第83話 戒厳令
ハリーたちが森を抜けると、広大な草原が姿を現した。その先にグランシステリア王国の堅牢な城門がある。門の前には鎧を着込んだ衛兵と立て札のようなものがある。
更に城門から横を見ると何やら線路のようなものと駅らしき建物があった。アリアの言ってた通り、王国には蒸気機関車があるようだ。
「目的地は見えているが、大分歩くな」
(しかしハリー…何か気になるな)
「何がだ?」
(あの城門のとこだよ。割りと明るい時間なのに人気が少なすぎる。おまけに随分と物々しい雰囲気じゃないか)
トントが指摘するように城門の前の衛兵は鎧を着込み、更に猟銃のようなものを担いでいる。それも一人だけではない。5、6人くらいか。侵入者に対して目を光らせているようだ。
「何かメトロポリスの「蜘蛛の糸」の検問に似ているな。余り歓迎されない雰囲気みたいだ」
(何か嫌な印象があるなと思っていたらアップタウンの検問か)
ハリーとトントがそんな雑談を続けているといつの間にか城門へと続く大通りへと着いた。このまま道なりに行けば城門へと着く。
「さて…どうするかな」
(?グランシステリア王国へ行くんじゃないのか?)
「そうなんだが、あの様子じゃ簡単に入れてくれそうもないと思ってな」
(うーん…確かに我々はどう見ても不審者だしな。特にハリーが)
「うるさいな!ま…否定はできんが、一言多い!」
ハリーがトントに抗議した。トントは舌を出して笑う。すると二人の姿に気づいたのか衛兵たちが此方を向いて身構え始めた。
(ほらほらやっぱりハリーが怪しいから)
「飼い主に対して失礼だな!」
ハリーは両手を上げるようにして武器を持っていないことをアピールする。ハリーの様子を見た衛兵が一度武器を下ろした。城門は見上げねばならないほど巨大な扉が備えられており、頑丈な柵が門の上部に見える。
「入っていいのか?」
「入って良さそうに見えるか?」
ハリーが衛兵に尋ねると聞き返された。どうやら簡単には入れないらしい。
「じゃ、どうやったら入れるんだ?」
「今は入れん」
「?どういうことだ?」
「…入れないことを知らんのか!?旅の人間か?」
衛兵たちが驚いたような声を上げる。ハリーとトントは顔を見合わせた。どういう意味だ?
「まー…旅の者と言えば旅の者だ。だが俺たちはこの街に用があって遥々やって来た。だから通してもらいたい」
「…今、この国は混迷を極めている。先日のクーデターで新国家と元首が変わったのだが、民衆の反発が余りにも強くてな。一部の民衆は暴徒化し、更にはレジスタンスまで結成されてあちこちで衝突が起きている。鎮圧の為の部隊を投入しているが、現状は火に油。日を追うごとにレジスタンスの勢いは増すばかりだ」
「レジスタンス…?」
「なるべく国内で納めておきたい問題故、戒厳令が出され国全体が封鎖されている。悪いことは言わん。此処から去る方がいい」
「しかし…」
ハリーが衛兵に食い下がろうとすると、衛兵が城門の前の立て札を指して呟いた。
「心配せずとも、もうすぐ戒厳令は解かれる。クーデターを扇動したとして、前君主を拘束した。明日にも公開処刑される見込みだ。これで少しはレジスタンス共も大人しくはなるはずだ」
「…!?前君主…?」
ハリーが慌てて立て札を見に回り込む。トントもハリーに並んで立て札を読んだ。
「バカな…アリア…」
(ハリー…コイツはヤバイ状況だぞ…?)
立て札にはアリアの逮捕と公開処刑の日時が克明に記されていた。ハリーとトントが呆然と立ち尽くしていると不意に後ろから黒いローブを纏った者が声を掛けてきた。
「動くな」
ハリーがハッとして後ろに視線を送ると鋭利なナイフをハリーの首もとに向けていた。トントはローブの者に飛び掛かろうとしたが、それよりも早くナイフがハリーの首を掻き切ってしまう。ハリーはトントに大丈夫と告げると、静かにローブの者に問い掛ける。
「誰だ?俺に何の用だ?」
「グランシステリア王国に用があるといったな。何故だ?」
「この立て札の罪人に用がある」
「…アリア様に…お前のような旅の者が?!」
ローブの者の口調が少し変わった。




