第94話 メトロポリスの最も長い一日 その3
アンブロアによる『処置』の影響で人ならざる者と化したケヴィンは全身から禍々しいオーラを出してマフィア連合軍に突進を仕掛けた。エリックの指示を受けて最前線の部下たちがケヴィンに向けて一斉掃射する。
「無駄だー!!!そんな豆鉄砲ごときが俺に通用すると思っているのかー!!!」
ケヴィンは全身に銃弾を浴びながらも止まること無く、徒手空拳でマフィアの一団に攻撃を開始する。マフィアたちは応戦しようにもケヴィンによってちぎっては投げ、ちぎっては投げの地獄絵図となり形勢逆転の様相を見せ始めた。
とその最中、突如として正面玄関口の外から凄まじい駆動音が響いてきた。ケヴィンが怪訝な表情で外に目を向けると、マフィア連合軍が用意していた装甲車がケヴィンに向けて体当たりを仕掛けてきた。
「何!?」
突然のことにケヴィンは対処し切れず、装甲車のフロントにぶつかると壁まで引きずられた。そして最終的に壁と装甲車に挟まれる形で激突した。ケヴィンが口から大量の血を吐いて沈黙する。
「くたばったか?」
「さすがのケヴィンもこれには敵わないでしょう…」
エリックとガーランドが壁に突っ込んだ装甲車の様子を眺め、一息つく。が、それも束の間で装甲車の前方が不自然に持ち上がっているのにエリックが気づいた。そして動揺する間もなく装甲車はあっさりと横転させられ、立ち上る粉塵の先からケヴィンが姿を現した。
「な、な、何ィ…!?奴は不死身なのか?」
エリックの戦慄する姿を見て、ケヴィンは天井に向け咆哮を上げた。ケヴィンの咆哮にエリックのみならず最前線の部下たちも怯み、陣形に綻びが生じる。この隙を逃すまいと大跳躍して一団を飛び越えたケヴィンが後方に控えているエリックとガーランドへ向けて襲い掛かってきた。
「エリック様!此処は私めにお任せを!」
ガーランドが火炎放射器をケヴィンへ向けて放射した。炎を真正面から浴びながらもケヴィンは止まること無く、ガーランドへと向かっていく。かろうじて苦悶の表情を浮かべている限り、痛覚に比べると熱への耐性はないようだ。
全身が炎に包まれたケヴィンの皮膚は黒く爛れ、髪も服も焼け落ちていた。しかし不気味に光る赤い瞳には尚も余裕があり、笑みさえも浮かべている。この異様な姿にさすがのガーランドとエリックも怯んだ。
「ガーランド!下がるんだ!!これ以上攻撃しても奴には通用しない!」
「ぐっ…しかしこのまま彼を野放しにするわけには…」
ガーランドが火炎放射器の熱で顔を歪めた。とその時、炎の合間からケヴィンの拳が飛んできた。そして鈍い音と共にガーランドは火炎放射器を手放し、前のめりに崩れ落ちる。
「な………」
ガーランドが自分の腹部を見るとケヴィンの拳が貫通しているのが分かった。ガーランドは吐血して目の前にいるケヴィンを見据える。その視界はぼやけ、焦点が合わなくなっていた。ケヴィンはニヤリと笑い、そしてガーランドから拳を引き抜いた。拳が体から引き抜かれると共にガーランドから血飛沫が上がった。
「ガーランド!!!」
エリックが慌てて叫ぶ。ガーランドは無念の表情を浮かべ、その場に崩れ落ちる。ケヴィンはエリックの方を向くと指を前に出し、挑発するようにクイッと曲げた。
「次はお前の番だ。義兄弟」
「貴様…どこまでも落ちぶれやがって…!」
エリックは顔を真っ赤にしてケヴィンへ自動小銃を発射した。ケヴィンは避けること無く、銃弾を浴び続ける。やがてエリックの自動小銃が弾切れを起こすとほくそ笑んだ。
「もう終わりか?情けないな、エリック」
「くっ…化物が!!」
「安心しろ。すぐにガーランドとドンの後を追わせてやる」
ケヴィンがエリックに近づくと思い切り顔面に拳を入れた。エリックは口から歯と血を吹きながら執政院ビルの外へと吹き飛ばされた。
「これで終わりだと思うなよ、義兄弟」
ケヴィンが外へと移動し、エリックの追撃を行おうとする。するとモルトシオネ・ファミリーの一団が倒れているエリックを守るように取り囲み、ケヴィンへ武器を向けた。この光景にケヴィンが顔をしかめる。
「貴様ら…俺はモルトシオネの跡目だぞ…?にも関わらず、ぽっと出の野郎に肩入れする気か?」
「ケヴィン、貴方はもうモルトシオネではない!ドンの意向の元、我々の今のボスはエリック様だ!」
部下の一人の言葉にモルトシオネ・ファミリー全員が頷く。エリックはヨロヨロと立ち上がりながら自動小銃に弾を込めてケヴィンに銃口を向けた。
「そういうことだ、ケヴィン。俺たちがモルトシオネだ。もうお前の居場所は此処にはない」
エリックの吐き捨てるような言葉にケヴィンが再び怒りの咆哮を上げた。




