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第96話 メトロポリスの最も長い一日 その5

「おいおい、マジかよ…大惨事じゃねえか」



 スティーブンが執政院外の惨状を目の当たりにして呟く。既に逃走準備は整っており、部下たちに命じて車を用意させていた。スティーブンは小さいアタッシュケースを一つ大事に抱えて、車の後部座席に乗り込む。



「ケヴィンの奴はどうした?…ま、いいか。奴は放っとくとしよう。これ以上此処に居て巻き込まれるのはゴメンなんでね」



 スティーブンは部下に車を発進させる。そして持ち出したアタッシュケースの中を眺めてほくそ笑んだ。ケースの中には黄金色の液体のようなものが入った小瓶が幾つも納められていた。スティーブンはケースを閉めると満足そうにシートに寄り掛かる。



「コイツさえあればメトロポリスの地盤を捨てたとしても再興できる。全く持って金の成る木をくれたもんだぜ。執政議長殿、ケヴィン、オタクらには感謝してるよ」



 スティーブンは車中で高笑いした。戦場となった執政院の敷地の脇を抜けるように車は一路「蜘蛛の糸」へと進もうとしていた。

 が、突然車が急ブレーキを起こし、スティーブンは危うく前方の座席にぶつかり掛けた。



「あ、危ねえじゃねえか!!何処見て運転してるんだ!?」



 スティーブンが運転している部下を叱責する。だが、部下はスティーブンの言葉よりも前方を見て固まっている。スティーブンが首を傾げていると前の座席にいる部下が青ざめた表情で前方を指差した。



「…!??奴等…蔡一門か!!?」



 スティーブンが前のめりになってフロントガラスの先を見据える。スティーブンの言葉通り車の前には紫蘭が率いている蔡一門が立ちはだかっていた。しかも車を横付けにして完全に進路を塞ぐように部下たちを配置している。



「ど、どうしましょう…?ボス」



 思わぬ伏兵の登場にスティーブンの部下たちは完全に動揺している。スティーブンはフッと一笑に臥し、蔡一門を指差した。



「このまま行け」


「し、しかし完全に塞がれていて…」


「構わねえ。奴等を蹴散らせ!」



 スティーブンの命令に部下たちは顔を見合わせつつ、アクセルを踏み込んだ。スティーブンの車は速度を上げて蔡一門へと突っ込んでいく。だが蔡一門は動揺することなく、待ってましたと言わんばかりの余裕を見せていた。



「…?何だ、連中の態度は。気に食わねえ…」



 スティーブンが苛立ちを露にする。と、前方の蔡一門の車から筒状のものが出てきてスティーブンたちの車に先を向けた。筒の正体に気づいた部下が慌てて急ハンドルを切る。



「おい!!」



 スティーブンの叫びと共に筒状のものが火を吹いて、スティーブンの車のタイヤに直撃した。直撃の影響で車はクラッシュし、三回転ほどして止まった。紫蘭が部下たちにスティーブンの車を囲むよう命じる。



「痛ててて…チクショウ…やりやがったな…」



 スティーブンはボロボロになった車から這う這うの体で脱出する。アタッシュケースを握り締めて急ぎ蔡一門から逃走しようとしたが、そこへ一人の男が立ち塞がった。

 男の顔を見た途端、スティーブンの顔が青ざめる。



「て、てめえ…劉宗玄…!」


「久しぶりだな、スティーブン・アンブロア。何処へ行くつもりかね?」



 体のあちこちに包帯を巻いて杖をついた劉宗玄がゆっくりとスティーブンに近づいた。スティーブンは劉の様子を見て嘲笑する。



「おいおい…そんなボロボロの体で此処に来たのかよ」


「お前ごとき手負いの体で十分だ」


「へっ…俺がドラッグに手を出したことがそんなに気に食わねえか。いいじゃねえか、金儲けも楽なもんだぜ?」


「移民たちにもドラッグを売り捌いていただろ?あれの後始末で迷惑を被っているのは此方だ。これまでのツケを払ってもらうぞ」



 劉が杖を捨てて構える。スティーブンはやれやれと言わんばかりに腰ベルトからリボルバーを取り出した。



「しょうがねえな…あんたさえ良ければ俺と組んで金儲けできたのに。勿体ねえ」



 スティーブンが銃口を劉に向けた瞬間、スティーブンの眼前に劉が現れた。



「なっ…!!?」



 スティーブンが驚きの声を発する前に劉の掌底打ちが炸裂した。スティーブンは胸を思い切り打ち据えられ、横転した車まで吹き飛ばされた。スティーブンは車体に衝突し、仰向けになって倒れる。


 劉がゆっくりスティーブンの元へ向かう。スティーブンは口から血を吐いて全身を震わせていた。既に虫の息なのか、体を動かすことができないようである。



「…心臓目掛けて思い切り打たせてもらった。恐らく胸部の骨は粉々だろう。もうお前に残された時間は僅かだ、アンブロア」


「ぐっ…チクショウ……こんな所で…コイツは誰にも渡さね、え…」


「皮肉だな。自分は『処置』を施していなかったか」


「『処置』なんぞ…野蛮な奴が…すること、だ。俺は…そんな…リスク、なんぞ…背負いたく、ねえ…」


「呆れたな。何処までも性根の腐った奴だ」


「て、てめえ…も、死に損ないの癖に…」



 スティーブンは最後の力を振り絞って握ったリボルバーを劉へ向けた。引き金を引こうとしたが、横から蔡一門のロケット弾が飛んできて大爆発を起こした。爆発の衝撃で車もろともスティーブンとアタッシュケースは跡形もなくバラバラに吹っ飛んでしまった。



「自業自得だ。地獄へ行け、アンブロア」



 劉は吐き捨てるように呟くと蔡一門の元へ歩み寄った。紫蘭が劉に駆け寄り、慌てて支える。



「父上…どうして此処へ?」


「あのまま病院で寝ているのも気分が悪くてな…無理いって此処まで来た。紫蘭、心配掛けた」


「我々は大丈夫です。ただ執政院側のモルトシオネとスカルスノフが…大変なことに…」



 紫蘭が戦場と化し、焼け野原となった執政院を見て、心配そうな声を上げる。劉はビルの方をじっと見つめると、ゆっくり歩き始めた。



「父上!?」


「行くぞ。まだ彼らは戦っているはずだ。後方からの増援に備えて部下の一部は此処に残れ。後は私に続け!」



 劉の言葉に部下たちは敬礼し、エリックらに加勢すべく蔡一門は執政院のビルへと動き出した。

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