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永遠のフィリアンシェヌ ~わたしと私の物語~  作者: 蒼依スピカ


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50話 家族



「アリア、ジュースとお菓子が心残り?」

「う、うん、ちょっとね……」


 流石サーシャだ、わたしの考えてることをわかってる。


「私、アリアとしてみたかったことがあるんだけど、いい?」

「ジュースとお菓子で?」

「うん」

「いいよ、なんでもやるよ」


 サーシャのお願いは何でも聞く。

 その考えは変わらない。

 愛に気付いてからは余計にその気持ちが強くなった。

 愛したい、幸せを感じてほしい……心の底からそう思う。


「じゃあ、ん……」


 サーシャがお菓子をくわえてわたしの口に近づけてきた。

 え? これって、あーん?

 ……これ、あーんの進化系だ。

 恋人がカフェでやってるのを見たことがある。

 その時はすごく恥ずかしかった。この人達、こんな所でなにやってるんだろうって……今なら気持ちがわかる。

 愛してる、愛されたい、もっと近くに感じたい……場所とか時間は関係ないんだ。だって、幸せな気持ちがあふれてるから……。


「いただきます、ん……、んぐんぐ、美味しいよサーシャ」

「嬉しい……夢が一つ叶ったよ……。ジュースもいい?」

「うん」

 

 これがサーシャの夢だったんだ……。

 そうだよね、6年間もわたしを愛してくれてたんだから、ずっと恋人みたいなことに憧れてたんだよね。わたし達は恋人にならずに夫婦になったんだから、恋人らしいことは全くしてない。サーシャは今までずっと、恋人になった時の夢を膨らませていたに違いない。

 ……いいよ、全部やる。サーシャの夢……恋人になったらやりたかったこと、全部やる。幸せになってほしいから。


「次はこれ」


 一つのコップに2本のストローをさした。

 これも見たことがある。

 ホントに、恋人同士がやることそのままだ。


「うん、一緒に飲もう」

「うん」


 二人で一つのコップを持って二人で飲む。

 嬉しい……幸せだよ……。

 サーシャがしたいことは、わたしも幸せを感じるみたい。

 ……いっぱい恋人らしいこと教えてね、サーシャ……。


「……ごちそうさま」

「私、アリアと出会えてホントによかった……私の夢を全部叶えてくれる……」

「うん、わたしもサーシャと出会えてよかったよ。幸せをいっぱい教えてくれるから……」

「アリア……」

「サーシャ……」

「……二人とも、日が暮れるわよ。行きましょう」

「はい……」「うん」


 また時間を忘れるところだった……。

 お義母さんは優しいね。終わるまで待っていてくれたんだ。

 ……いいなー、いいお義母さんだよ。

 うちのお母さんだったら、いつまでやってるの! とか言って途中で怒られると思う。


「……二人とも、ずっとその状態で来たの?」

「はい」「うん」


 玄関を出てすぐに、わたしはサーシャの胸に横から抱きついた。そしてサーシャが肩を抱いてくれる。

 サーシャへのいじわるや陰口がなくなるまで、外出時はこの状態でいるつもりだ。

 今朝のことは学校の外にまで広がってるのか、住宅街に入ってもわたし達は周りから見られ続けた。だからずっとくっつく。この視線がなくなるまで。


「ただいまー」

「おかえり。あら、フーシャさん、こんにちは」

「こんにちは、クレアさん。少しお話したいことが出来てお邪魔しました。急で御免なさい」

「気にしないで下さい。どうせ馬鹿娘がまた迷惑をかけたんでしょうけど……とりあえず、あがってください」

「失礼します」


 やっぱりお母さんはお母さんだ。

 わたし達の雰囲気を全く察してくれないし、わたしが迷惑をかけたと断定してくる。お義母さんとは正反対の野蛮人だ。


「……と言う訳で、サーシャと結婚したから。まだ事実婚? 状態らしいけど、いいよね?」

「いいんじゃないの。さっちゃん、これからもアウレーリアのこと、よろしくね」

「はい」


 ……え、終わり? 感動の抱擁は?

 そっけなさ過ぎて拍子抜けだよ……。


「……サーシャがうちに住みたいらしんだけど……」

「ええ、わかってるから、あんたは何もしないでいいわよ」

「そっか……」

「フーシャさんとお話があるから、あんたは適当に遊んでなさい」

「……うん」


 もういいよ、あきらめた。

 わたしがしらないうちに全部の準備が出来てて決まってる流れだったんだ。

 だから慌てないし感動もしない。全部しってたんだから。

 わたしとサーシャが結婚してこの家にすぐに住む……お母さん達の間では当たり前のことだったんだ。わたしだけが仲間外れにされてた……。

 ……悔しいよー、寂しいよー……。


「サーシャー、わたしだけ仲間外れなんてひどいよー。一緒に準備とかしたかったー……」


 サーシャの胸に抱きついてグリグリする。精一杯の悔しさアピールだ。


「ゴメンね。私も急に結婚したくなったり、すぐに一緒に住みたくなったりするとは思わなかったから。前にも言ったけど、独り立ちしてからちゃんと考えるつもりだったの」

「そう言えば、そんなことも言ってたね……」

「アリアが悪いんだよ、私に溢れるほどの愛をくれたせいで我慢できなくなったんだから」


 そうだった……癒しの氷で気持ちが爆発して、わたしがプロポーズ? をしたから急に結婚ってことになったんだった……。


「ホントの予定では、独り立ちするまでに徐々に気持ちの整理をつけて、周りの環境を整えて、アリアにもちゃんと説明していくつもりだったんだよ。仲間外れなんかにしてない。時期が来るまで、私が気持ちを隠して押さえる為にみんなが協力してくれただけ。もう気持ちを隠さないから大丈夫。アリアを信じてるから、愛してるから、なんでも話すよ。……許してくれる?」

「うん、許す、愛してるから……」

「ありがとう。愛してるよ、アリア」

「うん、愛してる、サーシャ」


 ……全部許す。準備のことも、気持ちを隠してたことも全部。

 わたしの為だったと思うから。


「私の部屋を見せてあげる」

「え? もう決まってるの?」

「準備が出来てるって聞いてたよね」

「うん……」

 

 サーシャとお義母さんが準備の確認をしてて、「準備は出来てるって」言ってた。

 お母さん達も協力してるとは思ってたけど、まさか部屋まで決まってるとは……。

 空き部屋なんかあったかな? わたしとお姉ちゃん、お母さん達の部屋、それに倉庫……全部埋まってると思う。

 わたしは、サーシャが家族になって一緒に住むことになったら、お姉ちゃんを追い出してその部屋を使ってもらうつもりでいた。悪魔のお姉ちゃんより、天使のお姉ちゃんがほしかったから。

 うーん……お姉ちゃんの部屋にサーシャも住めるようになってるとか?

 ありえそう……お母さんがしってるってことはお姉ちゃんもしってるはず。家族一丸となってサーシャの同居の準備をしてたに違いない。

 お姉ちゃんが家からいなくなるかもしれない……ふふふ、嬉しいよ。

 スリッパ折檻と地獄の投げ技から解放されると思うと嬉しくなる。


「ここだよ」

「え、ここ? ここって倉庫だよ」


 わたしの部屋の向かい側の部屋。開かずの倉庫。

 大切なものが入ってるから絶対に開けちゃダメって言われてる部屋。

 わたしが開けると、大切なものが壊れる可能性があるから絶対に開けちゃダメって言われてる。

 鍵もかかってるし、そういうものなんだと思って気にしないでいた。

 ……ここ?

 鍵は……あ、普通に持ってるんだね……。


「どうぞ」

「うん……これって……サーシャの、部屋?」

「ビックリした?」

「うん……」


 これって、サーシャの部屋だ。

 サーシャの自宅のサーシャの部屋。

 広さは違うけど、ベッドや棚、タンスとか全部が同じもので同じ配置。

 自分の家じゃないみたい……サーシャの家に遊び来た感覚になる。


「私が6歳の頃にこの部屋を自由に使っていいって言われたの。いつでも住んでいいからねって。……あの時は気持ちを押さえるのが大変だった。すぐにでもここに住みたかったし、ずっとアリアの近くにいたかった」

「うん、わかるよ、その気持ち……」


 サーシャを愛してる今なら気持ちがすごくわかる。

 ずっと近くにいたいし、一緒に住みたい。

 朝から晩までずっと一緒にいたい……この気持ちを6年間も我慢、か……。


「すぐにでも住みたかった……でも、私の気持ちの整理もついてなくて、アリアの家族にも出来るだけ迷惑をかけたくなかった……すでにいっぱい迷惑をかけてたから……。だから、気持ちの整理をしながら家具を全部自分で用意することにしたの。お小遣いを貯めて、少しずつ家具を揃えていったんだよ。大人になって、アリアと結婚出来たらにすぐに住めるようにって。ここまで揃えるのに6年もかかったけど、今日の記念日にギリギリ間に合ってよかった。やっとこの部屋に、アリアの近くに住める……幸せだよ」


 ……6年間で家具を揃えた? 自分のお小遣いで?

 わたし、サーシャのことをすごい節約家で貯金が大好きな女の子ってずっと思ってた。子供なんだから、もっと自由に使えばいいのにっていつも思ってた。

 可愛い服を買って、可愛いアクセサリーをたくさん身に着ければいいのにって……。

 全部、我慢してたんだ……この部屋の為に……わたしと一緒に住む為に……。


「この部屋で、アリアと一緒にしたいことがあるんだ。今、いいかな?」

「……うん」

「こっち来て」


 ベッドの前に来た。

 サーシャの自宅にあるベッドと同じもの。

 ……このベッドってすごく高いよね、お小遣い数か月分とかじゃ絶対に買えない。

 サーシャの努力と気持ちの結晶のベッド……。

 わたしをどれだけ愛してるか……その気持ちがベッドから伝わってくる気がする……。


「せーのっ!」

「はえっ!?」


 サーシャに抱きつかれてベッドにダイブした。

 ぎゅってしてくれる、すごく明るく、楽しそうな笑顔で……。

 他の人がいる時は感じないけど、二人きりになるとすごく明るくなるみたい。

 明るくて、イタズラ好きで、甘えんぼ……今までのサーシャじゃない、新しい顔。

 ……違うか……これがホントのサーシャなんだ。わたしを愛してくれてるサーシャのホントの顔。今までは隠して我慢してたけど、結婚したから全部を見せてくれてる。

 わたしだけに見せてくれる特別なサーシャ……嬉しいよ……。

 

「アリア、愛してるよ」

「わたしも愛してるよ、サーシャ」

「夢がまた一つ叶ったよ……。このベッドで抱き合いながら愛してるって言い合うの。ずっと夢見てた……。こんなに早く夢が叶うなんて思ってなかった……幸せだよ……」

「うん、わたしも幸せだよ」


 6年間の気持ち、6年間の努力、6年間の夢……。

 わたしがただの友達として接してきた時間、サーシャは気持ちを押さえて我慢してきたんだ。

 ……サーシャはきっと、わたしが思ってるよりわたしを愛してくれてる。

 どうやったら、その気持ちに答えられるのかな……。


「サーシャ、他に夢はないの? 何でも言って、叶えてあげるから」

「……いっぱいありすぎるから、今はいいよ。ゆっくりと、一生かけて叶えてもらうから。……アリアの夢はなに? 出来ることがあれば何でもするよ、言ってみて」

「わたしの夢は……」


 ……何だろ?

 わたしの夢はサーシャとずっと一緒にいること。

 サーシャみたいに具体的な夢は何もない。

 あとは……サーシャに幸せになってほしい……くらいかな?

 ……うん、それしかない気がする。


「夢は、サーシャとずっと一緒にいてサーシャに幸せになってもらうこと、かな……」

「そっか……私の一番の夢が、アリアとずっと一緒にいてアリアに幸せになってもらうことだから似てるね……」

「……ずっと一緒にいて愛し続ければ、両方の夢が叶うってことかな?」

「ふふ、そうかもね……愛してるよ、アリア」

「愛してるよ、サーシャ」


 ずっと同じことを繰り返し言ってる気がする……。

 何回愛してるって言ったかな……。

 ちょっと前に愛がわかったばかりなのに、もう口から自然に出る。

 同じことしか言ってないのに全然飽きないし、幸せしか感じない。 

 たぶん、一日中言い合ってることが出来ると思う。

 それだけでも幸せだから……でも、サーシャをもっと幸せにするには努力しないとダメだ……。


「……道場、忘れてたよ……」

「私も。幸せ過ぎて忘れちゃってた……行こうか」

「うん」


 リビングに戻るとお母さんたちが談笑してた。

 わたし達の今後のことを話してると思ってたけど、普通に晩御飯の話をしてた。

 娘が結婚したとか一大事だと思うんだけど、お母さんにとっては晩御飯の方が大事なのかな……。


「あら、もういいの? 新婚さんなんだから、もっとゆっくり話してればいいのに」

「……いい。これから道場に見学に行ってくる。ユリ姉さんと待ち合わせしてるから」

「そうなの? じゃあ、いってらっしゃい」

「……いってきます」


 普通過ぎるよ……。

 サーシャとお義母さんみたいな感動の場面が全くなかった。

 一度も「おめでとう」とか言ってくれなかったし、どうなってるんだろう……。

 娘の人生最大級のイベントをぞんざいに扱い過ぎじゃないかな……。


「わたしって、お母さんにどう思われてるのかな……」

「愛されてると思うよ」

「愛されてるっていうのは、サーシャの家族みたいなことをいうんだよ。娘が結婚したのにそっけなさ過ぎるよ……」

「ふふ、愛って色々なんだよ」

「愛は色々? どういうこと?」


 愛は愛だよね。

 サーシャとお義母さんの関係みたいな愛は全く感じないよ?


「私のお母さんは優しく愛してくれてるけど、アリアのお母さんは厳しく愛してくれてるんだよ」

「……厳しい愛なんていらないよ……」


 厳しい愛なんてただ厳しいだけだと思う。全く嬉しくない。

 優しい愛がほしい……そっちの方がずっと嬉しい。


「私はアリアの家族に憧れてたけどね……家族になれて嬉しいよ」

「え? あんな鬼家族がいいの?」


 お母さんはお説教が長くてお風呂掃除させてくるし、お姉ちゃんはすぐにスリッパ折檻してきてキレると地獄投げしてくる……なにがいいんだろう?


「クレア母さんも、お姉さんも、アリアのことをすごく大切に想っていて信じてるから憧れるよ」

「あれで?」

「うん。アリアは自覚がないかもしれないけど、すごく大切にされてるよ」

「そうかなー……」


 大切って言葉と、お風呂掃除とスリッパ折檻が結びつかない。


「私がアリアの横にいられて結婚できた……それが大切に想われてる証拠だよ。あ、もう着いたね」


 ……サーシャと結婚出来たのは、サーシャがわたしを愛してくれてるからだよね? お母さん達がわたしを大切にしてるとか関係ないような気がする……。

 うーん……同居の準備みたいに、わたしのしらない関係がサーシャとお母さん達にあるのかな……。

 


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