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永遠のフィリアンシェヌ ~わたしと私の物語~  作者: 蒼依スピカ


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73話 特別?



 メルちゃんの考える「普通」と、わたしの考える「普通」がズレてる気がしてきた。

 ……普通ってなんだろうね? わからなくなってきたよ……。

 もんもんとしたまま授業は進み、わたしは全然集中できなかった。

 この授業が終わったらさっちゃんに聞いてみよう。さっちゃんは超優等生だけど普通の人だ。結婚学とか民兵博士じゃない普通の人。「普通」のこともちゃんとしってると思う。

 

「―――今日はここまでです。次回からは新しい物語になりますので、これまでの読み返しや、単語の復習をしておくように」

「「「 はーい 」」」


 終了の鐘が鳴って先生が出ていく。

 ……さっちゃんのところに行こう。

 わくわくした気持ちはあるけど、今は「普通」のことで頭がこんがらがってる。

 ダッシュで行きたいのに、身体が重たくてゆっくりした動きにしかならない。


「どうしたの、アリアちゃん。早くさっちゃんさんのところに行こう」

「……うん」


 メルちゃんもついてくる気満々らしい。

 ……6年生の教室なのに平気なのかな?

 わたしはさっちゃんがいるから平気だけど、普通はちょっと怖くて近寄りづらいと思う。


「ほら、早く!」

「……」


 メルちゃんにとっては気まずさより好奇心が優先されるらしい。全体からわくわくオーラがみなぎってるように見える。

 そんなメルちゃんに手を引かれてさっちゃのクラスまでやって来た。さっちゃんは既にモーリス先輩たちと談笑している。


「……さっちゃん」

「どうしたの、アリアちゃん? 何かあった?」


 わたしはさっちゃんの膝の上にゆっくり座ってぎゅっとしながら質問する。


「……普通ってなんだろうね? わたしたちは普通だよね?」

「普通じゃないよ」

「ほえ?」


 さっちゃんに普通じゃないって即答された。

 まるで、それが当然って感じ。

 即答されたので頭が一瞬フリーズしてしまった。わたしの予想では「私達は普通だよ。普通って言うのはね―――」みたいな答えを返してくれると思ってた。

 ……わたし達、普通じゃないの……?


「ザナーシャ君が普通なら、僕は普通の人にも勝てない愚鈍な馬鹿になってしまうな。それは困る。天才で努力家の僕が勝てないんだ、彼女は特別だよ」


 モーリス先輩が眼鏡をクイッとあげて光らせて答えてくれる。


「そうですわね、ザナーシャさんは普通ではありませんわ。成績の面は勿論ですが、すでに結婚しているというのも凄いことですわ」

「フェイルーンの言う通りだよ。普通は交際していても小学生で実際に結婚しようとは思わない。子供の内は精々一緒に帰ったり遊んだり、交換日記の延長程度だ。ザナーシャさんは勿論だが、アウレーリアさんも普通じゃない。断言するよ、二人は特別だ」


 フェイルーン先輩とメルネス先輩も、わたし達が普通じゃないって言ってくる。

 相変わらずメルネス先輩の言動は大人みたいだけど今更だ。外見が大人なんだから全く違和感はない。詳しく説明してくれたのですごく助かった。

 ……でも、そっかー。普通は愛しあってても、小学生では結婚しないんだね……。


「先輩たちの言う通り、アリアちゃんたちは特別だよ。普通は付き合っててもそんなにベタベタしないよ。なんでそんなに大胆なの?」


 メルちゃんが目をギラギラさせながら息を荒くしてる。

 結婚学的には今の状態でも十分嬉しいらしい。すごくいい笑顔だ。

 ……わたし達が普通じゃないっていうのはわかったよ。でも、このままでいいのかな? 普通じゃなかったら目立っちゃうよね? 


「……さっちゃんは、わたしやさっちゃんが普通じゃなくてもいいの?」

「もちろん、普通じゃなくていいよ。普通じゃ私達は結婚できないからね。特別になって好奇の目で見られたとしても、アリアちゃんとすぐに結婚したいし愛しあいたいよ。アリアちゃんは?」

「……わたしも、普通じゃなくていい。さっちゃんと愛しあいたいから」

「ありがとう、アリアちゃん。愛してるよ」

「うん。わたしも愛してるよ、さっちゃん」


 ……うん。もう、普通とかどうでもいい。幸せだから全部どうでもいい。

 さっちゃんが強めにぎゅっとしてくれて耳元で「帰ったら、沢山愛しあおうね」と小声で言ってくれる。わたしの心は幸せでいっぱいだ。人前でスリスリ出来なくても、ぎゅっとしてくれて声を聞くだけでも十分幸せを感じる。


「……ほら、授業が始まるから戻って。次の休み時間も待ってるから」

「うん。また来るよ」


 時計を見ると鐘が鳴る時間だ。戻ろう。

 頭も心もスッキリしたし、次の時間からは集中できると思う。超優等生になる為にはしっかり頑張らないと。


「メルちゃん、戻ろう」

「はぁ、はぁ……うん。手を引いてくれると助かるよ」

「……」


 メルちゃんは上を向いて鼻をティッシュで押さえてる。鼻血が出たみたいで、つらそうに息をしていた。鼻血が出過ぎる病気? 癖? は継続中らしい。

 右手がふさがってるので左手を引いて教室に戻り、メルちゃんを席に座らせる。


「大丈夫? 保健室行こうか?」

「いい……。余韻に浸りたいから……」

「よいん?」

「アリアちゃんたち、さいこー……」

「そっか……」


 これはたぶん結婚学がらみだと思う。わたしにはさっぱりだ。

 もう授業が始まるし、本人がいいって言うならそっとしておこう。保健委員だし、つらくなったら自分でわかるよね?

 授業開始の鐘が鳴り、次の授業―――数学が始まる。

 さっちゃんの「特別でいい宣言」のおかげでしっかり集中できた。

 予習と復習をしっかりやっていたから、当てられてもちゃんと答えられて先生に褒められた。数学で褒められたのは初めてだったのでムズムズしたけど、ちゃんと前に進んでる感じがして気分はすごくいい。


「―――これで状業を終わります。アウレーリアさん」

「はい?」

「結婚して勉強が疎かにならないようで安心しました」

「はぁ……」

「ですが、少しでも成績が下がるようなら補習ですからね。子供は勉強が第一で結婚はまだ早いんです。本来は先生の年齢を追い越してからするもので、先生より先の結婚は―――」


 補習の話はなんとなくわかるけど、途中から話が変わってない?

 先生の年齢を追い越すって……無理じゃないの? お互いに誕生日くるし、成長するんだから。


「せんせーーー! もう鐘が鳴り終わってまーす!」

「……まあいいでしょう。この話はまた今度にしましょうか」


 メルちゃんとセレーティア先生の間で火花が散ってるように見える……。

 たしかこの二人、ピチピチの結婚学と行き遅れの結婚学で討論したんだっけ?

 わたしには想像のつかない世界だけど、二人の間では盛り上がってそうでなによりである。


「ほら、さっちゃんさんのところに行こう。行き遅れおばさんせいで遅れちゃってるよ」

「……うん」


 ……行き遅れおばさんって……。

 先生が聞いたら激怒すると思うよ。

 行き遅れには間違いないけど、みんなの前で言っていいことじゃない気がする。


「さっちゃん、お待たせ」

「会いたかったよ、アリアちゃん」

「うん、わたしも会いたかったよ」


 とりあえずさっちゃんのところに来た。

 結婚学に付き合ってたら時間がいくらあっても足りない。小休憩は15分しかないんだから有意義につかわないと。

 ―――でも。


「それでね―――」

「あ、もう鐘が鳴るよ。戻ろうね」

「……うん……」


 十五分なんてあっという間に終わっちゃう。

 わたしとさっちゃんだけじゃなく、三人の先輩たちも会話に入るから余計に短く感じる。一つか二つの話題だけで終わってしまうので、すごく物足りない。


「はぁ……」

「どうしたの? さっちゃんさんと会えたのに元気ないね?」


 教室に戻って来て、先生が来るまでのちょっとの時間にメルちゃんが話しかけてくる。

 メルちゃんは元気いっぱいで羨ましい。鼻にティッシュを突っ込んでなければすごく健康に見えると思う。


「十五分はあっという間だよね……。さっちゃんと全然話せてないよ……」

「あれだけベタベタしてて、まだ足りないの?」

「ベタベタはしてないよ……普通にぎゅっとしてただけだよ……」


 あれがベタベタなんてひどい誤解だと思う。

 膝に乗ってぎゅっとしてただけだし、スリスリも愛のマッサージもしてないんだから。


「あれで普通なんだ……。アリアちゃんたち、本当にすご……あ、また」

「鼻血?」

「う、ん……。想像したら……」

「お大事(おだいじ)に……」


 もう授業が始まるしそっとしとこう。

 これ以上鼻血が出たら絶対に保健室行きだと思うから。


「はーい、授業を始めますよー。席に着きなさーい」


 先生が入って来て、手をパンパンと叩いてみんなを座らせる。

 ……寂しいけど、今は授業に集中しよう。

 わたしの最終目標はさっちゃんのような超優等生。ようするに学年トップ。

 今の底辺からトップを目指すのは普通の努力じゃダメだ。もっとがんばらないと。

 ……そうだよ、普通じゃダメなんだ。普通の何倍も努力しないと……。

 なんで普通にこだわってたのかな? 特別でいいよね? 実際に特別だよね?

 結婚してるし、就職先が決まってるし、道場に入門するし、修行ノルマがあるし、千切り木刀を持ってるし……うん、全然普通の小学生じゃない気がしてきた。

 ……わたしは特別な小学生。もしかしたら、世界一特別な小学生かもしれない!

 そう思った瞬間、身体がすごく大きくなった気がした。頭の回転も速くなって賢くなった気がする。今ならなんでも出来る……そんな気がしてならない。


「ふふふふふふ……」

「ど、どうしたの?」


 今はもう授業中。ヒソヒソ話だ。


「わたしは特別な小学生だったんだよ、ふふふふ……」

「そ、そうだね、そう思うよ……」

「メルちゃんもそう思う? そうだよね? ふふふふ……」

「……また自分の世界に……」

「ふふふふ……」


 わたしは今、すごい万能感に包まれてる。

 黒板の文字も教科書の文字もスラスラと頭に入ってくるし、まさに何でも来いの無敵状態。社会学も数学もどんとこい! って感じ!


「ふふふふ……」

「アリアちゃん、授業終わってるよ」

「ふふふふ……」


 なぜか先生がいないけど、わたしの手は止まらない。

 ノートに写した内容を復習し、教科書めくって次のページに入る。


「ふふふふ……」

「もー! さっちゃんさんのところに行くよー!」


 メルちゃんがわたしの手を取ってどこかに連れて行こうとする。

 わたしは空いた手で教科書持って勉強を続行。特別な小学生の努力は特別なのだ。


「さっちゃんさん! アリアちゃんを戻してあげて!」

「メルティナちゃん、戻すって?」

「これ!」

「ふふふふ……」


 視界にさっちゃんが映る。

 ……さっちゃんは特別可愛い。わたしだけの特別なお嫁さん。

 そう、特別、特別なんだよ!


「ふふふふ……」


 さっちゃんは特別。わたしも特別。二人とも特別だからもっと特別。

 ……特別、特別、特別、特別……。


「もしかして、特別でいいって言ったのが原因かな?」

「たぶんそうだよ。特別がどうのって呟いてたし……」

「ゴメンね、迷惑かけちゃって。アリアちゃんを連れてきてくれてありがとう」

「うん、早く戻してあげて。このままじゃ愛しあえないよね?」

「……そうだね。アリアちゃん」


 ……ぎゅっとしてくれるといい匂いがする。すごく特別な、いい匂いが……。


「愛してるよ」

「わたしもだよ!」


 耳元で優しく告白されたのでビックリした。

 すごく愛のこもった言葉で、一瞬で脳内がさっちゃんでいっぱいになるほどビックリした。

 つい反射的に「わたしもだよ!」と叫んでしまうほどだ。さっちゃんはわたしをビックリさせるのがホントに上手い。

 ……ん? なんでビックリさせられたの?


「えっと、なんで急に告白を……」

「アリアちゃん」

「う、うん、なに?」


 さっちゃんが自分の膝の上にわたしを座らせ、両手をぎゅっと握ってくる。

 そして、顔を近づけて真剣な表情で見つめてきた。

 ……なんだろう……? なにか怒らせることしたっけ……?

 じっと見つめられるとドキドキしてくる。

 さっちゃんの目はキラキラの金色で、猫さんっぽい目をしてるからすごく可愛い。翼人さんや魚人さんも変わった目をしてるけど、わたしはさっちゃんの……この、猫さんっぽい目が一番好きだ。

 でも、真剣な目になるとちょっと怖くなる。思わずドキドキしてしまうほどに……。


「私たちは特別だけど、普通の小学生でもあるんだよ」

「え?」

「結婚してるし色々と訓練してるから、そういった意味では特別。だけど、大人から見たら何もできない普通の小学生なんだよ」


 ……うん、なに言ってるかよくわからない。

 わたしたちは特別だけど、大人から見たら違うってこと……?


「親がいなかったら生活できないし、ちゃんと働いたこともない子供。学校に通って勉強することしか出来ない普通の子供。だから、何でもできる特別な小学生とか思ったらダメ。子供は子供らしく、だよ」

「……うん……」


 なんとなくだけどわかった気がする。

 学校に来てるから普通の小学生ってこと、かな?

 どれだけ特別でも、所詮は普通の小学生だと……そういうことだよね?


「ふむ」


 話を聞いていたメルネス先輩が、なにかを納得したような声を上げる。


「ザナーシャさんの言うことも一理あるね。確かに、君たちは結婚してるし能力も高い特別な存在だ。しかし、こうして学校に来てるだけで普通の小学生とも言える。どこからどこまでが特別で普通か……。線引きの難しい問題だが、ザナーシャさんの考えも一つの答えと言える。しかし、違う考えとして―――」


 意味不明過ぎる。

 ……魚人さんって、たまに難しすぎることを言うんだよね……。

 鬼のネルソン先生も専門家みたいな言い方をする時があるし、みーちゃんも民兵さんの事を熱弁して意味不明になる時がある。魚人さんはあんまりいないからハッキリわからないけど、たぶん、みんな頭がよすぎるんだと思う。


「メルネスは難しく考えすぎですわ!」

「そうは言うが、我々は考えるのは止めてしまった時点で退化を―――」

「本当にっ! あなたはという人はっ!」


 フェイルーン先輩がメルネス先輩の胸に人差し指をぐりぐりしてお説教? してる。

 見た目20歳のメルネス先輩にここまで遠慮なく出来るフェイルーン先輩は流石だと思う。クラスメイトだからとかじゃないよね。さっちゃんの同級生がメルネス先輩に突っ込んでるのは見たことが無い。きっと、フェイルーン先輩の肝っ玉が据わってるんだと思う。

 それにしても、どっちも超絶美形だから夫婦喧嘩してるみたいに見えてなんだか微笑ましい。周りにいるファンクラブの人達の視線が凄いけど……。


「とにかく、難しく考えないでね。私たちは特別だけど普通の小学生。それだけだよ」

「うん、さっちゃんがそう言うならそう思うことにする」


 特別な普通の小学生。

 よくわからないけど、そういうことだと思うことにする。

 わたしはバカだから、さっちゃんやメルネス先輩みたいにちゃんと理解できない。

とりあえず、勉強については普通だと思うことにしよう。特別なのは結婚とか修行関係だけ。

 ……うん、スッキリ!


「ほら、次の授業が始まるから戻ろう。勉強頑張ってね」

「うん!」


 スッキリしたおかげで、4時間目は普通に頑張れた。

 メルちゃんはちょっと疲れた様な顔をしてたけど、たぶん気のせいだと思う。授業が終わるころには妄想ノートを見てニヤニヤしてたし。



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