ゲームコーナー
「夢じゃ、ないですよ…?」
唯希はそう言って、恥ずかしさを我慢し渾身の想いで手を重ねてきた
「あっ…そうだよね」
夏向は赤面し、唯希の顔を見た…頑張って重ねた手をギョロ目四白眼が更にギョッと見開き、固まっていた
その事に気付き、夏向は空いていたもう片方の手で優しく彼女の手を覆う
「…っ!」
声にもならない驚いたような声をあげ、ギョロぉ…とゆっくりこっちを見る
負けじと唯希ももう片方の手で夏向の手を覆う
「暖かいな…」
「…かなたさんの方が、もっと暖かいですよ」
そう言うと恥ずかしくなったのか、唯希は星空を見上げる
夏向はそこで待っててと伝え、両手の温もりを名残惜しくも離し、席を立ってその場を離れる
唯希は星を眺めながら待つこと一分、両手に何かを持ちながら元の席へ戻ってきた
「これ、良かったら飲んで」
「…あ、バンホーテン」
「ココアの中でそれが一番好きでさ…この旅館の自販機に売ってたの思い出して買ってきたんだ」
「…これ、アイスなんですね」
「ホットもあったけど、あえてアイスにしてみた」
そう言いながらプルタブを空け、口をつけて軽く飲む
「…いただきます」
唯希も倣うように、受け取ったバンホーテン口につけ、飲み始める
「ん…味はいいですけど、やっぱりホットの方が良かったかもです」
困り顔を作り、ワガママを言ってみた
すると、夏向は缶から口を離し———
唯希の唇にキスをした
それは数秒続いたが、お互いにとっては三十秒程の時間が経過したかのように思えた
お互いが唇と唇を離し、名残惜しいが故に言う
「…チョコのように甘かったです」
「僕も、甘かったって言おうとしてた」
満面の笑みを浮かべた彼女に対して
もう一度キスをした
何度も、なんども…
「ん…ふふ、やっぱりアイスで良かったです」
唯希は赤く火照った顔に笑みを浮かべ、手にした缶ココアに口をつけ、味わうように少しづつ飲み、やがて飲み干した———
バンホーテンにしようか、綾鷹にしようか…
二十一時手前
お風呂から上がり、喉が渇いた夏向は一階にあった自販機へ行き、飲み物を選ぶ
悩んだ末、選んだのは綾鷹でした
ココア好きな夏向でも、今はお茶の気分だったようだ
お茶入りペットボトルを握り自室に戻ろうとした道中、ゲームコーナーと小さく書いてある一室を見掛けたので中を覗いてみる
…そこにはPS4とPCが置いてあった
中へ入り一見PCのマシンスペックは低そうだけど、気になったので立ち上げ、ファームウェアを起動し確認した
CPUにグラボ、メモリなどどれも普通にゲームするには十分なスペックを持っていた
当時からしても最高、とはいかなくとも殆どのゲームが快適にできるほどのスペックだ
ただそうなると気になるのがネットワーク
スマホでも辛うじてラインのやり取りができるくらいの電波だろうに、どうやって繋げているのか…
ネットワークを確認してみようと思い立ったが直後、部屋の入口から人の気配が近付いてきた
「お客様、もしかしてパソコンをお使いになられたいのですね?」
御歳六十はいってるであろう、この旅館の支配人さんだった
「あ、すみません勝手に起動しちゃったりして」
「いいえ~ここは、この山暮らしに嫌気が差して出ていったアタシの息子の部屋でして…ここにあるものほとんどは息子が置いていった物です
今はおらんので遊び場として自由に解放しております」
「そうなんですか…」
そういえばゲームコーナーと表に書いてあったから入ってみたものの、思ってたゲームコーナーと違う
「思ってたゲームコーナーとは違いましたけど、つい興奮してしまいました」
そう伝えると
「なんだか、うちの息子にソックリだねぇ」
なんて言われた———