第70話 発動
執政院の正面玄関口に影たちと執政院直属の警備隊が揃い、進軍してきたマフィアの連合軍と対峙した。連合軍の前線部隊は一斉に自動小銃を構え、警備隊も同様に武器を構える。両陣営とも一定の距離を置いて睨み合う。
しばしの硬直状態が続く中、ハリーとアリアは警備隊らの目を避けて隣の棟へ続く渡り廊下へと急ぐ。ほとんどの人員が正面玄関口に集結しているため、道中鉢合わせることなく隣の棟の入り口である鉄扉に到着した。
「確かこの先よ。時空転移装置があったのは」
「よし、行こう…ってどうやって開けるんだ?」
ハリーは鉄扉を開けようとしたが、鍵が掛かっているせいで開けることができない。アリアは考え込んで、どうやって入ったのかを思い出す。
「何か、扉の横にあるボタンをいじってた。暗号みたいだったけど」
「えーと…あった!で、何を入れればいいんだ?」
「えっ…!?…そこまでは知らないわ…」
ハリーとアリアが固まる。ようやく目標の目の前まで来たのだが、此処に来て躓くとは思わなかった。とりあえず適当に数字を入れて試すより他ないようだ。
「なんてこった…でもやるしかないか…」
ハリーはぼやきながらも鉄扉横のボタンをいじってみる。が、中々扉の鍵が開く音が鳴らない。
「…ダメか。どのくらい試せばいいんだろ」
「ゴメンね。暗号まで見ておけば良かったけど、そこまで気が回らなくて…」
「アリアが謝ることじゃない。まだ外は緊張状態っぽいから、とにかく今のうちにやるだけのことはやる」
ハリーが数字を打ち込み始めてから少し経った頃、カチッという音が聞こえた。
「やった!?」
「開くの?」
ハリーが鉄扉をゆっくりと押すと、扉が開いた。ハリーとアリアが顔を見合わせ、喜びを爆発させる。が、まだ入り口が開いたとこなので二人はすぐに我に返った。すると足元から黒い塊がスルッと二人の間をすり抜ける。
「キャッ!」
「なんだ?!」
二人が黒い塊に目をやったが、その正体に気づくとへたりこんだ。
「ト、トント?」
「えっ?どうして中から出てきたの!?」
(いやいやお二人が鉄扉の鍵を開けるのに夢中だったから他に入れる場所がないか探して侵入したんだ。幸い中からは簡単に開けられるみたいだったから私が解錠した)
「…マジかよ…」
ハリーがガックリと肩を落とす。アリアはハリーを宥めると、扉の先に急ぐよう促した。
「そんなにガッカリしないでハリー。装置はすぐそこよ」
「そうだな…行こう!」
(ちょっと待て、お二人さん。この先に装置なんてものなかったぞ?)
「何!?」
トントの言葉にハリーが思わず叫んだ。アリアは驚いて立ち止まるとハリーを怪訝な表情で見つめた。
「どうしたの?大声出して」
「い、いやこの先に装置がないって…」
「は?でもこの先よ。行きましょう!」
「あ、ああ」
ハリーは戸惑いながらもアリアに続いて中へと進む、がトントのいう通り部屋の中はもぬけの殻だった。アリアが驚愕して辺りを見回す。
「!?どういうこと?確かにジョーカーに案内されたときは此処に有ったはずなのに…」
「…何か移動したような跡があるな…一歩遅かったか」
「そんな…一体何処へ?」
(とにかく何かないか探そう、ハリー!)
アリアが愕然として膝を付く中、ハリーとトントは部屋の中の痕跡を隈無く探す。すると地震が起こったのか突然建物が縦に揺れだした。ハリーたちは慌ててその場に伏せて揺れが収まるのを待つ。
「今度は何だ!?」
「地震?」
揺れが収まってからハリーたちは建物から先の渡り廊下へと出た。渡り廊下の窓から外の様子を眺めると、影たちや警備隊、マフィアの連合軍からどよめきが上がっているのが見えた。
「やはり地震か。外の連中も動揺してるみたいだ」
「…違うわ、ハリー。見て!」
アリアが上空を指差して叫ぶ。ハリーがアリアの指先を見ると執政院の上空に巨大な光の玉が浮かんでいた。玉は太陽の如く煌々と照っている。
「コイツは一体!?」
「あの装置よ…あの光の玉見たことがあるわ」
「…まさか時空転移装置?」
アリアの言葉にハリーが生唾を飲み込む。アリアはゆっくり頷くとハリーの手を握った。
「さっきヘンリーが装置が完成したといっていたわよね?それがこの玉だとすると…」
「まずい…メトロポリスそのものを飲み込む!?」
「もし装置が此処にないとしたら…たぶんあの光の玉のすぐ近くにある…」
「行こう!まずはそれしかない!」
ハリーとアリア、トントは急いで執政院のビルへと移動すべく走り出した。




