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22話 お金持ち



「注意があるとすれば一つだな。そのカードはうちの身内が持つものだから、他の組織に移った場合は当然返してもらうぞ」

「ほえ?」


 ……これって、お礼でくれんじゃないの?


「ユリカさんから生活支援金の話は聞いたんだよな?」

「はい」

「そのカードはそれと一緒だな。違うのは入門しなくて使える、てことくらいだ」


 生活支援金て、確かお金をもらう代わりに、将来はここで働くってことだよね。


「俺はお前たちのことを気に入ってる。出来れば、将来はうちに入って二人で一緒に活躍してもらいと思ってる」

「あ、ありがとうございます」

「だが、強制はしない。これはあくまでお礼だ。そのカードは就職するまでは自由に使えるし、入門だって自由だ。打算的な思惑はないとは言わんがあくまで善意だ」


 ユリ姉さんも、入門してお金を貰わないのもありって言ってたもんね。


「だから、ザナーシャもそんなに警戒しないでくれ」

「……はい」


 ……ん? さっちゃんはなにかを警戒してたの?


「サっちゃん、本当に安心していいよー。善意が9割だよ。二人に強くなって欲しい、楽しんでほしいと本気で思ってるから。で、あわよくば、うちを気に入って入団してくれないかな、て感じ」

「……そうですか、ならいいんです」


 うん、さっちゃんは気にしすぎだと思うよ。

 ブリギッテさんもユリ姉さんもいい人だから心配ないよ。


「さっちゃん、大丈夫だよ。何があってもわたしが守るから。一緒に強くなって、一緒に働こう!」

「うん、そうだね。私も、アリアちゃんのことは何があっても守るよ」


 そうだよ。わたしの夢はさっちゃんの為に強くなって、一緒に働くこと。

 ……難しく考えない! 今はただ、さっちゃんのことだけを考えてればいい。


「お前たちは本当に仲がいいな。俺みたいなおじさんには眩しすぎる」

「お? 二人とも、うちに入ってくれるの?」


 そう言えば、入門のこととか言ってなかったね。


「はい、そのつもりです。まだ何年も先の話だし、お母さん達にも何も言ってないけど、わたしは入門して、さっちゃんと一緒に働きたいと思ってます!」

「嬉しいねー、出来る限る協力するよ」

「俺も出来る限りは二人に協力するので何かあれば言ってくれ。立場的に、行き過ぎた依怙贔屓は出来ないが、この支部のことであれば出来る限るの便宜を図ってやろう」

「ありがとうございます!」


 ブリギッテさんやユリ姉さんたちが味方になってくるなら、こんなにも頼もしいことはないね! こんな、大きな組織のお偉いさんだもん、無敵だよ!


「よし、お礼も渡したし、ある程度の話も出来た。今日は遅いしもう解散だな」

「あ、もうこんな時間なんですね」


 無駄に豪華な置時計を見ると、18時を過ぎていた。

 窓を見ると、夕日がちょっと沈んで暗くなってる。


「ユリカさん、忙しいところ申し訳ないが、二人を自宅まで送ってくれないか」

「任せてー。もとからそのつもりだったし全然問題ないよ」


 ……送ってくれるんだ、正直助かるかな。

 今から家に帰ったら20時近くになっちゃうから晩御飯に間に合わないし、お母さんに怒られそう。

 また1週間の監禁生活は勘弁してほしい。ユリ姉さんがいれば、お母さんも爆発しないと思う。


「二人とも、今日は来てくれて嬉しかった。またな」

「はい、また!」

「これは、今日の労賃だ。ささやかだが受け取ってくれ」


 わたしの3ヵ月分のお小遣いをくれた。

 ……え、なにこのサプライズプレゼント! 今日貰ったお礼で一番嬉しいかも。

 ブリギッテさんへの好感度がMaxになったよ!


「ありがとうございます、ブリギッテさん! 大好きです!」

「アリアちゃん……」

「アリアちゃんは素直で可愛いねー、じゃ、私からもこれあげる」


 ユリ姉さんが2ヵ月分のお小遣いをくれた。


「ユリ姉さん大好き!」


 良い人達すぎるよ!

 ……決めた! わたし、絶対にここで働く!

 ここで一杯働いて、沢山お金を貰って、さっちゃんと幸せに暮らすんだ!


「さっちゃん! ここは天国だよ! 一緒に働いて、ずっと一緒にいようね!」

「……そうだね。一緒に働いて、ずっと一緒にいようね」


 うんうん! わたし達の未来は明るいよ!


「それじゃ、行こうかアリアちゃん達」

「はい! さようなら、ブリギッテさん!」

「おう、さようなら」

「ブリギッテさん、ありがとうございました。さようなら」

「ザナーシャも元気でな。あまり根を詰めすぎるなよ。お前らは二人で一つだ、忘れるな」

「……はい」


 ……何のことだろう? わたしとずっと一緒にいろってことかな?

 確かに、わたしはさっちゃんがいなかったらヘマばかりするから間違ってないかな。

 さっちゃんは……わたしがいなくても全然大丈夫だと思う。


「さ、アリアちゃん達、乗って」

「ほえ?」


 施設の前の道路に「魔動車」がとまってる。

 魔動車、馬車の上位版。

 馬じゃなくて魔石で動いていて、比べ物にならないくらい快適な物。

 魔石が沢山使われているので物凄い高級品だ。

 わたしの近所でも、所持してるのは商会の会長さんだけ。

 前に一度、魔動車の試乗イベントがあって乗ったことがあるけど、凄く快適でビックリした記憶がある。


「さ、固まってないで後ろに乗って」

「あ、はい」


 ……うわー、凄い……。

 中は10人が座れそうな広さで高級ソファーみたいな座り心地。そして外の暑さが嘘のような涼しさ……。前に試乗した魔動車なんか比べ物ならないくらいすごいよ。


「すごいね、さっちゃん……」

「うん、凄いね……」


 さっちゃんも唖然としてるよ。

 ……今日一日で、何回ビックリしたかな? もう驚かない、なんでも来いって思ってたけど甘かったみたい。

 この組織って、世界一の大富豪とかなのかな。わたしもここで働いたら魔動車を買えたりするのかな?


「動くから気を付けてねー」

「「はい」」


 ……おおー、全然揺れないし振動もない。速さは馬車くらいだけど、きっとスピードを押さえてるんだろうな。

 街中には馬車も走ってるから、それに合わせてるんだろうね。


「……ちょっと、恥ずかしいね」

「うん」


 ちょっとというか、かなり恥ずかしい。

 外の人達がみんな見てくるし、ちっちゃい子が指を差してくる。

 とにかく注目の的だ。こんなに注目されたことは一度もない。

 ……気持ちはわかるよ。

 わたしだって、こんな魔動車が走ってたら呆然と見ちゃう。でもまさか、わたしが見られる立場になるとは思わなかった……。


「いやー、これで走ると注目されて気持ちいいねー。あ、子供が手を振ってきてる。ほら、振り返してあげて」

「へ?」

「わたしは運転で手が離させないから。手を振られたら振り返す。ほらほら」

「……はい」


 わたしは笑顔で手を振ってあげた。

 子供の視線が痛い。5歳くらいの子供の視線が痛い。

 ……やめて! そんなキラキラした目で見ないで! わたしはすごくないから!


「ううぅぅ……」

「その調子、その調子! 頑張ってー!」


 ……わたしへの嫌がらせじゃないよね?

 ユリ姉さんのこと、凄く良い人って思ったけど間違い? 実は人をからかって楽しむ性悪女なのかな?


「アリアちゃーん、失礼なことを考えたら監禁しちゃうよー」 

 

 ……そうだ! 心を読まれるんだった!

 無心だ。無心で手を振ってよう。


「そうそう、無心でもいいから笑顔で手を振っててねー」

「……」


 手を振ることに専念しよう。

 わたしは手を振る機械。イベントで見たことがる。あれになろう。

 あ、また手を振らた。どうもー。あ、また……。また……。また……。


「ここで合ってる? アリアちゃんの家?」

「……」

「サっちゃん、人に戻してあげて」

「はい。あ、家はここで合ってます」


 ……また手を振らた。どうもー。どうもー……。

 ん? あれってうちの隣の子供だ……。


「アリアちゃん、家に着いたよ。一緒に帰ろう」

「……うん! 一緒に帰ろう!」


 いつの間にか家に着いていたみたいだ。

 ……ご近所さんが窓からこっちを見てるよ。明日何か言われそうで怖い。


「それじゃ、中まで案内してよ」

「案内ですか?」

「アリアちゃんだけで帰ったら怒られるでしょ、こんなに遅くなったんだし。一緒に行って、事情を説明してあげるよ」

「……そうですね、助かります」


 ……あー、外は熱いー。

 魔動車に冷風機って最高だったねー。


「アウレーリア! あんた、なにしたの!」


 お母さんはすでにお怒りモードだった。 



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