第82話 友との別れは終わりの始まり
異世界へと通ずる光の渦に飛び込んだハリーたちの視界の先に中世風の堅牢な古城と城下町が見えてきた。街中には尖塔が目立つ教会らしき建物もある。一見すると二昔前のヨーロッパの王制を彷彿させる。お昼時なのだろうか、あちこちから煙突の煙のようなものが見えた。
「…古い町並みになった?今度は時間が巻き戻ったのか…」
アラン・スミシーの腕の中でハリーが弱々しい声を出した。急激な移動で体がまたやられたようだ。それでもトントをしっかりと抱き締めて落ちないようにしている。
(よくは分からんが、何処かのおとぎ話の国みたいに見えるな)
「…此処にアリアがいるのか…?」
「恐らくね。君らの希望通りの場所に着いたみたいだ」
背中の羽根を羽ばたかせながらアラン・スミシーがハリーたちに答えた。一行は徐々に高度を落としながら眼下に見える城下町へと近づいていく。
「少し離れた所で降りよう。この姿で他の者に見つかるのは厄介だ」
アラン・スミシーは腕の中のハリーとトントに提案した。ハリーとトントも同意してコクリと頷く。アラン・スミシーは城下町近くの森まで向かうと木々の中に紛れるようにして着陸した。
「さあ、到着だよ。お疲れ様」
アラン・スミシーがハリーたちをゆっくり降ろす。降りて少し元気になったハリーは辺りの森を見回すと感慨深い表情を見せた。この様子にトントが首を傾げて尋ねる。
(どうしたんだ?ハリー。キョロキョロ辺りを見回したりなんかして)
「いや…森なんて全く馴染みのない世界から来たんでな。生まれてからずっとメトロポリスで生活してきたからこういう自然が広がる場所が珍しいんだ。おとぎ話の中でしか知らなかったもんでね」
(へえ…そんなにテンションが上がるもんかねぇ)
ハリーとトントはゆっくりと森の奥の方へと進もうとする。と、アラン・スミシーが後ろから声を掛けてきた。
「お二人さん!ちょっといいかな?」
そういうとアラン・スミシーは羽根で自分を包んで黒猫の姿になった。呼ばれたハリーたちはアラン・スミシーに近づく。
「申し訳ないが、此処でお別れだ。私はそろそろ行かせてもらう。一応私にも目的があるのでね」
「おいおい…マジか。此処からの帰りはどうするんだ?俺たちはあんたみたいに時空を越える力なんかないぞ?」
「それなら心配はいらない。此処には君らのいう時空転移装置とやらがある」
(「何!?」)
ハリーとトントが同時に声を上げる。アラン・スミシーは前足で器用に森の先を指した。
「この先にある遺跡がそうらしい。君らの話を聞いてこの遺跡のことを思い出したんだ」
「遺跡…?」
「原理までは知らないが、異世界の門を開くことが出来るそうだ。私は実際に遺跡から門が開くのを見たことがないので何ともいえんがね」
(ハリー…此処ってやっぱり…)
ハリーとトントは顔を見合わせてアリアの話を思い出していた。とある遺跡の近くで降り注いだ光に包まれてメトロポリスへと来た、と。
「グランシステリア王国…か!?」
「そんな名前かは知らないが、多分君らの希望通りならそうなんだろう」
アラン・スミシーはニコリと微笑むとハリーたちとは反対の方向へと歩み出した。
「ではいつの日にか、また会おう。ハリー君、トント君。君らのこれからを祈ってるよ」
「ああ、本当に助かった。あんたともう少し旅したかったが、互いに目的があるのに無理強いは出来ないしな。名残惜しいが、そちらも達者でな」
(私からもお礼を言わせてくれ。あんたが何者かは知らないが、命の恩人だ)
ハリーは帽子を脱いで頭を下げた。トントも倣って頭を下げる。アラン・スミシーは去り際に右の前足を上げた。そして森の奥へと姿を消していった。
「…行っちまったな。何というか不思議な存在だった」
(そうだな…これからは我々だけか)
「…これ以上感傷に浸っても仕方ない。此処がグランシステリア王国と分かった以上、アリアに会うのが急務だ!彼女が無事なのか心配だ」
(そうだな…その通りだ!)
ハリーとトントは気持ちを奮い立たせて、森の先にある城下町へと歩み始める。そして…ハリーたちの背後では、ある影が見つからぬようハリーたちを追い始めていた。




