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第93話 メトロポリスの最も長い一日 その2

 メトロポリス執政院内部が戦場となっている頃、地下シェルターではヘンリーが発動させた時空転移装置の効能とその影響について他の評議員たちに説明していた。そして自分達と敵対するマフィアやメトロポリスの底辺層であるダウンタウン一帯を時空転移装置の力で「取り除いた」後の青写真をツラツラと述べている。



「…という訳でそろそろ上の方が静かになる頃でしょう。折りを見て眺めに行きますか」



 ヘンリーは他の評議員らに時空転移装置の力による『浄化』の成果を見せつけようとする。この時点でヘンリーは時空転移装置の発動によって異世界転移したのがハリーたちだけと気づいていなかった。


 ヘンリーがシェルターの重い鉄扉を開けるよう外の警備隊に無線で指示する。とそこへ息を切らせた警備隊の一人が慌てて駆け込んできた。



「た、大変です!!執政議長殿!」


「どうした?外の様子のことか?それなら心配ない、先の光は我々がこの日のために準備して発動させたもの。外が大分静かになったということだろう?」


「ち、違います!!マフィアが…マフィアの連合軍が執政院の敷地を越えて建物内に侵入してきました!」


「何……!?」



 警備隊の回答にヘンリーの表情が大きく歪む。想定外の状況に声だけで取り乱した様子が周りに伝わった。



「どういうことだ…?光は…光は現れなかったというのか?!」


「太陽のような眩しい光の球体らしきものの出現は先に確認しました。光の膨張に巻き込まれぬよう警備隊一同は急ぎ避難しました。マフィアの連中も同時に執政院の敷地内から退避したものと思われます」


「なら問題ないではないか!」


「それが…光の球体が突如破裂し消滅した後、すぐにマフィア連合軍が攻撃を仕掛けてきたのです。我々警備隊は態勢を整える間もなく、一方的にやられている状況でして…」



 警備隊の報告にしびれを切らせたのか、ヘンリーが胸倉を掴んで更に詰め寄った。先程の余裕は無く、焦りから苛立ちを露にしていた。



「バカな?!計算上は執政院の敷地全体に及ぶハズだったのだ!なのにどうして直前で光の球体が破裂したというのだ!?」


「わ、分かりません…しかし上は危険です…『ジョーカー』が対処に入りましたが、いつまで持ちこたえられるか…すぐに避難を…」



 警備隊は上擦った声でヘンリーら評議員に避難を促した。それを聞いた他の評議員から動揺と混乱の声が上がる。やがて評議員らも冷静さを欠くようになり、その矛先をヘンリーに向け始めた。



「執政議長!どういうことですか?先程の説明と話が違うではありませんか!」


「このまま黙って見ていていいと仰ったのは貴方でしょう?この事態を招いた責任は重いですぞ!」


「それに避難しろとしても出入口は一つしかない!マフィアの連中に追い込まれるのも時間の問題だ!」


「どうなさるおつもりですか?執政議長殿!むざむざ連中に皆殺しにされるのか、或いは降伏するのか、ご判断を!」



 他の評議員らに詰め寄られ、答えに窮したヘンリーはしどろもどろになる。それが更に火に油を注ぐことになり、評議員らの怒りが爆発した。



「何てざまだ!これがメトロポリスを束ねる人間の態度か!?」


「執政議長殿。いえヘンリー・ダマスカス殿。もはや貴方は執政議長の座に相応しい人物とは言いがたい」


「いい機会だ。今、評議員全員が揃っていることだし執政議長殿の信任を決めようではないですか」



 この発言にヘンリー以外の評議員全員が頷く。ヘンリーは驚愕して評議員たちの決議を止めようとする。が、満場一致でヘンリーの執政議長の不信任が可決された。



「そういう訳です。執政議長殿。いえヘンリー・ダマスカス殿。もう貴方はメトロポリスの代表者ではない。貴方が持っている執政議長としての全ての権限を即時剥奪いたします」


「「「異議なし!!」」」



 他の評議員らは拍手で不信任を支持して、警備隊らにマフィア連合軍との停戦を命じた。ヘンリーはショックと屈辱の余り、唇を噛み締めて膝を付いた。



「バカな…こんなことがあっていい訳が…」



 ヘンリーは憤怒の表情に変えて両手の拳を握り締めて震わせた。そしてある考えが浮かんだのか、一転して邪悪な笑みを浮かべる。



「そうか…そう来るのか…味方が裏切るのならば私もこれ以上手段を選ぶつもりはない」



 他の評議員らが地下シェルターを出て武装解除と停戦交渉を呼び掛けている隙を見計らうと、ヘンリーは執政院ビルの屋上に設置されている時空転移装置に向けて駆け出した。



「こうなれば私の邪魔をする者は全員『浄化』する!!そしてメトロポリスそのものもこの世界から「抹消」してくれる!!」



 ヘンリーは呪詛の如く、呟きながら階段を乗っていく。ヘンリーの只ならぬ様子を影からスティーブンが青ざめた表情で見ていた。



「…おいおい。思いの外ヤバい事態になったんじゃねえか?とにもかくにも俺は巻き込まれたくないんでね。さっさとメトロポリスからオサラバさせてもらうぜ」



 マフィア連合軍を迎撃するつもりで準備していたスティーブンだったが、評議員らの方針転換を見たことで見切りをつけて逃走準備に切り替えた。

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