第84話 レジスタンス
ローブの者の動揺を悟ったハリーは隙をついてナイフを奪おうとしたが、その背後に複数同じ容姿をした者がいることに気づいた。どうやら知らぬ内に囲まれていたらしい。
よく見ると衛兵の方に同じローブを着た者が近寄り何かを渡している。衛兵がキョロキョロしながら周りに気づかれないように渡されたものを隠すのを見て、ハリーは賄賂を渡したのだと悟った。
「我々と一緒に来い」
ハリーの背後に立っていたローブの者がナイフを降ろすと、他のローブの者がハリーを囲むように立った。そしてローブの者たちは元来た道を戻るようにしてハリーたちを連行する。
ハリーは見知らぬ土地で厄介事を起こさぬよう大人しく従うことにした。トントも心配そうにしていたが、ハリーと共にローブの者に付いていくことにする。
少し道を歩いていくとローブの者たちは草原の方に入り、そして森の中へと進んでいく。ハリーも警戒しつつ、ローブの者たちに付いていった。
「何処へ行く気だ?」
「いいから黙って来い。もう少し奥に行ってからだ」
ローブの者に諭され、ハリーは口をつぐむ。このまま大人しく帰してくれそうにはなさそうだ。森の奥に着いたら集団で襲い掛かるつもりだろうか?そうなったら腕に覚えがあるとはいえ、勝てる自信はない。
しばらく歩いていくと森の奥深く、昼間なのに闇に包まれたかのような暗さの広場に着いた。ローブの者たちが再びハリーの周りを取り囲む。
「…俺たちをどうする気だ?」
「もう一度聞く。アリア様に用がある。本当なんだな?」
「ああ、その通りだ。しかし罪人となっているはずのアリアを様付けで呼ぶなんて…おたくら何者だ?」
「質問しているのは此方だ。それにアリア様を馴れ馴れしく呼び捨てするな!!」
ローブの者が不快そうな口調でハリーに詰め寄る。ハリーは首を傾げつつ、先程の衛兵の話を思い出していた。
「これ以上アリア様に対する無礼を働くならば、此処で斬り捨てる!」
そういうとローブの者たちが一斉に腰に提げたマチェーテを抜いてハリーたちに向ける。ハリーは慌てて両手を挙げた。
「おいおい、落ち着けって…別に俺はそんなつもりじゃ…」
「黙れ!魔女と共に空から降ってきたのを我々が見逃すと思うか!大方ヘイトフル側が召喚した者に違いないだろう!!」
「おいおい、本当に落ち着けって…俺はさっき此処に来たばかりで何も知らないんだって」
(ハリー、まずいぞ。連中かなり頭に血が昇っている)
ハリーはローブの者たちの視線に殺気が含まれているのに気づいた。どうやら旗色は限りなく悪い。
やれやれどうしたもんかとハリーが悩んでいると、突然背後から甲高い凛とした声が響いてきた。
「やめなさい!!丸腰の人間に対して無闇やたらに武器を向けるとは何事です!」
声を聞いたローブの者たちは慌ててマチェーテを納めるとすぐに声の方向に向き直り、恭しく頭を下げた。すると森の奥の方から深紅のローブに身を包んだ女性と両脇に群青のローブに身を包んだ女性が二人やってきた。
「…私の部下たちが大変失礼しました」
「は、はあ…いや此方こそ…」
ハリーも思わず帽子を脱いで頭を下げる。すると深紅のローブの女性からクスクスという笑い声が聞こえてきた。ハリーが何事かと頭を上げると共に深紅のローブの女性もフードを脱いだ。
「…良かった…無事だったのね…」
そこに立っていたのはメトロポリスの時空転移装置の暴走で別れた仲間…。
「ア、ア、ア、アリア…!??」
(まさか…!本物なのか!?)
ハリーとトントは腰を抜かしてその場にへたり込んだ。アリアはハリーの前にしゃがむと静かにハリーに抱きつき、一筋の涙を溢した。
「ずっと会いたかった…私だけグランシステリア王国に辿り着いたけど、貴方たちの姿が無くて…。生きていてくれたらと思っていたけど、こうして再会できた。ハリー…トント…本当に良かった」
「…俺もだ、アリア…無事で本当に良かった…さっきあんたが逮捕されて明日処刑されるという立て札を見たから余計に心配だったんだ」
「…何ですって…!?」
ハリーの言葉を聞いた瞬間、アリアの口調が変わった。その表情は先程とはうって変わって険しいものになっている。
「ア、アリア?」
「ハリー…此処に来たばかりでごめんなさい。どうやら一刻の猶予もないみたいだわ。貴方たち!」
アリアに呼ばれて跪いていたローブの者たちが一斉に立ち上がった。ハリーとトントはメトロポリスで見たアリアとはまるで異なる印象に面食らう。どうやら此方が本来の女王としての姿らしい。
「明朝作戦を開始する。罪人として捕らえられた影武者の救出並びに独裁者ヘイトフルの首を取る!」
「ハッ!!」
ローブの者たちがマチェーテを抜いてアリアの前に捧げた。ハリーたちは状況に付いていけず、まだ呆然としている。
「あ、あのぅ…アリア、様?空気を読まずに申し訳ないんだが…貴女たちは一体…?」
ハリーは恐る恐る手を挙げた。ローブの者たちが鋭い視線でハリーを睨み付けたが、アリアはそれを制してハリーの方を向く。
「ハリー、ごめんなさい。そうよね、此処に来たばかりだから分からないわよね。彼等は私のグランシステリア王国時代からの親衛隊。私は彼等と組んでグランシステリア王国奪還の為のレジスタンス活動に身を投じているの」
(「レ、レジスタンス…?」)
ハリーとトントが同時に呟いた。




