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永遠のフィリアンシェヌ ~わたしと私の物語~  作者: 蒼依スピカ


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追憶1 運命の出会い。1日目



 世界一大切で、世界一愛してる想い人のアリアと結婚できた。

 私は心の底から愛してるけど、アリアはまだ「愛」がよくわからないみたい。

 大好きだから、ずっと一緒にいたいから結婚してくれる。

 それでもいい。ずっと一緒にいてくれるなら、夫婦になってくれるなら、ゆっくりでもいいから私を愛してほしい。

 アリアと結婚……私はすごい幸せ者。運命の人と一緒になれたんだから。アリアと出会う前は、こんなにも幸せになれるとは想像も出来なかった。

 私の一番古い記憶……それは不幸だらけで、辛かった記憶しかない。


「化け猫、近寄るなよ!」

「獣人もどきの出来損ない!」

「魔力のない落ちこぼれ!」

「不気味な子だ……悪魔が化けてるんじゃないのか?」

「呪われてるんじゃないの? 殺した方がいいわよ……」


 私が物心ついた頃の記憶はこのような言葉がほとんどだ。

 獣人は、髪の色や目の色が濃いほどすごいと言われる。

 私の髪は白に近い銀色で、目は薄い金色だ。

 白い髪は侮蔑され、銀色や金色は獣人にとっては忌避間を感じる色。

 普通の獣人ではありえない、最悪の色の組み合わせ。

 しかも魔力が全くない。

 獣人は魔力が低い人が多いけど、全くないのは私だけだった。

 そのような色々な要素が合わさり、周囲からは常に陰口や苛めを受けた。私が生まれた時、両親にはそんな未来が容易に想像出来たんだと思う……。

 不憫に思ったのか、強くなれるように獣人らしい名前を私につけてくれた。


 ザナーシャ、私の名前。


 獣人の名前は「ガ」や「ド」のように濁点が付く名前が多い。

 これは、信仰する獣人の始祖様の名前が「ドルガディズ」と呼ばれてるから。

 獣人は強者や目上の人を敬う傾向が強い。始祖ともなればその筆頭だ。

 私の周囲も名前に濁点が付く人は多い。

 ただし男性、男の子。

 始祖様のように強い男になってほしい、そういう願いを持つ親が多いからだ。

 だけど、女の子に濁点が付く名前の人はほとんどいない。

 濁点が付く名前の女の子の多くは自分の名前を好きじゃない。素直に可愛くないから。

 そんな子達は、みんなで集まって可愛らしいあだ名で呼び合うことが風習になっている。


 でも、私は混ざれなかった。


 近寄ると、みんなに化け物や不吉の象徴のような扱いをされて苛められて避けられる。

 私に友達は1人もいなかった。大人からも避けられる。

 だから人がいない早朝の公園が好きだった。

 広くて木がいっぱいあり、駆けまわったり木の間を飛び移ったり出来てすごく楽しかった。

 でも、楽しいのは人がいない時間だけ。人が来ると邪険にされて追い出される。

 私の活動範囲は誰もいない早朝の公園と、近くの種族……原人の生活圏だけ。

 原人の生活圏では白銀色でも金色でも変な目で見られなかった。

 だけど、私は友達がほしかった。だから原人の公園に行った。

 獣人の子とは友達になれなくても、原人の子とだったら友達になれるかもと思ったから。


 でも、現実は違った。


 みんな最初は遊んでくれた。

 だけど、なにをしても私が圧勝してしまう……鬼ごっこもかくれんぼも……。

 基本的に、獣人の身体能力や五感は原人よりも遥かに高い。

 鬼ごっこをしてもすぐに捕まえるし、絶対に捕まらない。

 かくれんぼをしてもすぐに見つけるし絶対に見つからない。

 

「ザナーシャちゃんとあそんでもたのしくない」


 すぐに私はのけ者にされた。

 どこに行っても陰口を言われて苛められてのけ者にされる。 

 誰もいない早朝の公園でちょっと遊んで原人の生活圏をただ散歩する……そんな日常がずっと続いた。

 これからも周りから嫌われて避けられて生きていく……そう思ってた、あの日までは……。

 

「アウレーリア、ちょっとこの荷物持ちなさい」

「え~、おもそうー……」


 原人の公園でも見たことがない女の子だった。

 アウレーリア……可愛い名前。普通の可愛い名前……。

 まだ3、4歳に見えるけど、買い物の荷物を持たされてる。

 私から見ると軽そうに見えるけど、女の子はすごく重そうに持ってた。

 ……お母さん、ちょっと厳し過ぎるんじゃないの? 虐待されてるとか?


「……重そうだね、代わりに持ってあげるよ」

「え! ありがとー! わたしのヒーローだよ!」


 明るい子……私とは正反対。きっと人気者で友達も多いだろうな……。


「あら、ゴメンなさいね。アウレーリア、半分は持ちなさい。あなた、よかったらうちでジュースでも飲んでいかない? お菓子も出すわよ。荷物を持ってもらうお礼」

「……ありがとうございます」


 お母さんはいい人そうだ、なんで無理に荷物を持たせてるのかな?


「はい、どうぞ。ゆっくりしていってね。アウレーリア、少し遊んであげなさい」

「はーい」


 すぐに帰ろうと思ったけど、ジュースを出してくれたんだしゆっくりしていこう。


「わたしはアウレーリア。あなたは?」

「私はザナーシャだよ」

「ザナーシャちゃん……すごくかわいいい! ともだちになろ! ね!」

「可愛い? 私が?」

「うん! すっごくきれいなかみに、キラキラしためですごくかわいいよ! いいなー、わたしもザナーシャちゃんみたいにかわいくなりたいなー」


 初めて言われた気がする、可愛いって……。

 化け猫、出来損ない、不吉の象徴、呪われた子……他にも散々に言われた嫌いな色。


「このかみすごいねー、キラキラでサラサラ。おんなのこのあこがれだよー」


 私の髪を触りながら喜んでる。

 みんなからは獣人の恥と言われて何度も無理やり引っ張られた。

 ……嬉しい。この子はホントに優しい子なんだ、友達になれたら嬉しいな。


「……アウレーリアちゃんは、私と友達になってくれるの?」

「うん、もちろんだよ!」

「ありがとう……」


 嬉しい、初めて友達ができた。

 私を可愛いと言ってくれたのはこの子だけだ。

 ずっと友達でいたいな……。


「そうだ! こうえんいこう! みんなにじまんしたい! かわいいともだちができたって!」

「公園……」


 公園に行ったら、私のことを知ってる子がきっとたくさんいる。

 ……行きたくない、またのけ者にされる……。

 公園で遊んだら、せっかくできた友達も離れちゃう……。


「私、公園には……」

「ほら、いこう! おかあさーん、こうえんにいってくる!」

「その子に迷惑かけるんじゃないわよ。すぐに帰ってきなさい」

「うん!」


 手を引っ張られて公園に連れてこられた。

 振りほどこうと思えば振りほどけた。でも、女の子の勢いに負けてそのまま来てしてまった。


「みんなー! あたらしいともだちだよー!」

「あれ? ザナーシャちゃんだ?」

「みんなしってるの? ともだちだったの?」

「……ザナーシャちゃんとあそんでもたのしくないよ、こっちであそぼう」

「わたしはザナーシャちゃんとあそぶよ。きょうともだちになったんだもん、いっしょにいっぱいあそぶんだ!」

「あそびおわったらこっちきなよ、みんなでかくれんぼしてるから」

「うん!」


 私を知ってる子は私と遊びたくないみたいだけど、この子は私と遊んでくれるみたい。

 ……友達の誘いを断って大丈夫なのかな?


「アウレーリアちゃん……私と遊んでも楽しくないよ、あっちでみんなと遊んできなよ」

「なんで? ザナーシャちゃんとあそぶよ。まずはおにごっこしよう! わたしがにげるから、ザナーシャちゃんがおに! じゃー、はじめー!」


 アウレーリアちゃんはすごく優しくて明るい子だ、きっと友達の中心人物なんだろうな……。断られた友達も全然気にした様子はなかった。普段から仲が良くて、いつもこんな調子なんだ。

 友達を大事にして、周りを巻き込んで遊びを提案していく。ホントに私とは正反対……。


「ザナーシャちゃーん、いいよー、きていいよー……」


 アウレーリアちゃんは意外と足が速かった。きっといつも外で遊んでるんだね、でも……。


「……はい、捕まえた」

「あははは、すごいよー! ザナーシャちゃん、すごくあしがはやいよ!」

「……私は獣人だからね」

「へー、じゅうじんはあしがはやいんだねー。じゃーつぎはわたしがおに! にげてー!」

「……うん」


 5分後……。


 ……捕まる気がしない。

 前に原人の子と遊んだ時と同じだ。それで他の子が嫌になって離れていった。

 わざと捕まろうかと考えたけど、わざと捕まるのは獣人の本能が許してくれない。

 本能的に、狩りに似た遊びでは本気になってしまう。

 アウレーリアちゃんに嫌われたくない。でも、追いかけられたら逃げたくなる。


「はぁ、はぁ、はぁ……。ザナーシャちゃん、つかまらない……」

「ゴメンね……」

「あきらめないよ! ぜったいにつかまえる! はぁ、はぁ……」

「え?」


 アウレーリアちゃんはずっと追いかけてきた。追いつけるわけがないのに。

 他の子が何度かアウレーリアちゃんを呼びに来てたけど、断って私を追いかけてきた。

 もうフラフラに見える。他の子ならもう諦めて帰ってる。

 ……なんで、そんなに必死なの?


 10分後……。


「ひー、ひー、ひー……、もうー、むり……。わたしの、まけ……」

「大丈夫!?」 


 アウレーリアちゃんがその場で大の字になって倒れた。


「……」

「……寝てる?」


 すごくいい笑顔で寝てる。やり切った顔で満足げだ。

 他の友達の誘いを断って、捕まるはずのない私を倒れるまで追い続ける……なんで?

 

「……とりあえず、このままじゃいけないよね。家まで運んであげよう……」


 アウレーリアちゃんを担いで家まで送り届けた。


「あらあら……。ザナーシャちゃん、本当にゴメンなさいね。うちの馬鹿娘が早速迷惑をかけたみたいで。よかったら、晩御飯でも食べてかない? 迷惑をかけたお詫び」

「え、あの……」


 アウレーリアちゃんはお母さんの手によってソファーの上にポイ捨てされた。

 なんでそんなに乱暴に扱えるんだろう? やっぱり虐待されてる?


「んんん、あれ~、なんでいえにかえってきてるのー……」

「アウレーリア、また、はしゃぎすぎて倒れたでしょ」

「う~ん、そうなの……」


 アウレーリアちゃんって、はしゃぎすぎでいつも倒れるんだ……。

 ひーひー言いながらずっと追いかけてきてもんね。明るすぎるというか無謀過ぎるというか……。

 獣人の子なら絶対にありえない。獣人の子は引き際がしっかりしてる。狩りの最中に倒れたら自分が狩られるから、本能的に引き際がわかる。


「あ! ザナーシャちゃん! すごくたのしかったね! またあそぼー! つぎはつかまえるよ!」

「え?」


 あれだけ追いかけてきても無理だったのに、まだ捕まえる気でいるの?

 次も、その次も……何回やっても絶対に私は捕まえられないよ。

 わかりきってて面白くないよ? 遊びにもならないよ?


「……なんで遊んでくれるの? 私と鬼ごっこしても捕まらないってわかったよね?」

「え? つかまえることがあそびじゃないよ。あそびって、いっしょになにかするだけだよ。だから、おいかけてるだけでもあそびだよ。かくれんぼだってそうだよ。みつけられなくてもたのしいよ」


 一緒になにかするだけで遊び? 目的があって、それを達成してこそ遊びじゃないの?

 鬼ごっこなら逃げて追いかけて捕まえて終わり。かくれんぼなら隠れて探して見つけたら終わり。

 捕まらない、見つからない……終わらないからつまらない。みんなそうやって離れたんだよ? 

 ……アウレーリアちゃんの目的は一緒にいることだけ? 一緒になにかするだけで遊びになる?

 なにそれ? 意味がわからないよ……。


「……ふ、ふふ、アウレーリアちゃんって面白いね」

「えがおがかわいいー! なんでそんなにかわいいの! わたし、ザナーシャちゃんのおよめさんになりたい!」

「ありがとう」


 笑顔が可愛い、お嫁さんになりたい……初めて言われた。

 そういえば、最後に声を出して笑ったのはいつだろう……記憶にないな……。

 お嫁さんになりたいって言葉はずっと憧れてた。仲のいい子達がみんなで言ってて羨ましかった。

 私も、そんなことを言ってくれる友達がずっとほしいと思ってた。

 アウレーリアちゃんは私の初めてをたくさんくれる。

 今日会ったばかりなのに、もうたくさんのものをもらった。

 私も、アウレーリアちゃんになにかしてあげられないかな……。


「アウレーリアちゃん、なにかしてほしいことない?」

「え? んーーー……じゃあ、ずっといっしょにいてほしい! ずっといっしょにいて、おとなになったらおよめさんにして!」

「わかったよ、ずっと一緒にいるね。それで、大人になったらお嫁さんにしてあげる」

「わーーー! ありがとう! ザナーシャちゃんみたいなかわいいいひとのおよめさんになれるなんてうれしいよ!」

「私もうれしいよ」


 すごく明るくて、すごく素直で、すごく優しいアウレーリアちゃん。

 私と正反対のみんなの人気者。

 ずっと一緒にいたいよ……。きっと、私の友達はアウレーリアちゃんしかいない。

 アウレーリアちゃんと離れたら、また一人ぼっちになる。

 この気持ちを知ったら、もう昨日までの日常には戻りたくないと思える。


「二人とも、もう仲良しさんになったのねー。ザナーシャちゃん、晩御飯どうする? 食べてってくれると嬉しいけど」

「はい、いただきます」


 もう少し、アウレーリアちゃんと一緒にいたい。

 こんなに楽しいのは初めてだから。


「やったー! あーん、してあげるね! ともだちはみんなやるんだよ!」

「うん、私もやってあげるね」

「うれしいよー! たべよう!」

「うん」


 友達との初めての食事、初めての食べさせあい……。

 諦めてた私の「初めての夢」をどんどんかなえてくれる。

 私はアウレーリアちゃんに出会うために生まれて来たのかな……。

 今までの辛い日常も、アウレーリアちゃんに出会う為だったと思えば少しは楽になる。


「ごちそうさまでした、今日はありがとうございました」

「はいどうも。こちらこそ、アウレーリアが迷惑をかけて御免なさいね。それにしても、本当に礼儀正しいいい子ねー。子供とは思えないわ。またいつでも遊びに来てね、ザナーシャちゃんのようないい子だったら大歓迎だから」

「はい、またお邪魔します」

「あとこれ。お土産とご両親への手紙。遅くまで引き留めっちゃったし、怒られたら可哀そうだから」

「ありがとうございます。お邪魔しました」

「気をつけて帰ってねー」

「はい」


 今までで一番幸せな時間だった。できればもっといたかったけど、両親が心配する。

 アウレーリアちゃんはご飯を食べ終わったらすぐに寝てしまった。さよならが出来なかったのが残念だったけど、遊ぶ約束をしてたのでそこまで寂しくない。

 ……明日からはもう寂しくない。大切な友達が出来たから。

 アウレーリアちゃんの笑顔を思い出すだけで心がいっぱいになる。


「明日はなにをして遊ぼうかな……」


 友達との遊ぶ予定を考えられる日が来るなんて思ってなかった。

 これも初めての経験だ……。

 アウレーリアちゃんは、ホントに私の初めてをたくさんくれる。


「……ありがとう」


 家に帰ったら両親に心配された。

 両親は、私の姿がこんなせいでかなり過保護だ。

 いつもならこの時間まで帰らなかったら家族会議だけど、アウレーリアちゃんのお母さんの手紙のおかげで特に何事もなく終わり、私は大切な友達が出来たと説明しただけだ。

 両親は私の雰囲気の変化にすごく驚いてて、私を見て一瞬硬直してた。

 自分でも浮かれてるのがわかるくらいだから、両親から見た雰囲気はきっと異常に見えたと思う。

 

「アウレーリアちゃん、ホントにいい子だったな……」


 帰ってきてからずっとアウレーリアちゃんのことを考えてる気がする。

 着替え中も、お風呂に入っていても、トイレに入っても、部屋に戻っても、ずっと考えてる。


「明日、どうしようかなー……」


 こんなに楽しい夜は初めて……アウレーリアちゃんのおかげだ。

 

「また公園で鬼ごっこ? また倒れるんじゃないかな……」


 ひいひい言いながら私を追ってきてくれる姿を思い浮かべるだけで笑顔になれる。


「ふふ、無理しちゃだめだよ……」


 公園かー……。

 ……こっちの公園を案内してあげたら喜んでくれないかな? 

 原人の公園には遊具がいっぱいあったけど、木は全然なかった。

 獣人の公園は広いけど、木があるだけで何もない。せいぜいベンチが何個かあるだけだ。

 私はそれが普通だと思ってたから、原人の公園に行って驚いた。

 アウレーリアちゃんも、獣人の公園を見たら驚いてくれるかもしれない。


「うん、こっちの公園を案内してあげよう」


 周りは獣人だらけだけど、私に近寄ってくる人はいないから問題ない。

 私はアウレーリアちゃんと一緒にいられるだけで嬉しいんだから。


「予定も決まったし、もう寝よう……夢にアウレーリアちゃんが出て来てくれないかな……」



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