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永遠のフィリアンシェヌ ~わたしと私の物語~  作者: 蒼依スピカ


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34話 ノルマ開始!



「さっちゃん!!」


 わたしの心のオアシス、大切な親友のさっちゃんだ!

 

「どうしたのこんなに朝早く。それにその恰好……」

「実は……」


 さっちゃんにお姉ちゃんから課せられたノルマの話をした。


「毎日10kmのランニングに腕立て腹筋スクワットを50回……大丈夫?」

「全然大丈夫じゃないよ。今1kmくらいだけど、もう帰りたい」

「そっか。でも頑張ろう、私も一緒に走るから」


 今日のさっちゃんは厳しい。

 いつもなら「辛いよね。帰ろうか」とか言ってくれるのに。

 でも、一緒に走ってくれるなら頑張れるかな……。


「そういえば、さっちゃんは何してるの? 見た感じ運動中に見えるけど……」


 似たようなスポーツウェアを着てるけど、もしかしてさっちゃんも?


「私もランニング中だよ」

「へー、さっちゃんもランニングしてたんだ」

「うん。毎日朝と夜に50kmくらい走ってるよ」

「ほえ?」


 んん? なんかありえない数字が聞こえたよ?

 50kmって言った? 毎日? 朝と夜に? え、合計100kmてこと?

 

「合計100kmくらいかな? 毎日走ってるよ」

「嘘だよね……。だって、今までそんなこと聞いたこともないし、疲れたようなそぶりもなかったよね?」

「別に言うほどのことでもないからね。それに、100kmと聞くと長く聞こえるけど、獣人基準だとそうでもないんだよ」

「……そっか、獣人さんは体力あるもんね」


 原人と獣人の体力は全然違う。

 体育も基本的に別々だし、運動会でも分けられてるくらいだ。


「うらやましいよ……。わたしにさっちゃんの十分の一でも体力があれば、こんなの楽勝なのに……」

「得意不得意はあるよ。私は体力があるけど魔力は全くないから魔術とか使えないしね」

「……そうだよね、得意不得意はあるよね……」

「そうだよ。それに考えてみて、私が体力でアリアちゃんが魔力。二人で一つなんだよ。それって嬉しいことじゃない?」

「嬉しい!」

「そうでしょ」


 わたしが魔力でさっちゃんが体力……一体感が凄い! 二人で一つ。ずっと一緒ってことだよね!

 ……でも、あれ?


「そうなると、わたしに体力は必要ないよね? これって意味あるのかな?」


 この無慈悲な修行ノルマは体力を付けるためのはず。

 こんなことをするより、魔力修行したほうがいいんじゃないの?


「意味はあると思うよ。私達が将来一緒に組んで働くってことは、アリアちゃんの負担が大きいから」

「え? さっちゃんの負担じゃなくて?」


 さっちゃんと働いたらわたしの負担が大きくなる? 意味が分からない。

 わたしが迷惑をかけてさっちゃんの負担が大きくなるなら納得できるけど……。


「私ってね、戦闘に関しては身体能力を活かした前衛が基本で他のことに関してはオマケなんだ」

「さっちゃんがオマケなんて、そんなこと……」

「あるんだよ。敵に突っ込むだけが私。そんな私をサポートしながらアリアちゃんは自分を守らなくちゃいけないの」


 さっちゃんをサポートしながら自分を守る? 全く想像がつかないよ……。


「チームの後ろから魔術を使って攻撃したり傷を治したりのが魔術師。基本的には安全な位置なんだけど、戦術の中には前衛を無視して魔術師を先に狙うっていうものもあるんだ」


 それって、その戦術を使われたら魔術師は一番危険な位置になるってことだよね……。


「普通のチームの場合、魔術師には防御役の戦士がついてるんだけど、もし私とアリアちゃんの2人だけだった場合、アリアちゃんは自分で自分を守らなくちゃいけない。私は全力でアリアちゃんを守りたいと思ってるけど、どうしても限界があると思うんだ」

「……うん」


 さっちゃんは強いけど無敵じゃない。

 敵がすごく強かったり、いっぱいいたりしたら無理だと思う。でも、さっちゃんは優しいから無理をしてでもわたしを守ろうとしてくれる。それで傷つくのはさっちゃんだ。それはやだ……。


「だから、アリアちゃんには相手が剣士でも魔術師でも、少しでも自分の身は自分で守れるようになってほしいと思ってるんだ」

「……うん」

「それに、アリアちゃんは魔戦士になるんでしょ? 戦士として一緒に戦って、魔術でサポートしてね。頼りにしてるよ、親友としてパートナーとして」

「……頑張るよ」


 ……そうだよ。お姉ちゃんへの怒りで忘れてたけど、わたしは強くなるって決めたんだ。これくらいの修行ノルマ、パパっと出来るくらいじゃないとさっちゃんと一緒にいられない。

 わたしは魔戦士になって武技も魔術も使って戦いたい。でも、武技を使うには身体能力が低すぎるって言われた。だったら、この修行ノルマはいい特訓になるよね。


「さっちゃん! あと4km! 頑張って走るよ!」

「うん、頑張ろう。一緒に走るから」


 それから1時間、へろへろで家まで帰ってきた。

 さっちゃんはもう少し走ってくると言って山の方に走っていった。

 すごいねー、さっちゃん……。

 さっちゃんの横に並んで一緒に働く……。想像以上に遠い道のりだよ。


「ただいまー……」

「お帰り。はい、水とタオル。疲れたでしょ、少し休みなさい」

「ありがとー……」


 お母さんが優しい。

 きっと、お母さんもわたしを心配してるからこそ強くなってほしんだ。

 だから優しくして協力してくれる。


「この後は腕立てと腹筋とスクワットを25回だっけ? 頑張りなさい」

「……うん」


 ……怒りよ治まれ。これはお母さんなりの激励と優しさだよ……。


「……お母さん、ノルマが終わったらお風呂に入りたいから準備しといてもらっていい?」

「あんたが掃除してお湯入れなさい。一杯になったら止めといてあげるから」

「……うん」


 我慢、我慢……。

 これは優しと激励……。


「ふぅーーー……」


 汗だくで帰ってきて汗だくでお風呂掃除。

 ……なに、この罰ゲーム?

 

「お母さん、お湯入れ始めたからあとはお願い」

「一杯になったら呼ぶから、サボらずにノルマやるのよ」


 うぎぎぎぎ……。

 これは優しさ、これは優しさ、これは優しさ、これは優しさ……。


「よし! 腕立て25回、やるよー!」


 1、2、3、4、5……、……、……25回!!


「はあ、はあ、はあ……腕が、プルプルする……」


 次は、腹筋25回……。


「ふん、ふん、ふん、ふん、ふん、ふん……」


 25回、終わったよ……。

 次は、スクワット25回……。


「1、2、3……よんっかい!! もう無理!!!」

 

 床に倒れこんだ。

 初日からこんなに出来るかーーー!!! お姉ちゃんのバカーーー!!!

 こういうのって、普通は段階ふんで少しずつ増やしていくんじゃないの!?

 わたしは普通の小学4年生だよ!?

 お姉ちゃんみたいな化け物とは体のつくりが違うんだから、ちょっとは加減してよ! バカ、バカ、バカ、バカ、バカ!!!


「ふー、ふー、ふー……」


 ……これはきっと、お姉ちゃんなりの優しさなんだよ。

 将来困らないようにっていう優しさ。……うん、そう、きっと、たぶん、優しさ!

 レクルシアは危険な組織で道場は狂人の集まり。これはそこで生き抜くための身体作り。さっちゃんと一緒にいる為に必要な身体づくり。

 さっちゃんの為、さっちゃんの為、さっちゃんの為……。


「……5、6、7、8……」


 ……、……、……25回!!

 終わったーーー!!!


「やり遂げた! わたしはやり遂げたよ!」


 長かったノルマが終わった。これで今日は解放され……ん?

 ……ちょっと待って。これって、確か半分に分けたんだよね、朝と……夜。

 

「うがぁーーーー!!! まだ半分!? これを夜にもやるの!?」

「アウレーリア! 静かにしなさい!」

「はい」


 ……いいよ、やってやるよ。

 さっちゃんと一緒にいる為だ。なんでもやってやる。

 お姉ちゃんがどんな無理難題を言ってきても全部やってやる。

 そしてお姉ちゃんを見返してやるんだ。

 「お姉ちゃんが逃げ出した道場、わたしは楽勝なんですけどー」とか言って思いっきり見下してやる……。


「ふふふふふふふふ……」


 お姉ちゃんの悔しがる顔、最高だよ!


「不気味な笑い声出してないで、終わったんならお風呂入っちゃいなさい」

「わかったよ、ふふふふふふふふ……」

「あんた、病院代がもったいないから自力で治しなさよ」

「任せてよ、ふふふふふふふふ……」


 お母さんが何か言ってたけど、わたしにはお姉ちゃんの悔し顔が面白過ぎてそれどころではない。

 ……あーいいねー、最高だよ! お姉ちゃんの悔し顔!


「ふふふふふふふふ……お風呂も天国だね! お湯マッサージ最高!」


 砂漠の風で髪を乾かして整える。

 ……凄い万能感だよ。少し前のわたしでは考えられない成長ぶりだ。


「ノルマをこなして魔術を沢山思いつく……いいね、強くなる為の道筋が見えるよ!」


 お姉ちゃんなんかすぐに追い抜けそうな気がする。


「ふふふふふふふふ……このご飯もいいね。わたしの強さの糧になるんだよ」

「あんた、学校に着くまでには治しときなさいよ」

「ふふふふふふふふ……任せてよ、わたしは何でもこなすよ」


 学校に行くために着替える。

 もう着飾らなくていい。わたしに必要なのは強さだ。可愛い服でもアクセサリーでもない!


「ふふふふふふふふ……いいね、自信に満ちた顔をしてるよ」


 鏡を見ながら自画自賛する。お姉ちゃんに勝てるっていう自信に満ちた顔。


「ふふふふふふふふ……行ってくるよ。楽しみにしてて」

「はい、いってらっしゃい。……これは、さっちゃんに任せましょう」


 今日は誰も声をかけてこない、遠巻きに見てるだけだ。

 きっと、わたしの自身に満ちた気配を前にたじろいでいるに違いない。


「ふふふふふふふふ……ジョンさん、おはよう」

「お、おう、おはよう。どうしたんだ嬢ちゃん、変なもんでも食ったか?」

「食べてないよ、今の私はお姉ちゃんに勝てるんだよ。ふふふふふふふふ……」

「……そ、そうか、よかったな」

「うん、じゃあね、ふふふふふふふふ……」


 ジョンさんも応援してくれてる。

 今のわたしに敵はないよ! 

 怒り狂ったお姉ちゃんでも悔し顔にさせて笑ってやる!


「さっちゃん、おはよう、ふふふふふふふふ……」

「……おはよう。アリアちゃん、私の為に無理しないでね」

「もちろんだよ!」


 わたしは地道に強くなるんだ。

 さっちゃんはわたしを大切に思ってくれるからわたしはさっちゃんを大切にする。

 お互いが大切だから心配させないように自分を大切にする。


「ならいいんだ。無理をしてどんな修行もするとか、お姉さんを見返すとか考えないでね」

「……うん」


 流石はさっちゃんだよ、わたしの考えを全て見通すとは……。

 あれ? なんでお姉ちゃんに勝てるとか悔し顔をさせてやるとか思ったんだろ?

 ……出来るわけないよね?

 逆らったらどんな目に合うか、考えただけで恐ろしい……。


「あの後は大丈夫だった? 腕立てとかちゃんと出来た?」

「うん、何とか出来たよ」

「疲れとか大丈夫? 今日の夜もやるんでしょ?」

「大丈夫だよ。お湯マッサージのおかげで大分楽になったから、夜のノルマも出来ると思う」


 お湯マッサージは予想以上に疲労回復効果があった。

 これがあれば、きっとノルマを乗り切れる。


「お湯マッサージ……? 前に言ってた泡洗浄もそうだけど、あまり無理しちゃだめだよ」

「大丈夫だよ。凄く気持ちよくて楽になるからお勧めだよ。今度さっちゃんにもやって上げるからね」

「……ありがとう」


 もっと色々な魔術を使いたいなー。

 もっと強力な魔術。今の魔術もどきじゃなくてちゃんとした魔術。

 色々と出来るようになったけど、戦闘で使えるのは焔くらいだ。危険な組織で働くなら、もっといっぱい使えないとダメだよね。戦闘で使える強力な魔術かー……。

 強力な魔術をイメージしたらあの夢が思い出された。

 氷の世界、凶悪な熱風、強烈な突風、そして……「ヒッ! た、助けて! 何もしないでぇー!」……大切な友達からの拒絶……。


「……さっちゃんは、わたしを嫌ったり避けたりしないよね?」

「大丈夫だよ。何度でも言うけど、ずっと一緒にいるから安心して」

「……うん、ありがとう」


 さっちゃんが手を握ってくれる。

 ホントに優しいわたしの親友。わたしが気弱になるといつも励ましてくれる。

 ……さっちゃんに、あんな目は向けられたくない。

 夢の女の子のような魔術は使わない。

 きちんと勉強や修行をして、大切な人を傷付けない魔術を使えるようになる。

 

「さっちゃん、わたしいっぱい勉強や修行をするね。間違ってもさっちゃんを傷付けたくないから」

「勉強や修行を頑張るのは凄くいいことだと思うよ。力の正しい使いかたって難しいから」

「うん」

「でもね、私はどんなに傷付けられても大丈夫だよ。私の為にやってくれてるって信じてるから。もしも、アリアちゃんが私以外の大切な人を傷付けそうになったら私が全力で止めてあげる」

「……うん、ありがとう。でも、そうならないように頑張るよ」

「頑張ってね。私も出来る限る協力するから」


 さっちゃんは「傷付けられても大丈夫」って言ってるけど、少しでも傷付けたくない。

 力の正しい使い方、か……。

 勉強や修行していけば分かるのかな?



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