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第8話 ミッドナイト

 ハリーは倒れた女を慌てて抱き止めた。遠くの方からパトカーと救急車のサイレンが聞こえる。どうやら誰かが通報したらしい。


 このままではややこしい事態になる。ハリーは急いで女を抱き抱えるとバーの入り口へと向かった。



「ハリーちゃん!大丈夫?!」


「すまない、マスター!とんでもないことになった。店の奥の方に入れてくれないか?」


「待ってて、すぐ用意する!」



 トマスに促されてハリーと女はバーの奥にある休憩室に通された。幸いバーにはハリー以外に客はいなかったので誰かに目撃されている様子はない。


 ハリーは女を横たわらせてトマスに先程の経緯を説明した。トマスは顔を青くしながら心配そうにハリーを見ている。



「マスター、巻き込んじまってすまない。通報されたようだから警察が来るはずだ。この状況下じゃ説明するにもややこしい」


「しばらくは此処で身を潜めているといいわ」


「本当に恩に着る。確か仲間の男たちがいたはずだ。奴等は何処にいったんだ?」


「さっき外の様子を見たけど、サイレンの音で慌てて逃げたみたい。まだ死体らしきものは店の前にあるようだけど」


「…分かった。しかし俺の拳銃が凶器で使われた以上、逮捕は免れなさそうだな」


「でもハリーちゃんのせいじゃないわよ。悪いのはあの男たちなんだから」



 トマスに慰められながらハリーは横たわる女を見た。女は綺麗なストレートの黒髪で顔に痣はあるものの、目鼻立ちの整った美人である。手足もスラリして体のバランスもいい。

 どことなくエキゾチックな魅力があり、高貴な生まれであるように見える。少なくともダウンタウンの出身ではなさそうだ。服もボロボロではあるが、高級そうな生地のようである。


 なるほど先程の男たちが無理矢理にでも連れ去ろうとしていたのも何となく納得の美貌と佇まいである。


 しかし、今その手にはハリーのリボルバー拳銃がしっかりと握られている。無我夢中とはいえ、初対面のハリーからリボルバー拳銃を取った上に拳銃を持った男の頭を一発で撃ち抜く腕前はとても只の女とは思えない。


 ハリーは女を見れば見るほど、その底知れぬ魅力に取りつかれそうになったが、冷静に今置かれている状況を思い出した。



「ねえ、ハリーちゃん。警察と救急車のサイレンが止まったみたいよ。そろそろ現場検証と事情聴取に来るかもしれないわ」


「…ああ、そうだったな。しかし、どうしたもんか…」



 ハリーの脳裏にドン・モルトシオネの依頼が浮かぶ。もし此処で警察に鉢合わせたら間違いなく任意同行を求められるだろう。

 もしそうなったら逮捕もしくは拘留の可能性が高い。ドンの指定した期日までに時間がないのに変に足止めを食らう訳にもいかない。


 ハリーの渋い表情を見てトマスが話し掛けた。



「ハリーちゃん。警察にはあたしの方から説明するから、あたしが戻るまでひとまず此処にいるといいわ。食べ物や飲み物もあるから大丈夫」


「いいのか、マスター?そこまで甘えちまって」


「いいのよ、それくらい。この街じゃ日常茶飯事だし。それにお礼はまたツケにしておくわよ」


「何から何までありがたい、マスター。あんたはいい()だよ」


「お褒めの言葉、ありがとう。でも惚れちゃダメよ」



 そういうと上機嫌にトマスはバーのカウンターの方に出ていった。複数人の声がするので警察が聞き込みに来たのだろう。


 休憩室にはハリーと気を失った女が残された。女はまだ起きる様子がないが、このまま放置しておく訳にいかない。


 ハリーは落ち着こうと休憩室の脇にあるシンクの蛇口を捻って直接口を付けて水を飲んだ。すると…



 カサッ



 何かが動く音がした。ハリーは慌てて水を止め、音のした方向を睨んだ。音は小さいが、何か生き物のようなすばしっこい動きをしている。


 ハリーが身構えていると休憩室のドアの向こうから見馴れた黒猫が現れた。



「トント…!?」


(ハリー、一人で外出なんて水臭いじゃないか)



 トントがハリーに駆け寄った。

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