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永遠のフィリアンシェヌ ~わたしと私の物語~  作者: 空知美英


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68話 限界



 落ち込んでしまったので頭から布団をかぶると「愛の匂い」がした。

 お風呂の残り香だ。

 勝手に強めてしまったお湯マッサージのせいでお湯に移ってしまった愛の匂い。

 布団を完全にかぶると匂いがハッキリわかる。


「さっちゃん……。サーシャ……。愛してるよ……」


 サーシャがいないので、枕を抱いて枕にスリスリする。

 本人は及ばないけど、愛の匂いのおかげでちょっとは気が晴れた。



 ―――アリア。


 さっちゃんの声が聞こえる。

 あ、呼び捨てにされてるから、今はサーシャだね。


 ―――アリア。


 やっぱり、呼び捨てにされるのもすごく嬉しい。愛情ゲージがグングン上昇してる。

 すごく、幸せだよ……。

 

「サーシャ、愛してるよ―――」


 抱きついていっぱいスリスリした。

 感触がちょっと違うけど、サーシャには違いない。だって、愛の匂いがするから。


「愛してる、愛してる、愛してる……」


 愛してると言うたびにサーシャの顔が笑顔になっていくから「愛してる」が止まらない。どんどん綺麗に可愛くなっていく。

 そして、服を一枚一枚脱いで全裸になった状態で「もっと恥ずかしいこと、する?」って―――。


「無理!!!」


 サーシャにはごめんだけど、その先は怖すぎる!


「あ、ごめんね、サーシャ……」


 目の前にはポカーン顔で固まった状態のサーシャがいた。

 ちゃんと服を着てるし、ベッドの横に立っている。


「あれ?」

「……おはよう、アリア」

「あ、うん、おはよう……?」


 よく見るとサーシャはスポーツウェアだった。そして、わたしがスリスリしていたのは枕だったらしい。

 ……わたし、枕に向かって愛してるを連呼してスリスリして、それをサーシャに見られてた? 恥ずかしいぃぃぃ!


「うぅぅぅ……」

「いっぱい愛してくれてありがとう、アリア」


 布団に顔をうずめているわたしを優しくぎゅっとしてくれてスリスリしてくれる。

 ……ホントにサーシャは優しい。

 これがお母さんとかお姉ちゃんだったら、見下したような目でバカにしてくるに違いない。


「雪は止んでるから、ランニングの準備をしようか」

「あ、止んだんだ」

「うん。私達が寝た後にすぐかな。広報車も走っていて外出制限の解除もしてたから、今日からはいつも通りだよ」

「そっか、残念……」


 臨時休校の夢は叶わなかったらしい。

 流石の領主様も、魔力が持たなかったのかな?

 昨日見た、水の女神さまのような現実離れした美女を思い浮かべる。

 雪魔術を使い、瞬間移動魔術を使っていなくなったわたし達の領主様。あの人なら、どんな不可能も可能にしそうな気がする。女神さまだし。

 魔力がなくなったんじゃなくて、雪魔術の必要がなくなったのかな?

 ……結局、どんな効果があったんだろう?

 ゼリー人形を凍らせるだけ……なんてことは絶対ないと思う。

 女神さまが使う大規模な魔術なんだから、わたしみたいな子供が想像もつかないような魔術に決まってる。


「ほら、準備しよう」

「うん」


 考えても仕方ないか。ノルマの準備しよう。

 サーシャに手伝ってもらって洗面と着替え、お風呂掃除を終わらせる。

 外に出ると雪は完全に止んでおり、夏の朝らしい清々しい天気だった。


「晴れてるねー……」

「そうだね。じゃあ、準備運動しようか」

「うん」


 サーシャの真似をしながら体を動かす。

 これだけでもちょっと汗がにじんでくる。今日はそれくらい暑い。今の時間でこれなら、昼とかはすごく暑くなりそうだ。


「あ、そうだ」

「なに、アリア?」

「ノルマのことなんだけど……」


 わたしは昨日思いついた、ノルマを一度で終わらせる案をサーシャに相談する。

 ……わたし一人なら2回に分けてギリギリだけど、サーシャと一緒なら愛のマッサージもあるし、一度で出来そうな気がするんだよね。

 一度で終われば朝か夜、どっちかは自由時間だ。サーシャと遊ぶのも勉強するのも気兼ねなくできる。


「……ってことなんだけど、どう思う?」

「うーん……」


 サーシャがわたしの身体を上から下まで観察して考えてる。

 わたしのことを大切に考えてくれてるサーシャが出す答えなら、それに素直に従おうと思う。勉強と運動に関しては、サーシャは超一流だと思うから。


「とりあえず、今日は1kmだけ増やして6km走ってみて、腕立てとかも5回増やして30回で様子をみようか」

「うん、わかったよ」


 いきなり10kmと50回は危険だから、ちょっとずつ増やして様子をみようって説明してくれた。サーシャが無理だと感じたら止めてくれるらしいので、お任せすることにする。


「じゃあ、いくよーーー!」

「マイペースでね」

「うん……」


 サーシャと一緒だとついテンションが上がってしまう。

 でも、しっかりと落ち着かせてくれるサーシャがいるから安心だ。

 走るコースもペース配分も全部やってくれるから、ホントに心強い。


「ひぃー、ひぃー、ひぃー……」


 6kmを完走した。ものすっごく後悔してる。やらなければよかった。

 なんで、10kmも走れるとか思ちゃったのかな? 自信過剰にもほどがある。

 わたしはちょっと運動が得意なだけの普通の小学4年生。朝からそんなに走れるはずがなかった。


「ちょっとリビングで休もうか。水タオルと飲み物を用意するよ」


 サーシャの肩を借りてリビングのソファーに横になる。部屋まで戻る元気もない。

 5kmと6kmでこんなに違うとは思わなかった。わたしの今の体力は5kmが生存ラインらしい。サーシャがいたからなんとか6km走れたような感じだ。

 ……まさか、お姉ちゃんはわたしの出来るギリギリのノルマを設定したのかな?

 一日2回5kmずつ。腕立て他を25回×2回。

 ……だとしたら鬼すぎる。

 わかってたよ。お姉ちゃんが優しいわけがない。わたしが生存できるギリギリのところを攻めてきてるに違いない。目を閉じると、お姉ちゃんがわたしを見下しながら悪魔の笑みを浮かべてるのが簡単に想像できる。

 ……回復したらゼリー人形を滅多切りにしよう。

 今のわたしに出来る復讐はそれぐらいだ。現実で逆らったら地獄投げされるからね。


「はぁー、はぁー……。だいぶ落ちついてきたよ。ありがとう、サーシャ」

「うん。本当にゴメンね、無理させちゃって」


 サーシャの介護のおかげもあって、15分ほどで起き上がれるようになった。

 水枕や水タオル、飲み物とマッサージ。わたしがこんな状態になった責任を感じてるみたいで、ホントに色々とやってくれた。

 ……ん? どうして5kmの時点で止めてくれなかったのかな?

 サーシャの観察眼なら、わたしの状態なんてわかってたはず。こんなに自分を責めて責任を感じるくらいなら、途中で止めてくれてよかったのに……。


「えっと、どうして5kmでこれ以上は無理だって言わなかったの? サーシャならわたしの状態くらい見抜いてたよね? なんで、そんなに責任を感じるまでわたしの無茶に付き合ってくれたの?」


 思い返してみると、5km過ぎたあたりからサーシャの様子が変わったような気がする。それまではわたしのちょっと前で先導してくれてたのに、5km過ぎてからはほぼ隣にいて、言葉と指差しで案内してくれてた。まるで、わたしがいつ倒れても支えられるように……。


「アリアに自分の限界を知っておいてほしかったら少し無理させちゃったの。何度でも謝るけど、本当にゴメンね」

「え?」

「出発前、10kmくらいだったら走れそうとか言ってたよね?」

「うん……」

「正直に言うけど、アリアにはそんなに体力はないよ。でも、アリアは頑張り屋さんだから、私の見てないところで無茶しそうで怖かったの。だから、私が見守れる状態で分かって欲しかった。自分はこんなに走れない、無茶は出来ないって」

「……」


 サーシャが真剣で心配そうな目でわたしを見つめてくる。

 ……そっか、わたしの為だったんだね……。

 サーシャのやることは全部正しくて全部わたしの為になる。今回は調子に乗ったわたしに限界をわからせたくて、こんな無茶に付き合ってくれたんだ。こんなに自分を責めることがわかってるのに……。


「サーシャ、ありがとう。もう無茶な事は考えないよ」

「分かってくれたならそれで十分だよ」

「これからはサーシャに任せていい? 距離とか回数とか」

「任せて。アリアの体力は私がしっかり管理してあげる」

「うん、お願い」


 これで今後は大丈夫。サーシャの言われた通りにノルマをこなしていけばいいだけだ。わたしはバカで調子に乗りやすいから、サーシャを信じて言われたことだけやってよう。


「ん、しょ……」

「起き上がって大丈夫? ノルマを続けるなら、もう少し休んでた方がいいよ」

「ノルマはまだしないよ。お姉ちゃんに仕返しをするだけ」

「え?」

「ゼリー人形を滅多切りにする。ノルマの怒りを込めて……」


 サーシャの優しが伝わってきた分、お姉ちゃんへの怒りがハッキリしてきた。

 今すぐに発散しないと暴走すると思う。

 ここで暴走したらお母さんのお説教が始まるので、絶対に暴走したくない。今だって、台所からバカにしたような目でわたしの様子を監視してる。これ以上機嫌をそこねたら大変なことになる。


「えっと、木刀……」


 木刀を探して置いてあるはずの部屋の隅を見る。


「あ……」


 部屋の隅に置いてあるのは折れた木刀だった。

 ……そうだった。わたしのゼリー人形のせいでサーシャが折っちゃったんだよね。

 正確には女神さまが凍らせたせいだけど、魔術がおかしかったからここに来たって言ってた気がする。


「ゴメンね、私が折っちゃって」

「サーシャのせいじゃないよ。木刀がないなら……」


 どうしよう……?

 包丁とか使ったらお母さんの怒りが爆発しそうだし、振り回せるものが思いつかない。庭を見ても小さな木の枝しか落ちてないし、あたりを見ても何もない。


「うーん……」


 とりあえず、目の前にゼリー人形を出してどうやって怒りを発散するか考えよう。

 庭に出たわたしはゼリー人形の魔術を使う。


「ゼリー人形」


 ぷるん、ぷるぷる……。


「さて、どうしよう……」


 目の前にはお姉ちゃんがいて、悪魔の笑みを浮かべながらわたしを見下してる。

 ……わたしを挑発してる?

 そう思えてならない。「かかってきなさい、ほらほら(笑)」って言われてる気がしてきた。そっちがその気なら―――。


「てっっっりゃーーー!」


 顔面パンチした。思いっきり。

 ただ目の前の悪魔を懲らしめる。その想いと怒りだけで。

 わたしの全身全霊の全力パンチ。今出せる最強のパンチ。これ以上のパンチはないというくらい、過去最強の完璧なパンチ。これならお姉ちゃんでも……。

 

 ボンッ!


「ほえ?」


 パンチしたゼリー人形の頭が後ろにはじけ飛んだ。爆弾みたいに。


「ア、アリア……」


 サーシャが驚いた目でわたしを見てる。わたしはそれ以上に驚いてるけど。

 だって、ただのパンチだよ? てっきり「ぶよん……」みたいな感じで突き抜けるだけだと思ってた。なんで爆発したの……?

 元通りに戻るゼリー人形とわたしの手を見比べてると、意外な人が庭に入ってきた。


「いやー、アリアちゃんさぁ、何してんの? これ以上の面倒事は起こしてほしくないんだけど。私を過労死にでもさせたいの?」

「ユリ姉さん……」


 庭に入ってきたのはユリカさんことユリ姉さん。普段は首都にいるはずの人。

 ……こんなに朝早く、なんでここにいるの?

 学校で会った時のような正装スタイルに、なぜか木刀と買い物袋を持ってる。相変わらず突っ込みどころ満載で意味不明過ぎる。


「アリアちゃんは相変わらず分かりやすいねー。あ、これはプレゼントね」


 そう言って木刀を渡してくれた。

 ……プレゼント? なんで?

 木刀は折れたばっかりだったのでありがたいけど、なんでこんなにタイミングがいいんだろう……?


「木刀は領主様からのお願いで持ってきたんだよ。その木刀も領主様からのプレゼント。お詫びってことだから、遠慮なく受け取ってね」


 ……ホントにいいのかな? こんなに高そうな木刀……。

 前の木刀と違って手触りがすごくよくてしっかり握れる感じがする。形もシズカさんが持ってた刀っぽい。握る所のちょっと上から先の方まで綺麗な模様も入ってるし、いかにも職人さんが手間をかけて作りましたって感じ。お店では鍵付きの商品ケースに入って売ってそう。


「ほえー……」


 わたしが呆然と高級木刀を見てるとユリ姉さんが溜息と共に「その木刀、本当に渡しちゃってもいいの……?」とか独り言の様につぶやいてるのが聞こえた。


「あ、やっぱりこれって、普通の木刀とは違うんですか?」


 見るからに高そうだし、前の木刀の代わりだとしたら貰い過ぎな気がする。


「気にしないでいいよ。でも、さっきのを見ちゃうと「今渡すのちょっとどうかな?」って思うけどね」

「さっきの?」

「さっきの攻撃。ゼリー人形の頭を吹っ飛ばした攻撃だよ」


 色々と聞きたいことや言いたいことはあるけど、とりあえずはさっきの爆発パンチのことを聞こう。あれって絶対に普通じゃないからね。

 わたしの失敗談が追加される前にちゃんと聞いておこう。



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