第74話 放浪者
「私も君と同じ異世界転移者、いや正確には放浪者だ。色んな世界を行き来してるから、君のいう時空転移というやつも出来なくない。それに私もこの世界からお暇しようと思っていたから一緒にどうだい?」
「本当か!?」
ハリーは思わず身を乗り出した。どういう手段であれ、藁にもすがる思いである。例え会ったばかりの如何にも怪しい喋る黒猫だろうが、今のハリーにとっては救世主以外の何者でもない。
「ただし!当然リスクがあることを承知しておいてくれたまえ」
「…だよな。そうそう簡単に行くわけないよな」
ハリーはガックシと肩を落とすが、アラン・スミシーは話を続ける。
「まあまあ、時空転移については問題ない。リスクというのは向かった先に君の仲間がいるのか保証できないということだよ。何せ私も当てのない旅をしているからね。本当に世界というやつは広いんだ。命が幾つあっても回りきれないくらいにね」
アラン・スミシーが遠い目をして呟く。一体この黒猫はいつから旅をしているのだろう。想像もつかないくらい途方もない時間を生きているのだろうか。
「ま、しんみりした話は置いといて大丈夫かね?」
「う、そうだな。このままだと元の世界に戻ることは叶わないだろうから、あんたに付いていくよ」
「よし来た。ハリー君、ちょっと待っててくれ」
そういうとアラン・スミシーは少しハリーから離れた。すると突然アラン・スミシーの背中から巨大な羽根が生えて、宙に飛び上がった。この光景にハリーは開いた口が塞がらない。
「?どうした、ハリー君」
「…いや…あんた本当に何者なんだ…?」
「話せば長くなるし、君もそこまで興味なかろう。便利屋と思ってもらっていいよ」
「…夢か?これは」
ハリーは頬をつねりながら宙に浮いたアラン・スミシーを見据えた。アラン・スミシーは手招くようにハリーを呼び寄せる。
「さあ、私に掴まって」
「掴まってって…どうすりゃいい?」
「そうだなぁ…ちょっと待っててくれ」
そういうとアラン・スミシーは一度羽根で自分の体を包み込んだ。繭のような姿勢を取ると中から強烈な光が放たれる。ハリーが目を細めていると、目の前に巨大な羽を生やした全身を黒いローブに身を包んだ女性が立っていた。
「な、な、な、…何なんだ!!?あんた一体!!その姿は…!?」
アラン・スミシーの変貌ぶりにハリーはまたも腰を抜かし、思わず叫ぶ。アラン・スミシーは口の前に人差し指でシーッというジェスチャーをした。
「これが私の本来の姿だよ。色々と見られると厄介だからね。普段は黒猫の姿をしているんだ」
「……あんた何でもアリだな…此処まで来たらデタラメもいいとこだ」
「でもこれならいいだろ?」
そういうと女性の姿になったアラン・スミシーが身動きできないハリーを抱きかかえた。さながらお姫様抱っこのような構図である。
「お、おいおい。何を…」
「恥ずかしがらなくても大丈夫。私はこのくらい朝飯前だ」
「いやいや、まさかこのまま…」
ハリーが言い掛けたとき、アラン・スミシーが羽根を広げて飛び上がった。凄まじい速度で大空へと昇っていく。突然のことにハリーは重力加速で顔を歪ませながら、アラン・スミシーにしっかりと抱きかかえられて東京の遥か上空を飛ぶ。
「ほら見たまえ、ハリー君。あの赤い鉄塔は東京タワーだよ。そして向こうに見えるのが…」
アラン・スミシーは親切に上空から東京案内をしてくれるが、ハリーは気圧と寒さと重力加速の衝撃で既にフラフラだった。ハリーの様子に気づいたアラン・スミシーが更に上へと昇っていく。
「…く、苦しい…息ができない…そして…寒い…」
「大丈夫。もう少しの辛抱だ、ハリー君。あと大事なことをいうのを忘れてた」
「…な、…今更?」
「君の仲間のことだ。助けたい仲間を思い浮かべるんだ。それで異世界への『門』を開く」
「…な、仲間…………ト、トント…アリア…」
ハリーは薄れ行く意識の中で二人の姿を思い描いた。すると上から目映い光の渦があるのが見えた。
「よし!もうすぐだ、ハリー君!一気に飛び込むぞ!」
「…うそ…天国への扉じゃ、なかろう、な…」
アラン・スミシーと共にハリーは光の渦へと入る。そして視界がホワイトアウトし、ハリーは再び意識を失った。




