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第90話 英雄か、それとも…

 グランシステリア王国の内乱はヘイトフルの死により、アリア側レジスタンスの勝利に終わった。ヘイトフル側に付いていた閣僚や衛兵らの内、大多数はヘイトフルに脅されていた部分があり情状酌量となったが、一部は追放もしくは官位剥奪の処分が下されることとなった。


 民衆のほとんどがアリア側を支持しており、グランシステリア王国は再びアリアを君主とした体制へと戻った。此処までスムーズに事が進められたのは元々ヘイトフルの支持率が低かったのと親衛隊らの根回しや懐柔が功を奏した部分も大きい。

 一部混乱は残るもののひとまずグランシステリア王国の一件は解決を見ることとなった。


 一方でハリーはあの後すぐに拘束され、王宮内の尖塔に閉じ込められることとなった。アリアいわく暴徒化した民衆とヘイトフル派の衛兵らから身を守るため保護したということだが、実質は軟禁に近い。


 ハリーは尖塔の窓からグランシステリア王国の町並みをボンヤリ眺めながら、これからのことを思案した。ハリーの脇でトントはふて腐れて丸くなっている。



「どうしたトント?此処に来てからずっと黙りこくったままじゃないか」


(ハリー…お前さんはこれでいいのか?正直私は納得していない)


「仕方ないだろ。あのときはああするしかなかった。興奮した民衆や衛兵にリンチされるよりは此処にいた方がまだ安全だ」


(そうじゃない。我々は本当にメトロポリスに帰れるのかということだ)


「アリアを信じるしかないだろ。これ以上此処で俺たちに出来ることはない」


(といえ、あれから一週間は経つぞ。そろそろいい加減に…)



 トントがハリーにぼやいていると、扉をノックする音が響いた。ガチャガチャと鍵を開ける音がして扉が開かれると、そこには男女が二人立っていた。



「あんたらは…」


「ハリー、今回の件は色々と世話になったな。あのときは混乱して言えなかったが、改めて礼を言わせてもらう」



 恭しくハリーに頭を下げたのは親衛隊のスイッチだった。その横にいる端正な顔立ちの女性もスイッチに合わせてハリーに頭を下げる。



「アリア女王陛下の侍女のアメリアと申します。私からもお礼を言わせてください。アリア女王陛下から貴方の話は伺っております。この度はお助けいただき、本当にありがとうございました」


「ああ…処刑され掛かっていた影武者の人か」


「はい。貴方はアリア女王陛下並びに私の命の恩人です」


「いやいや、そんなに畏まらないでくれ。お礼なんて水臭いからいいよ」



 ハリーは慌てて二人に頭を上げるよう促した。するとスイッチがハリーの前に出る。



「今回の処遇については苦渋の決断だ。我々にとってあんたは英雄だが、それを快く思わない連中があんたの命を狙っている。ひとまず拘束して表向きは罪人という形で民衆には公表している。連中もそれなら納得してくれるみたいなのでな」


「…ま、仕方ないな。それに俺は英雄なんて柄じゃないからいいのかもしれない」


「ハリー…」


「スイッチ。こないだもいったけど、俺は善人じゃない。矛盾を抱えて生きている只の私立探偵さ。だから早いとこ此処からオサラバした方が良さそうだ」



 ハリーは自虐的に呟いて戸惑う二人の方を向いた。よく見たら二人の左薬指に光る輪がはまっているのに気づいた。ハリーはフーッと深呼吸する。



「おめでとう、お二人さん」


「「えっ…!?」」



 ハリーの言葉にスイッチとアメリアが同時に驚く。ハリーはニヤリと笑って二人の手を指差した。



「いつ婚約したんだ?指輪が主張してるぜ」


「あっ…」


「照れなくてもいい。おめでたいことなんだ。堂々とすりゃいいだろ」


「う…すまない。あんたにアメリアを助けてもらった次の日に勢いでプロポーズを…」



 スイッチが顔を真っ赤にして自分の左薬指にはめた指輪を見る。アメリアも頬を押さえて顔を赤らめた。その様子をハリーは優しく微笑みながら眺めた。



「幸せになれよ。俺の分も…」


「ん?どういうことだ?」


「あ、…いや何でもない。そ、それよりもアリアと話せるか?俺たちが帰れるかどうかを相談したいんだ」



 スイッチが怪訝な表情を浮かべたのでハリーは慌てて話題を変えた。すると再び扉をノックする音が聞こえた。ガチャと扉が開くと、そこに高貴な身なりをしたアリアが立っていた。

 アリアを見たスイッチとアメリアが跪いて頭を垂れる。アリアは部屋の中へ足を踏み入れると二人に頭を上げるよう促した。



「アリア…」


「ハリー、この度は本当にありがとうございました。グランシステリア王国君主として貴方に感謝いたします」


「い、いやそんなに改まらなくていいよ。今更なことだし。それよりも…」


「…遺跡のことですね」



 アリアがハリーとトントをじっと見た。その視線は普段のアリアとは違う君主としての鋭さを感じる。するとアリアはスイッチとアメリアの方を向いた。



「申し訳ございませんが、二人共外してもらっていいですか?大切な話があるので」


「「は、はい!!」」



 アリアの言葉を受けて二人が部屋から出る。出る際にハリーらに二人はもう一度頭を下げていた。扉が閉まり、足音が遠くなったのを確認すると…アリアがハリーに向き直った。そして目に大粒の涙を溜めると、一転して子供のように泣きじゃくりハリーの胸に飛び込んだ。どうやら女王陛下としていられる時間に限界が来たらしい。

 ハリーはトントと顔を見合わせて苦笑しながらも、優しくアリアを抱き締め返した。


 アリアが落ち着くまでしばらく掛かったものの、何とか気を取り直してハリーたちの目的であるメトロポリスへの帰還について相談する運びとなった。



「で、遺跡自体が時空転移装置の原型なんだよな?ソイツを発動させれば俺たちはメトロポリスに帰れると」


「ええ、確かそうよ。ただ発動させるには色々と条件が要るの」


「条件?」


「遺跡は王位継承の儀を行う神聖な場所。まず日取り。光を発動させるには満月の月明かりが欠かせない。そして王位継承者の証が必要」


「王位継承者の証って、あのロケットか?」


「そう。ただ正統な王位継承者でなければあの光を起こすことはできないの。だから発動に私の存在は必須」


「そう…か。アリア、あんたの力が要るのか」



 ハリーはアリアをじっと見つめた。アリアも顔を赤らめながらハリーを見つめ返す。すると少し考えてアリアがある提案をした。



「ねえ、ハリー…もし貴方が差し支えないのであれば此処で暮らせないかしら?」


「…ん?」


「すぐに返事しろとはいわないわ。ただ光の発動条件である満月までは半月近くあるし、もう少しグランシステリア王国を見てから答えてほしいの」


「…わかった」


「ありがとう、ハリー。貴方がどういう決断を下しても支持するわ」


「ああ…ありがとう、アリア。少し考えるよ」



 ハリーは再びアリアを優しく抱き締めた。そしてハリーとトントは重要な決断を迫られることになった。

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