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永遠のフィリアンシェヌ ~わたしと私の物語~  作者: 蒼依スピカ


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閑話1 とある民兵の話



 俺がこの民兵組織に入ってもう5年が経った。

 今日も街中の警邏任務や、荷運びの護衛任務に就いている。


「あー、こんな暇な任務ばかりで退屈だな」

「そうですね。民兵になったらもっと暴れられるって思ったんですけどね」


 俺は腕っぷしがいい。

 獣人特有の身体能力の高さと、戦闘センスの良さで学校では1番強かった。

 就職先は領軍か民兵か迷ったが、自由が利く民兵にした。

 領軍のガチガチの規則は俺に合わないと思ったからだ。

 相棒のこいつも同じだ。

 俺より半年遅れで入団して、意気投合してコンビを組むようになった。他の都市の出身で、こいつも学校では1番強かったらしい。まあ、俺よりは多少弱いが周りに比べると十分強い。


「魔石の採集任務、早く参加したいよな」

「ええ。強い魔獣が沢山いるみたいで楽しそうですよね」


 魔石採集任務。

 領軍に同行して魔石や希少資源を採集する任務。

 魔力緩衝地帯の奥にその場所がある。


「緩衝地帯の魔獣じゃ退屈だからな」

「そうですね」


 魔力緩衝地帯には素材採集任務で何度も行った。

 そこには魔力の干渉を受けた動植物が存在し、普通の素材より価値が高い。

 生息するのは魔力の干渉を受けた獣、「魔獣」だ。

 普通の獣よりは強いが、数人でかかれば楽に倒せるレベルだ。

 ……あー、早く魔石の採集任務に就きたいぜ。


「本日の任務、終了しました!」

「ご苦労、ゆっくり身体を休めてくれ」

「了解」

「ああ、それと。来週初めの魔石採集任務にお前らの同行許可が出た。備えておくように」

「!? 了解です! ありがとうございます!」


 ……やっとか。やっと魔石採集任務に就ける。楽しみだ。


「やりましたね、やっと暴れられますね」

「ああ、本当に楽しみだ」


 来週初めか……鈍った身体を少し鍛えなおすか。


「訓練所で少し訓練していかないか。身体が鈍ってしょうがない」

「いいですね、付き合いますよ」


 魔石採集任務の当日になった。

 集合場所は魔力緩衝地帯の前。既に領軍や、他の民兵組織の連中がいる。


「やっぱ強いやつらばかりだな。精鋭の民兵ってやつか」

「そうですね。見た感じ、俺クラスの奴がごろごろいますね」


 ……領軍の奴らはその中でも頭一つ抜けてる感じだな。

 特に軍の指揮官はヤバい。ありゃ、俺が逆立ちしても勝てんな。

 ……上には上がいるってか。分かってはいるが、こうまで差を感じるとはな……。


「全員傾聴! これより魔石採集任務に入る。中には魔獣を超える存在の「破壊獣」が多数存在する。己の力を過信するな。命令違反は死につながると思え! 初参加の者は特に注意しろ。周りに合わせることを第一に考え、決して連携を乱すな! では、魔石採集任務を開始する!」


 ……ああ、分かってるさ。今回は様子見だ。

 まずは、魔獣を超える「破壊獣」って奴がどの程度かこの目で見ないとな。


 魔力緩衝地帯を抜けるのは簡単だった。

 これだけの精鋭が揃ってるんだ、魔獣程度は相手にならない。


「これより「聖域」に入る。破壊獣が出現するので注意しろ!」

「「「了解!」」」


 ……聖域? なんだそりゃ? 魔石採集場所のことを軍ではそう呼ぶのか?


「直ぐに接敵する。狼型破壊獣6体。10時方向と2時方向、それぞれ3体だ。前衛隊構えろ! 弓兵隊、魔術部隊は破壊獣が見え次第、攻撃を叩き込め! 民兵たちは抜けてきた破壊獣の対処。足止めを優先し、安全を第一に考えて行動しろ!」


 指揮官の言う通り、直ぐに10時方向と2時方向から狼が襲ってきた。

 前衛による足止めと、弓矢と攻撃魔術の連携が合わさる。


「民兵! 10時方向から1体が抜けた! 注意しろ!」


 ……これは強えな。

 魔獣より動きが早い。それに、剣や魔術が通りにくい気がする。狼が身体にまとってる黒いモヤのせいか?


「ッツ!」


 攻撃力もありやがる! 魔獣の比じゃねえ! 勝てるか!?


「グルルル……」


 ……なんだ、動きが止まった? チャンスだ!


「おらぁ!!」


 ……なんとか倒せたが、これが破壊獣か……。

 こんなのがうようよいるのが魔石採集場所、聖域ってやつなのか……。


「よし、第一波は殲滅完了だ。警戒を維持し、周囲200mで採集開始。1時間後、ここに集合だ」

「「「了解」」」


 領軍と民兵が数人のチームに分かれて採集を開始する。


「破壊獣を倒した民兵に少し話がある、残ってくれ」

「了解」


 ……なんだ、指揮官自ら褒美でもくれるのか?


「まずは、回復だな。ヒール」

「ありがとうございます」


 鎧は裂けたが、かすり傷程度だ。回復魔術を使って貰うほどじゃないと思うけどな。


「破壊獣の討伐に感謝する」

「ありがとうございます」

「だが、なぜ一人で対処した。他の民兵は一歩引いて陣形を組んでいた。出発前に言ったはずだ。己の力を過信するな、周りに合わせて連携を乱すなと」

「すいません、今後は気を付けます」


 ……確かに強かったが、他の奴と連携が必要なレベルか? 相棒と戦えば楽勝だった思う。他の奴らは少し慎重になり過ぎじゃないのか?


「見たところ、おまえは今回が初参加だな。忠告しておく、今の破壊獣は弱い部類だ。あれ以上の破壊獣が群れで襲ってくることもある、決して油断はするな」


 ……あれ以上のやつが群れで襲ってくるだと? 冗談だろう?

 そんなことになったら簡単に全滅じゃないのか?


「お前たち民兵は個々の能力は高いが連携が甘い。足止めを優先し、安全確保を第一にしろ」

「……了解」


 この俺が足止め程度しかできない?

 ……言ってくれるな。いいだろう。今は言う通りにしてやる。

 ここで俺は強くなってやる。破壊獣を一人で殲滅できるくらいにな!


「時間だ! 全員集まってるな。これよりさらに奥、「エリア2」へ入る。2時と10時方向300m先にそれぞれ2体、0時方向500m先に4体の破壊獣の気配を感じる、注意するように!」

「「「了解」」」


 500m先の気配まで感じ取れるのか……ホントに強えな。なにもんだよコイツ?


 何度か同じことを繰り返して今回の採集任務は終わった。

 今日は25体の破壊獣と遭遇したが、ほとんどは軍の奴らが処理し、取りこぼしは民兵が総出で対処、俺も周りに合わせるのを考えて突出しないように注意した。


「本日の採集任務はこれで終了とする。身体を休め、次の任務に備えてくれ」

「「「了解!」」」


 これが魔石採集任務……いい経験になったな。

 俺はまだまだ強くなれる。破壊獣程度、俺一人で倒せるようになってやる。


「楽しかったですね。最初にちょっと注意されたみたいですけど」

「ああ、楽しかったな。注意されたのは俺が未熟だったからだ。強くなって見返してやる」

「いいですね、そう言うところ好きですよ。見返してやりましょう!」


 初の魔石採集任務から10年が経った。

 魔石の採集任務にもずいぶん慣れたもんだ。

 後輩も沢山できたし、俺自身もかなり強くなった。


「今日は凄かったですね! まさか破壊獣を一撃で両断するなんて!」

「あの程度の破壊獣なら楽勝だな。まあ、あれ以上の奴が出てきても苦戦はしないがな」

「すげえ! まじで尊敬します!」


 ここ数年の採集任務は楽勝過ぎてかなり退屈だ。

 俺が強くなり過ぎたせいもあるが、それに加えて領軍のやつらが破壊獣を間引くせいだ。もっとこっちに寄越せばいいのに、軍の奴らは必ず最初に接敵して破壊獣の数を減らしたり弱らせたりする。

 指揮官の奴も、俺の強さを認めてはいるが他の民兵と連携しろと言ってくる。

 ……チッ、見下しやがって。


「……お前ら、明日は休みだよな?」

「ええ、そうですけど」

「一緒に聖域に行って修行しないか?」

「ええ!? それって違反行為じゃないですか! 懲罰を受けるのも嫌ですし、領軍がいなかったら危険ですよ!」


 ……こいつも領軍頼みか、情けねえな……。


「心配すんな。なにも資源泥棒をしようってんじゃない、あくまで修行だ。上には取りなしてやるし、俺は領軍の奴らより遥かに強い。安心して修行できるぞ。いつまでも領軍に守られてばかりじゃ情けないだろ」

「情けない、ですか……。たしかにそうですね。俺もそこら辺の軍人より強いですし、守られてばっかりも嫌ですね」

「決まりだな。空いてるやつらを集めろ。俺も知り合いに声をかける」

「わかりました!」


 ……ああ、楽しみだ。久しぶりに楽しい戦闘ができそうだ。

 破壊獣ども、殺しつくしてやるぞ。


 3日後、住宅地にある掲示板の前。


『魔石採集場所に無断侵入した民兵23名が死亡しました。生き残りの民兵の一人は次のように語っています。「修行のつもりだった。考えが甘過ぎました。死んだ仲間に申し訳ない」。この事件を受けて、領政府は各民兵組織に再発防止案の改善を指示しました。事件での死亡者は以下の通りです……』


 あの馬鹿……。

 力自慢ばっかりしてたからこんなことになるんだよ。同級生で一番強いからって調子に乗り過ぎだよ、死んだらなんにもならないじゃない……。

 ……あの子にはこうなって欲しくないわね、無駄に魔力だけは高いから。

 民兵のバイトをいつもしてるし、民兵になりたいとか言ったらどうしようかしら? 

 あの子は馬鹿だから言い出しそうで怖いわね……。


「わたしはさっちゃんと一緒に働きたいから、民兵になる」


 ……どうして……本気、なの……。



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