第9話 おかしな二人
「何で此処にいるんだ…」
(腹減って目が覚めたら、ハリーが居なくなってたから散歩に出たのさ)
ハリーは呆れたようにトントに向けて呟いた。トントは両腕を広げたハリーの胸に飛び込む。
(ハリー、お前さんの行くとこなんて大体察しがつくよ)
「そうか?」
(こんな夜更けに開いてるとこなんてバーか、風俗か、非合法の賭場くらいだ。お前さんが風俗や賭場にいくとこなんか見たことないから消去法でバーと睨んだ。
後はバーを経営している知り合いはトマスしかいないからたぶん此処にいるだろうと思ったのさ)
トントの見事な推理にハリーは閉口した。黒猫にまで行動パターンを読まれているとは…
(ところで…)
トントはハリーの横にいる女をチラリと見てハリーに向き直った。その目はどこか軽蔑しているようにも見える。
(…見損なったよ、ハリー。マリアに先立たれて傷心なのは分かるが、女日照りを拗らせてこんな行為に及ぶとは…百歩譲って風俗なら理解はできたんだが…)
「お、おい!誤解するな、トント!これには訳があってだな…」
トントの詮索にハリーはしどろもどろになる。トントの視線が益々痛い。ハリーはコホンと咳払いしてトントにこれまでの経緯を説明した。
(…なるほどな。俄には信じがたいが、外の喧騒を見る限り状況は深刻なようだな)
「全く…どうしてこうなった」
(ハリー、お前さんはつくづく不運な体質持ちだな。一旦状況が悪くなると立て続けに来るもんな)
「反論する気にもならん…」
ハリーは溜め息を付いて横たわる女を見た。
「ところでトント、外の様子はどうなっていた?」
(トマスが警察にあれこれ聞かれていたな。死体らしきものは救急車が収容していった。後はバーの一帯に規制線が敷かれている)
「マスター、すまん…。しかし規制線が敷かれたならまだ動かない方がいいな」
(彼女はどうするんだ?)
「放っとく訳にもいくまい。病院か警察かに保護してもらいたいが、とりあえず家に連れていく」
(はああ!!??)
ハリーの言葉にトントの声が裏返った。
(おいおい正気か、ハリー)
「仕方ないだろ。ドンの依頼の期日が短いんだ。今、警察に見つかってみろ。間違いなく俺は逮捕される。そうなったらドンを裏切ることになるぞ。さすがに釈放後に魚の餌になりたくない」
(でも彼女はヤバイぞ、ハリー)
「何故だ?」
(猫の勘がいっている)
「なんだそりゃ」
(とにかく猫の勘を信じたまえ。それから…)
トントが言い掛けて言葉をつぐんだ。何事かハリーが振り返ると女が上半身を起こして手に握ったリボルバー拳銃をハリーに向けていた。
「…貴方たち、誰…?」
女は警戒の言葉を発した。