第98話 ハリーは燃えているか?
「貴様…どういうつもりだ?私に銃を向けることがどういう意味を持つのか理解しているのか?」
ハリーに短筒を向けられたヘンリーが威嚇するように告げる。ハリーは臆することなく、ヘンリーの元へと近づいた。
「そんなこと百も承知だ。執政議長だろうが実の父親だろうが関係ない。此処にある時空転移装置は本来存在してはいけないもんだ。今すぐ電源を止めて装置を破壊しろ!」
「ハッ!何を言い出すかと思えば馬鹿馬鹿しい。マリア・ルイーズに感化されたのか?今更そんなこと出来るわけないだろう」
ヘンリーがハリーの要求を一笑に臥した。しかしハリーは真剣な目でヘンリーを睨み付ける。
「なら俺が止めてやる。あんたをこの場で射殺してな!」
「無駄だ。お前にこの装置を止めることはできんよ、ジュニア。操作パネルは特定の人間のみがアクセスできるように作られている。既にこの装置は再起動した。後は電力が充填され、光の球体が再びメトロポリス上空に現れるのを待つばかりだ」
「貴様!」
「私を撃つ気か?それこそ装置を止める手段が無くなるぞ?」
ヘンリーは余裕の笑みを浮かべた。ハリーは一旦短筒を下ろし、時空転移装置を眺める。ヘンリーはフーッと深呼吸して、外を見るように促した。
「もうじき私の『夢』である『浄化』が実現するのだ、ジュニア。マフィアやダウンタウンだけじゃない。私の『夢』の邪魔をする者全てを光の球体が飲み込むように設定している」
「メトロポリスを捨てるつもりなのか?執政議長とあろう者が」
「…私はもう執政議長ではない。評議員共に裏切られたのでな」
「どういうことだ?」
ヘンリーの呟きにハリーは首を捻った。ハリーたちが留守にしていた短時間に事は大きく動いていたらしい。(尤もハリーたちにとっては此処に戻ってくるまで数週間ほどの時間が経っている訳だが)
「私は先程時空転移装置を一度稼働させた。本来であれば、その時に眼下で戦争を繰り広げているマフィア共を光の球体に飲み込ませて一掃する算段だった。だが思わぬ邪魔が入り、マフィア共を飲み込む前に球体は破裂してしまった」
ヘンリーの言葉にハリーがゴクリと唾を飲み込む。やはりハリーたちを飲み込んだ光はヘンリーが発動させていた。
「目論見が外れたことでマフィア共の勢いが増すことになり、結果的に執政院全体が戦場と化した。事態を重く見た評議員共は今回の責任が私にあるとして満場一致で不信任を下しやがった」
「じゃ、あんたが此処に来たのはその腹いせか?」
「…簡単に言えばそうだろうな…だが評議員共に時空転移装置を渡すつもりはない。このままメトロポリスもろとも連中にも消えてもらう」
怒りを露にするヘンリーを見たハリーが突然口元を手で押さえ、肩を震わせ始めた。その様子は何か笑いを堪えているように見える。そんなハリーを見たヘンリーが苦々しい表情を浮かべた。
「何がおかしい!!!」
「…くっ……いや、何と言うか…哀れというか…ザマァないというか…」
「バカにしてるのか!!」
ヘンリーは怒りを爆発させてハリーを一喝する。対してハリーは堪えきれないとばかりに声を上げて笑い出した。ヘンリーは顔を真っ赤にして、地団駄を踏む。
「ハア…ハア…悪い…おかしくて仕方ないぜ。もうあんたは只のオッサンって訳だ。じゃあ執政議長を名乗る資格はないわな」
「黙れ!!あの時邪魔さえ入らなければ…」
「じゃあ教えてやるよ。何故俺が今此処にいるのかをな」
「何だと?」
ハリーはヘンリーを煽るように光の球体に飲まれるまでの経緯を説明した。時空転移装置の光の球体に巻き込まれたことで幾つもの異世界を旅する羽目になったこと。結果的にグランシステリア王国にたどり着き、アリアを元の世界へ戻せたこと。最終的にグランシステリア王国の遺跡の力で此処に帰ってきたこと。ハリーは洗いざらいヘンリーに告白した。
「アリアの件だけはあんたに礼を言わなきゃならないな。時空転移装置がなければ彼女は帰れなかったんだからな」
「…ぐっ…貴様、今の話が何を意味しているのか分からんか…?」
「ん?何のことだ?」
「全ては貴様のせいだったということだ!ジュニア!!!貴様があの時、装置を弄くっていなければ座標は変わらなかったのだ!お陰で私の計画は台無しだ!」
ヘンリーがハリーに詰め寄るように叫ぶ。ハリーは怒るヘンリーを冷静に見据えた。
「…やはりあの時、孤児院に捨てるべきではなかった…あの時殺しておくべきだったのだ…。我が生涯最大の失敗はジュニア、貴様を始末しておかなかったことだ!!!」
「何を抜かしやがる!!てめえのことを棚に上げて人のせいにするんじゃねえ!!」
「…もういい、失敗は今からでも十分挽回できる」
そういうとヘンリーが懐から拳銃を取り出す。ハリーも短筒をヘンリーに向けた。互いに銃を突き付け合う形となる。
「さあ、どうするよ?執政議長殿。あ、もう議長じゃないんだ」
「今度こそ…あの世に送ってくれる…マリア・ルイーズと再会したまえ」
お互いに引き金に指を掛けようとしたとき、地震が起こった。ヘンリーは操作パネルの台にしがみつき、ハリーは体勢を崩して倒れ込む。揺れが収まるとヘンリーが倒れたハリーに再び銃口を向けた。
「外を見たまえ、ジュニア。電力が充填された。再び光の球体が上空に現れたのだ」
ヘンリーの言葉通り、窓の外から煌々とした光が建物内に差し込んでくる。ハリーが立ち上がろうとすると、ハリーの足元にヘンリーが威嚇射撃した。
「チッ…」
「形勢逆転だな、ジュニア」
ヘンリーが勝利を確信して、再び引き金に指を掛ける。するとハリーは視線をヘンリーからやや横にずらした。ヘンリーはハリーの視線の変化に気づかずにゆっくりとハリーに近づく。
「何か言い残すことはあるか、ジュニア?」
「ああ…くたばれクソオヤジ!!」
ハリーの言葉を受けて、突然黒い影がヘンリーの腕に飛び掛かった。影はヘンリーの拳銃を持った手に爪を立てる。影の正体は黒猫、トントだった。
「なっ!!?何だ、コイツは!?」
ヘンリーはトントを慌てて振り払うが、はずみで銃口をハリーから外してしまった。その一瞬の隙にハリーは短筒をヘンリーへと向ける。
「…!?ジュニア…?」
「あばよ、親父」
ハリーの短筒が火を吹き、ヘンリーの眉間に弾丸が命中した。ヘンリーは頭から豪快に血を吹き出すと操作パネルへ寄り掛かるように倒れ込み、ガックリと動かなくなった。ヘンリーが事切れたのを確認したハリーはヨロヨロしながらトントへと近づく。
「…ありがとよ、トント。俺の相棒」
(…どういたしまして、私の相棒)
トントはハリーに駆け寄ると肩に飛び乗った。そして窓辺に向かい、上空に出来た光の球体を共に見上げた。
(アイツを止められるか?)
「…分からん…が此処まで来たらやるしかないだろうがよ」
(そう、だな…!)
ハリーたちは残る時空転移装置に目を向けた。




