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永遠のフィリアンシェヌ ~わたしと私の物語~  作者: 蒼依スピカ


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追憶4 運命の出会い。3日目①



 お互いに、すごい、ありがとう、大好き、愛してるってずっと言いあってる。夢に見た生活が目の前にある。


 こんな夢みたいな生活が、永遠に続けばいいのに……。


「……そうだよ、夢、だよね……」


 目が覚めると朝になっていた。

 自分の部屋だしアウレーリアちゃんはいない。


「会いたいよ……」


 夢に出てきてほしいとは思ったけど、恋しくなるほど強烈に出てこられたら困る。すぐに会いたくても会えないんだから……。


「アウレーリアちゃん、どこ?」


 辺りを見渡してもいないし、声をかけても答えてくれない。

 ……寂しい、会いたいよ。

 顔が見たい、声が聴きたい、匂いを嗅ぎたい……今すぐに。

 

「会いに行こう……」


 時計を見ると朝の3時過ぎだ。

 まだ寝てるよね……でも、我慢できない。

 今すぐにアウレーリアちゃんに会いたい。

 お母さんはもう起きてる。今すぐに会いたいって言ったらきっと止められる……。

 だから窓からこっそり家を出た。

 裸足でも構わない。アウレーリアちゃんに会えれば痛みなんて関係ない。


「……チャイムは迷惑だよね……窓からこっそり入る?」


 泥棒みたいだけど、アウレーリアちゃんなら許してくれる。

 窓……窓……窓……。

 リビングの窓が空いてる……。


「……お邪魔します」


 小声で断って中に入る。

 みんな寝てるみたいだった。

 アウレーリアちゃんの部屋の扉をそっと開ける。

 ……いた、アウレーリアちゃん。横でお姉さんが寝てる。

 ……顔が見れただけでも嬉しいよ。すごく落ち着く……。


「……」


 ……私、なにやってるんだろう……。

 これじゃ泥棒なうえに変態だ。

 友達とはいえ、勝手に部屋に入るなんて……しかも、早朝のみんなが寝てる時間に……。

 帰ろう……。アウレーリアちゃん、お姉さん、ごめんなさい。

 心の中で謝罪して扉に向かう。


「ザナーシャちゃん、待って」

「!?」


 振り返るとお姉さんがベッドで手招きしていた。

 ……そうだよ、お姉さんみたいな強い人が侵入者に気付かない訳がない……。きっと、私が家に入った時点で気付いてる……。


「……ごめんなさい」


 これって立派な犯罪だ、衛兵に突き出されても仕方ない。

 謝って済むわけじゃない。

 なんで、こんなことしたのかな……。


「いいよ、アウレーリアに会いたくなったんでしょ、一緒に横になろう」

「でも……勝手に入ったのに……こんな、泥棒のような真似……」

「いいって。とりあえずベッドに入って一緒に横になろう。今のアウレーリアは叩いても起きないから大丈夫だよ」

「……はい」


 アウレーリアちゃんをお姉さんと挟み込む形でベッドに入る。

 寝顔が可愛いい……けど、今は罪悪感でいっぱいだ……。


「アウレーリアが夢に出てきて寂しくなっちゃったかな?」

「……はい」


 すごいな、なんでわかるんだろ……。

 人生経験ってものなのかな……。


「この時間はちょっと早いけど、あと30分くらいでお母さんが起きてくるかな……。その時であればいつでも来ていいからね。お母さんが起きてれば玄関も開いてると思うから、勝手に入ってきていいよ」

「……なんで、ですか?」


 なんでこんなに親身になってくれるんだろう。クレアおばさんも、お姉さんも……。

 1日~2日くらいしか話してない赤の他人なのに、どうしてそんなに信用してくれてるの……。


「なんで、か……。ザナーシャちゃんがアウレーリアを大切に想ってくれてるから、かな」

「……それだけ、ですか? それだけで、赤の他人の私を信用してくれるんですか?」

「それで十分だよ。そんな友達は今までいなかったからね……お母さんも私も嬉しいんだ」

「え?」


 優しくて明るいアウレーリアちゃんが大切に想われないなんてことはないと思う。

 公園でもずっと誘われてたし、あの子達なら大切に想ってると思う。


「一緒に公園に行ったんだよね? 周りの子はアウレーリアの友達に見えた?」

「はい、ずっと遊びに誘われてましたし……」

「あの子達は友達に見えるけど、本当の友達じゃないよ。アウレーリアのことを大切に想ってない、見せかけの友達」

「え?」

「まあ、まだみんな小っちゃいから仕方ないけどね……」


 友達だけど友達じゃない、見せかけの友達……意味がわからない……。

 友達は友達、だよね?


「アウレーリアがしつこく遊びに誘われる理由はね、都合がいいからだよ」

「都合がいい?」

「この子、運動神経はいいんだけど、馬鹿で素直過ぎるから玩具にされるんだ」

「玩具にされる……」

「そ、都合のいい玩具。あの子達が楽しくなる為の玩具」


 楽しくなるための玩具……ホントに意味がわからない。

 アウレーリアちゃんは一生懸命に遊ぼうとすると思う。それって、みんな楽しいことだよね?


「この子と鬼ごっこをしたんだよね? どんな感じだった?」

「……捕まるはずがないのに、ずっと追いかけてきてました」

「いつもそうなんだ。捕まるはずがないのに追いかける。ザナーシャちゃんだけじゃない、他の子達でも同じ」

「……アウレーリアちゃんは足が速いですよね。私は無理でも、他の原人の子供なら捕まえられると思いますけど……」


 最初にアウレーリアちゃんが逃げた時は足の速さに驚いた。あの速さなら、普通の子には追いつけると思う。


「運動神経はいいけど、馬鹿で素直過ぎるって言ったよね」

「はい……」

「この馬鹿は、1人を追いかけてる最中に他の子達から「こっちこーい」とか呼ばれるとそっちに行っちゃうの」

「は?」

「捕まえる前に他の子に呼ばれてそっに行く……ずーっとそれの繰り返し。相手は同じ子供だし、この子が楽しんでるからお母さんも私も止めないけど、見てると両方にイライラするんだよね。あのクソガキ、この馬鹿妹って……」


 それってアウレーリアちゃんが可哀そう……。

 あの笑顔で一生懸命に追いかけてるのに、捕まえる前に違う子に呼ばれてそっちを追いかけちゃう……。

 ずっとその繰り返し……そんなの遊びじゃない、いじめだ。

 自分たちが楽しんでるだけ。アウレーリアちゃんを馬鹿にして楽しんでるだけ。

 ……都合のいい玩具……その通りだよ。


「かくれんぼも同じ。この子が「みーつけた」って言って見つけると、「いないよー」とか言われて「そうなんだ」とか言って他の子を探しに行く。本当に馬鹿だよね。他の子はそれが楽しくて面白い、だから遊びに誘うんだよ」

「ひどすぎます……アウレーリアちゃんが可哀そうです……」


 あの笑顔が、優しが、素直さが玩具にされてる……。その光景を考えるだけで胸が苦しくなる、涙が出てくる。


「ザナーシャちゃんは本当に優しくていい子だね。アウレーリアのことを真剣に考えて大切に想ってくれてる。だから信用できるんだ、家族と同じくらいにはね。ほら、馬鹿なアウレーリアを慰めてあげて」


 お姉さんがアウレーリアちゃんを私の方に動かしてきたので、私は抱きしめて頭を撫でてあげた。

 

「私が守ってあげる……アウレーリアちゃんを玩具になんかさせない。笑顔も優しさも素直さも、私がずっと守る……」

「ありがと。これからも、アウレーリアのことをよろしくね」

「はい」


 私の幸せ、アウレーリアちゃん。

 アウレーリアちゃんの幸せのため、私の幸せのため、両親の幸せのため、私が守る。


「……落ち着いた? じゃあ、そろそろおうちに帰ろうか。ご両親も心配してるよ」

「……はい」


 部屋を出るとクレアおばさんが待っていて手紙をくれた。私が両親に怒られないようにって……。

 お姉さんもクレアおばさんもすごく優しい……。

 泥棒まがいのことをした私を許してくれて心配してくれる。

 アウレーリアちゃんだけじゃない、みんなが優しい。みんなが私に幸せを教えてくれる。


「ザナーシャちゃん、裸足で来ちゃったの? これあげるから履いてって。返さなくていいから」


 お姉さんが昔使ってた靴をくれた。

 ……大切にしよう。今日の後悔を忘れないために……。


「すいませんでした、失礼します」

「また来てね。あ、今日の昼にまた来てくれるんだったわね。お菓子とジュースを用意して待ってるわ」

「ありがとうございます、クレアおばさん」

「気を付けて帰ってね」

「はい」


 家に帰ると、お母さんは普通に「おかえりなさい」って言ってくれた。

 素直に全部を話して謝った。

 窓から抜け出し、アウレーリアちゃんの家に忍び込んだこと。

 

「ザナーシャ」

「……」

「今回は相手のご家族が許してくれたけど、一歩間違えれば大変なことになっていた……分かるわね?」

「うん」


 他人の家に勝手に忍び込む……立派な犯罪だ。

 アウレーリアちゃんなら許してくれる……そんな甘いことじゃない。


「あ母さんもお父さんも、あなたとアウレーリアちゃんのことは全力で応援するけど、犯罪だけは駄目。それではみんなが不幸になるだけ」

「うん……」


 あの時の私は普通じゃなかった。

 アウレーリアちゃんに会う事しか考えてなくて、全部を自分の都合のいい方に考えて馬鹿な行動をした。


「夢に出てきてすぐに会いたくなった……どうしてお母さんに相談しなかったの?」

「止められると思ったから……」

「そうね、止めたと思う。でもね、その気持ちを無視したりしないわ」

「え?」


 どういうこと? 止めるけど、気持ちを無視しない? 


「お母さんはこう答える。じゃあ、アウレーリアちゃんの家にお引っ越しして、一緒に住むのはどう?って」

「お引っ越し、一緒に住む……」

 

 嬉しい。でも、アウレーリアちゃんの家族に迷惑だし、両親とも離れたくない。


「あなたはとても賢くて優しい子だからきっとこう考える。一緒に住めるのは嬉しいけど、相手の家族の迷惑になるって」

「うん……」

「それで落ち着けない?」

「……落ち着ける」


 なんで、お母さんに相談しなかったのかな……。

 私とアウレーリアちゃんの仲を応援してくれるって言ってくれてたのに、心のどこかでそれを信じてなかったのかもしれない……。

 今度からはちゃんと相談しよう。お母さんは絶対に私を不幸にしない。


「お手紙には、4時以降であればいつでも会いに来てくださいって書いてあるけど……」

「行かない、我慢する。アウレーリアちゃんの家族に迷惑をかけたくない」


 クレアおばさんもお姉さんも、きっと笑顔で迎えてくれる。でも、我慢する。

 その気持ちにずっと甘えてたら、行き過ぎた行動を……今日よりも大きな犯罪を起すかもしれない。

 今回も、私が甘えすぎてたから我慢できなかったんだ。

 だから我慢する、気持ちを押さえる。

 

「お手紙にはこんなことも書いてあるわ……」

「なに?」

「「ザナーシャさんが望むなら、うちで預かります」、と」

「!?」


 私がアウレーリアちゃんの家に住むことを、クレアおばさんも考えてくれてる?

 あの家に住める……冗談じゃなくて、本気で……。


「どうする、本当にアウレーリアちゃんの家にお世話になる? お母さんはあなたの意見を尊重する。相手の家族にも極力迷惑にならないように生活費は出すし色々な援助もする。……相手の家族は受け入れてくれてる。あとは、あなたの気持ち次第よ」


 アウレーリアちゃんと一緒に住める……。

 ずっと一緒だから我慢しなくていい……。

 アウレーリアちゃんの家族に誘われてる、お母さん達も協力してくれる……だったら……。


「どうする、ザナーシャ?」

「……行かない……」


 目の前のお母さんの優しい笑顔……離れたくない。

 アウレーリアちゃんは大好き、一緒に住みたい、ずっと一緒にいたい。でも、それと同じくらいにお母さんも大好きだし大切にしたい。

 今離れたら、両親との繋がりが薄くなるような気がする。それはヤダ……。


「アウレーリアちゃんと一緒に住みたいよ……でも、お母さんも大好きだから、行かない……」

「お母さん、アウレーリアちゃんと同じくらいに愛されてるのね」

「うん……」

「お母さんはあなたの意見を尊重する、今は家族で一緒に暮らしましょう。でもね、近い将来、アウレーリアちゃんへの気持ちが大きくなって、お母さんと一緒より、アウレーリアちゃんと一緒にいたいって思ったときは我慢しないで言うのよ。精一杯応援するし、どんなことでも協力するから」

「うん、ありがとう、お母さん」


 今は我慢する、気持ちを押さえる……それでいい。

 アウレーリアちゃんに会えなくなるわけじゃない、ちょっと歩けばすぐに会える。

 夢に出てきても、我慢してから会えばうれしさも増す……そう考える。


「じゃあ、この話はこれで終わり。少し早いけど朝ごはんにする?」


 時計を見ると、もうすこしで5時になるところだった。朝ごはんにはちょっと早い。


「……外を走って気分を入れ替えてくる」

「わかったわ……無理はしちゃ駄目よ」

「うん」


 無心で走った。

 何処を何km走ったかわからない。

 自分の体力を無視してスピードを上げて限界まで走った。


「はあ、はあ、はあ……」


 久しぶりに息が切れたような気がする。

 そして……気が付いたらアウレーリアちゃんの家の前にいた。


「はぁー……。私って、ダメだな……」


 我慢する、気持ちを抑える……そう思ってもここに来てしまった。

 無意識でもここに来てしまう……病気みたい。

 アウレーリアちゃん依存症、とか?

 はは、なに、その嬉しい病気、治らなくていいよ。

 ここに住む……憧れる……。いずれは住みたいけど、今じゃない。

 私の気持ちが落ち着いて、アウレーリアちゃんの気持ちがちゃんとしてから。

 愛して愛されて、家族に迷惑がかからないように……みんなが幸せになれるように……。


「せっかくだし、お手紙のお礼を言っておこうかな……」

「この気配はやっぱりザナーシャちゃんだったか。さっきぶり、おはよー」

「あ、おはようございます……」


 お姉さんが庭から出て来た。

 部屋着ではなく白い道着を着ていて汗をかいてる。

 庭で稽古をしていたんだと思うけど、柔術の稽古って1人で出来るのかな?

 お姉さんくらいの強さになると、稽古とかすごそうだけど……。


「お母さんから聞いたんだけど、うちに住むかもしれないんだって? 住むの? 歓迎するよ。アウレーリアのお世話係が増えるのは大歓迎だし、あの子も喜ぶよ」


 アウレーリアちゃんのお世話……嬉しい、すごくしたい。

 起して、着替えさせて、ご飯を食べさせて、お風呂に入れて……想像しただけで幸せな気持ちになる。でも……。


「今回はお気持ちだけ受け取っておきます。今は家族と一緒に暮らしたいので……」

「そっかー残念。うん、お母さんにも伝えておくよ。気が変わったらいつでも言ってね、部屋は開けとくからさ」

「ありがとうございます。……失礼します」

「ん? アウレーリアの顔は見てかないの?」

「さっきいっぱい見たので……」

「まあ、また昼に見れるもんね。じゃあまた昼にね」

「はい」


 無意識にアウレーリアちゃんの家に来ちゃったけど、気持ちの整理がついたのでよかった。

 お世話って言葉に心が揺れたけど、ちゃんと我慢できてる。

 ……今のアウレーリアちゃんのお世話もしたいけど、夢で見たような対等な生活もしたいな。

 あの夢はホントにすごかった……。

 大きなアウレーリアちゃんとの共同生活。朝から晩までずっと一緒……。

 お互いに大好き、愛してるって言い合って一緒に生活。

 ……完全に夫婦だよね。学生なのに夫婦。結婚できない年齢なのに夫婦生活を送る。

 まさに夢って感じ。夢だから見れた夢。


「……アウレーリアちゃん依存症、か……」


 今の私にピッタリの病名だね。

 我慢する、気持ちを押さえると言いつつ、頭の中は常にアウレーリアちゃんでいっぱい。

 ……はぁ、顔、見とけばよかった……。



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