歩も出られなくなった。

 

[結界]の魔法だ。


 エルフには生まれつき得意な分野の魔法がある。メルスタの場合はそれが[浄化]だった。けれども他の魔法が使えないというわけではなく、数種類の魔法を使うものもいるし、訓練すればすべての魔法を使えるようになるものもいる。

 しかし、エルフは「自然のままに」生きることを好む種族であり、与えられた才能だけでよしとする場合も多く、メルスタも使える魔法は[浄化]と[結界]の二種類のみだった。


 だが、目を飛び出さんばかりに見開き、(あの魔女に殺される!!)と恐慌をきたしたリシャールの妻に、そんなことがわかるはずもなく。




 リシャール本人が騒ぎを聞きつけて応接間へやってきた。

 それは最悪のタイミングだった。


「どうした? 騒がしいな……」


 扉を開け、最愛のメルスタと、十年ぶりに顔を合わせた。




「リシャール!」


 メルスタは愛する男の方へ駆け寄った。


 その背中に、ずぶりと、冷たく硬いものが突き差さる。


 リシャールの妻が、深々とナイフを突き立てたのだ。




「……この魔女が、あなたに魔法をかけようとしていたのよ……危ないと思って、それで、わたくしは……」


 虚ろな目をして、両手でナイフの柄を強く握ったまま、リシャールの妻が夫に言った。


 リシャールは聞いていなかった。

 ただ、愛するメルスタが、目の前で命を失ってゆくさまを見つめることしかできなかった。


 リシャールに抱きかかえられたメルスタは、最後に彼に息子のことを託して、息を引き取った。




 十歳のルーは、その一部始終を間近で見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ