第77話 トント大いに悩む
(あ、ああ…よろしく)
トントもMr.ウルヴァリンの前足を握り返す。少し落ち着いたのか、トントは二人に頭を下げた。
(先程話した時空転移装置ってやつなんだが、物質転移を可能にする素粒子があってソイツを増幅させる装置らしいんだ。私も詳しく仕組みを知らないが、ソイツの発動を止めようとして飼い主と一緒に巻き込まれたんだ)
「…しかし、そんなものがこの世に存在するなんて。何でそんな危険なものを作ってたんだ?」
(何でもメトロポリスの執政議長が主導で作らせたらしい。『浄化』という名目でメトロポリスのダウンタウンを消滅させようとしてたようなんだ)
「なっ!?町を消滅させるだと?」
ダニーの顔が歪む。Mr.ウルヴァリンも顎に手を当ててトントの話に耳を傾けた。
(色々と話すと長いんだが、かいつまんで言うと飼い主がある依頼を受けて時空転移に関わる情報を探していた。その過程で装置の存在と、そして飼い主の因縁が分かってきたんだ)
「因縁?」
(…実は元々私は飼い主の婚約者に飼われていたんだ。ある事件で婚約者を失ったのを機に今の飼い主に拾われた。そして事件の黒幕が時空転移装置を作った執政議長だったんだよ)
「…何というか思っていた以上に壮大な話だな」
「うむ。複雑だと思ったが中々にハードだね」
(…しかも驚いたことに執政議長は飼い主の生き別れの父親だった。これには飼い主も私も動揺して固まったよ)
トントの話にダニーとMr.ウルヴァリンも固まる。Mr.ウルヴァリンはトントをじっと見ると慰めるように肩を叩いた。
「…凄い話だな。まるでスターウォーズだよ」
(はい?)
「ルーク・スカイウォーカーとダース・ベイダーの関係だよ。君の飼い主とその黒幕とやらはそれに近いんじゃないかな」
(…すまない。そもそもスターなんちゃらを私は知らない)
「おっといけない。君は別の世界から来たんだったね」
「…Mr.ウルヴァリン少し黙ってくれ。話が脱線してる」
ダニーに突っ込まれてMr.ウルヴァリンはイタズラっぽく舌を出す。トントは二人の様子に溜め息を付いた。
(ただその装置がなければどうすることもできない。あっても飼い主と再会できるか保証がない)
「大丈夫だ、トント君。君が此処に来れたということは此方の世界にも同じような素粒子とやらがあるかもしれない。所謂パラレルワールドってやつだが、何かしら鏡合わせになっている気がするんだ」
「おいおいMr.ウルヴァリン。適当に言うなよ」
「ストーム辺りに聞けば、何となく興味を示すんじゃないかな。私から話してみよう」
「…その前にMr.ウルヴァリン。ミス・ジェーンに謝れよ」
勝手に話を進めるMr.ウルヴァリンにダニーが呆れたように苦笑する。トントは二人のやり取りに怪訝な表情を浮かべた。
(そんなに簡単だったら苦労しないよ)
「諦めるのは早いぞ、トント君。モノは試しだ」
「ところでトント、だったな。さっき俺にすり寄ったのはどうしてだ?」
(実はあんたからハリーの名前を聞いたから。ハリーは私の飼い主なんだ。もしかしたらと思って…)
「そうだったのか。すまない、ハリーは俺の息子の名前なんだ」
「えっ?ジョン・コナーじゃないのか?」
「…Mr.ウルヴァリン、いいから黙っててくれ」
(そ、そうか)
ダニーの言葉にトントが項垂れる。一縷の望みだったが、やはり外れか。そう上手く事が運ぶ訳がない。空からハリーが降ってくるとか、そんな冗談みたいことなど…
トントが溜め息を付いたところ、突然上空から何か羽音が聞こえてきた。ダニーとMr.ウルヴァリンも羽音に気づいて空を見上げる。
「「何だありゃ…?」」
ダニーとMr.ウルヴァリンがハモるように呟いた。トントも二人に合わせて見上げると凄い光景が視界に飛び込んできた。
羽根の生えた黒いローブの女性が誰かをお姫様抱っこして迷わず此方へ向かっている。余りにも非現実的な光景にトントも腰を抜かしてへたり込んでしまった。
「見つけた!」
黒いローブの女性がトントたちの前に降り立つと、ニッコリ微笑んだ。




