第二話 オルドとペルト、「メモリークリスタル」
ようやく方針が決まって書きました、記念すべき(?)二話目です。
私は、オルドで歴史学を専攻するしがない研究員だ。
最近、私も出席した学会である研究成果が発表された。
主題は「旧帝国時代の資料から読み取れる『石』の効果について」だ。
どうやら、統一国家「ドゥーア・レルコス」時代の資料から、何か新しい発見があったようだ。
あの頃は、今のこの分断された世界も一つの国としてまとまっていたようだが、とても今では考えられないことだ。
何せ、今は世界中の人々が「オルド」と「ペルト・バーティオ」に分かれて対立しているのだから。もっとも、君たちはその中でも例外中の例外のようだが。
私がオルドで研究している者である以上、私が秩序を信奉するのも当たり前であろう。実際、富が再分配されるこの社会は、ペルトの超格差社会と比べてより良いものだ。皆が等しく平等に、「幸せ」になれるのだ。
まあ、今はそんなことは置いておこう。無意味な議論ほど時間を浪費するものはない。
学会の発表の内容についてだが、どうやら現在オルドとペルトのそれぞれを統べているお方々の持つ「石」が、昔は違う効果を持っていたらしい、ということが当時の文献からわかったらしいのだ。
現在の「石」は、所謂「大罪」を司るもので、総計七種類ある。これぐらいは知っているだろう?
その内訳は嫉妬・傲慢・怠惰・憤怒・強欲・色欲・暴食である。
嫉妬・強欲・色欲の御三方はペルトに、傲慢・憤怒・怠惰の御三方は我らがオルドにいらっしゃる。
暴食の御方はと言えば、今代はどちらにもついておられず、二つの国を行き来していらっしゃるらしい。
そんな「石」であるが、なんと旧帝国時代では、今とは正反対の「元徳」を司るものだったらしいのである。
それもまた総計七種類あったようで、それぞれ知恵・勇気・節制・正義・信仰・希望・愛であったようだ。
それぞれの石を持つ者たちは「七大騎士」と呼ばれ、当時の皇帝直属の近衛騎士のような存在であったようだ。
更に、その石には“意志”があったようで……
……ああ、決して洒落などではない、決して洒落などではないぞ。そんな目でこっちを見るな。
まあいい、それで、それぞれの石が司るにふさわしい相手を選んでいたようだ。
例えば「勇気」を司る石なら、勇のある者を選び、「信仰」を司る石なら、敬虔なる信奉者を選ぶように。
それぞれの石には、石に選ばれた者たちの「記憶」と「技」が継承されており、それを受け継ぐことで所有者たちは護国のための力を得ていたらしい。
しかし今では、その力は失われてしまった。一体何故石の司るものが全く正反対になってしまったのかは、未だ謎のヴェールに包まれたままである。
この発表の最後に、彼ら研究員たちは、この石を仮称「メモリークリスタル」と呼称し研究を進めていく、として話を締め括った。
そういえば近頃、市井ではきな臭い話題が流れている。
その内容はといえば、現「傲慢」のメモリークリスタルの所有者にしてオルドの首長である「アロガンティア」氏の息子が、所謂「旧帝国時代」に戻そうとする「懐古派」の者どもと繋がっている、というものだ。
とは言っても、完全に管理された我が国ではメディアで報道などされてはいないのだが。
あくまで井戸端会議の、民衆の話のネタとなるただの噂のようなものだ。
こんなことを言うのもあれだが、君もさっさと手を引いたほうがいい、身のためだ。
ペルトの治安も悪化の一途を辿っているようであるし、国境付近の争いも最近また激化してきているようだ。
一体この世界はどこへ向かっているのだろうか……
まあ、一介の研究者である私が気にしても仕方がないことだ。
私が国から定められた仕事は、「この世界の歴史の研究」であり、それだけが私の存在意義なのである。
完璧に管理され統率される我らに、あの秩序のない者どもに負けるという道はあり得ないのだ。
さあ、話は終わりだ。世の中には知らないべきであることも沢山あるのだよ、うら若きお嬢さん。
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俺は、ペルトでちょっとした研究をやってるもんだ。
名前は……まあ通称「ペリープロコ」、略してペリーとでも呼んでくれ。勿論本名じゃねぇぞ。
なんの研究かって? そうだなァ……
強いて言えば、「歴史」の研究ってとこか?
なんのためにそんなもん研究してるかだってェ?
ガキが、なんでも質問してりゃ答えが返ってくるだなんて勘違いすんなよ?
まあ俺は優しいからな、今回ばかりは答えてやるよ。
その理由はな、過去を研究することで人々の営みを知って、その研究結果を基に今の人々の生活に役立てるためさァ!
……なんてわけなくてよ、実際ンとこ、俺が研究してる理由なんてもんは、ただ「面白そうだから」ってもんだけだ。
幸いウチは、ペルトの中じゃ比較的裕福でな、こんな趣味に生きるみたいなんてもんも許されてんだ。
貧民街の奴らはきついぜェ?
なんせ毎日食うもんにも困る、住む場所もねぇ、服も毎日着回しだ。衣食住ぜーんぶダメだ。
しかもウチは完全な競争社会なんでな、競争に負けた奴らはみんな落ちぶれて最後は貧民街行きさ。
逆に言やァ、成り上がりもできるってことだ。
俺が研究してるとこにも、貧民街が出身なやつもいる。
さっきの話は、あいつから直接聞いたことだ。
のしあがる「チャンス」があるのは、良いモンだよなァ?
俺からしちゃぁ、この完全競争主義は良いモンさ。
まあ、それも俺がこの社会の「適合種」である限りだろうけどなァ。
「不適合種」になっちまったモンは、虐げられ、搾取され、そうやって一生を終えていくのさ。
そういえば、話は変わるが、お隣のオルドで学会があったらしいなァ?
あれ、お前は何が目玉だったか知ってるか?
…………知らないか。ま、だろうな。
人に話聞きにきたんだから、そんぐらいは調べてこい。
まあ今は興が乗ってるから話してやるよ。
その内容ってのがな、なんでも「大罪」を関する方々が持ってる「石」が、旧帝国文明の頃は「元徳」を司ってた、っちゅうもんだ。
眉唾モンに思えるだろ?でも、これは、紛れのない事実だ。俺の勘がそう言ってる。
……なんだ?信用ならないってェ?
大丈夫、俺の勘はよく当たるんだ。今回もきっと間違っちゃいねぇさ。
詳細の説明はだりぃから省くが、まあどうやら当時の「メモリークリスタル」は……
……あぁ、言ってなかったな。その石は仮称「メモリークリスタル」って呼ぶらしい。大層な名前だこと。
まぁいい、その「メモリークリスタル」の話だが、どうやら当時はそれを持つ者たちの「記憶」と「技」を保存して、次持つものに継承する、なんて能力があったらしいンだ。
しかしだ、今の「石」持ち共にそんな能力があるだなんて聞いたことがねぇ。まあ隠してるだけかもしれないが……
何はともあれ、どうしてそんな、性質が真反対になるようなことになっちまったんだろうなァ?
そこにきっと何かがあるって、俺の勘が告げてるンだ。
ここで話は終わりだ、さっさと帰りな…………
あァ、忘れてた。お前、名前は?
…………教えられないって? ……フン
そんなとこが、まさしく「傲慢」だなァ、お前さん。
もうここには来んなよ、坊ちゃん。
まだまだ始まったばかりですが、面白いと思った方は評価・ブックマークなどなどお願いします!
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