第76話 Mr.ウルヴァリンとダニー
(な、何なんだ!?どうして私の頭の中が分かる?この猫…一体何者なんだ!)
「私?私はMr.ウルヴァリン。今は君と同じ黒猫の姿をしているが、本体はAIだよ。この体はあくまでも仮の物だ」
(仮の物?えーあい?…益々分からん…)
パニック状態のトントの質問に目の前のMr.ウルヴァリンと名乗った黒猫は冷静に答える。それがますますトントの混乱に拍車を掛けた。トントは情報が渋滞し過ぎて、その場にしゃがみ込んだ。トントは頭を抱えてうなされている。
(うーん…うーん…夢なら覚めてくれぇ…)
「おいおい、Mr.ウルヴァリン。この猫かなり混乱してるぞ。もう少し落ち着かせないとダメだ」
「うーん、そうだなぁ…では黒猫君。君の話を聞こうじゃないか」
Mr.ウルヴァリンは前足をポンと叩いてトントに提案した。トントは顔を上げると怪訝な表情を見せた。
「大丈夫。我々は君に危害を加えるつもりはない。どんな事情があるか知らんが、抱えるよりは吐き出した方がいいこともある。さ、時間はあるし、話してくれたまえ」
「…Mr.ウルヴァリン…会議は…ミス・ジェーンはどうするんだ?」
「ん?」
Mr.ウルヴァリンが横から突っ込んできた機械人間を見つめる。
「サイクロップス君の方から話してくれたまえよ。急用が出来たから行けなくなったって」
「またか!?もうどうなっても知らんぞ!」
機械人間は呆れたように少し離れるとバイザーに手を当てて独り言のように喋り出した。どうやら誰かと会話しているようだが、トントには分からない。
(いいのか?放っといて)
「大丈夫大丈夫」
トントは心配しながら機械人間の方を見るが、肝心のMr.ウルヴァリンは日常茶飯事なのか我関せずで頭を掻いている。しばらくすると盛大な溜め息を付きながら機械人間が戻ってきた。
「…とりあえず後でミス・ジェーンに謝れよ」
「いやー助かるよ。サイクロップス君」
Mr.ウルヴァリンは悪びれず、機械人間に頭を下げた。機械人間はいつものことなのか、やれやれと肩を竦めた。
「では、気を取り直して。君の話を聞こうじゃないか」
(私はトント。メトロポリスのダウンタウンで私立探偵のハリーと暮らしている。とある事件に巻き込まれて飼い主と離ればなれになってしまったんだ)
「ほほう…しかし、メトロポリスとは興味深い」
(知っているのか!?)
「映画でね。昔の名作だよ」
(え、映画?)
「ん?君は映画を知らんのか?」
(いや、そうじゃなくて…メトロポリスはこの世界にはないのか?)
「ん?君のいうメトロポリスというのはニューヨークのことか?」
(ニュ、ニューヨーク…?)
Mr.ウルヴァリンの言葉にトントがまたも混乱する。此処は自分の知っている世界のようで全く別の世界。やはり時空転移装置で見知らぬ土地へと飛ばされてしまったようだ。
いつぞやにアリアのことを変な女だと思っていたトントだが、自分も同じ立場になるとアリアの気持ちが分かる気がする。アリア、ごめんよ。私が間違っていた。
「?アリア?誰だね、それは」
(ハッ!そうか、頭に浮かんだ言葉が分かるのか)
Mr.ウルヴァリンの反応にトントが驚く。
(…信じてもらえないだろうが、私はどうやら別の世界に来てしまったらしい…)
「うーん、君のこれまでの反応を見る限り嘘をいっている訳ではなさそうだな。本気で君は悩んでいる」
(そうなんだが、簡単に解決できる問題じゃないんだ)
「というと?」
(時空転移装置…コイツがないと戻れないんだ)
「時空転移装置だって…?」
Mr.ウルヴァリンが興味深そうにトントを見つめた。その横では機械人間が首を捻りながら二匹の様子を眺める。
「話の途中で済まないMr.ウルヴァリン」
「何だい?サイクロップス君」
「俺も会話に混じれないか?その黒猫の話が妙に気になるんだ」
「いいよ。君のバイザーの無線機能で周波数を私に合わせてくれ。それで聞こえてくるはずだ」
機械人間とMr.ウルヴァリンが何やら話している。機械人間が目元のバイザーをいじって少し経つと、トントの方を見てしゃがんだ。
「おっ、聞こえてきた」
「準備OKだね。さっ、続きをどうぞ。トント君」
(えっ…!?待ってくれ。そもそも私はあんたたちを知らない)
「私は先程自己紹介した通りMr.ウルヴァリン。本体はAIだ。ちなみに分かりやすくいうとロボットかな」
(ロ、ロボット)
「で、此方がサイクロップス君。私の相棒で元海兵隊。今は福祉やリハビリをメインとしたパワードスーツの開発や実演をやっている」
「…ダニーだ。ダニー・マードックだ。名前以外の自己紹介は完璧なんだがな」
ダニーと名乗った機械人間はMr.ウルヴァリンのマイペースっぷりに頭を抱える。Mr.ウルヴァリンはニコリと笑い、トントに握手を求めた。




