第7話 ファム・ファタール
「おい、何してる!」
ハリーは外で揉めている一団に声をかけた。一団をよく見ると酔っ払いや客引きの類いではなさそうだ。ジャケットやスーツを着た男が三人に半裸の女が一人…。
女は泣き叫びながら助けを求めて暴れている。男たちは女の体を押さえ付けて何処かへ連れていこうとしていた。近くには古く汚い自動車が止まっており運転手がいる。
どうやら何かしらの事情なのか分からないが、男たちが寄ってたかって女を拉致しようとしているようだ。レイプ目的なのか、それとも…
こういう光景はダウンタウンでは珍しいものではないが、大半の人間は余計な揉め事を避けるため無視している。
だがハリーは一応警官だったこともあり、多少なりと正義感や荒くれと渡り合えるだけの度胸は持ち合わせている。ハリーは臆することなく男たちの元へ駆け寄った。
「此処は店の前だ。これ以上騒ぐようなら通報するぞ」
「なんだ、てめえは?此処の用心棒か?」
「いや、只の常連だ」
「ならスッこんでな!今からコイツを連れていかなきゃならないんだからよ!」
そういうと白いジャケットの男はハリーを無造作に突き飛ばした。ハリーは尻餅を付くが、立ち上がると再び男の腕をつかんだ。
「おい」
「ああん!?しつこい野郎だな」
白いジャケットの男がハリーにメンチを切った瞬間、ハリーの右ストレートが男の顔面に埋まった。ハリーの一撃を受けて、白いジャケットの男は自動車のボディにぶつかって気絶した。
ハリーの行動を見て女を押さえていた他の男たちの動きが止まる。女もハリーを見て叫ぶのをやめた。
「て、てめえ!どういうつもりだ!」
「先に手を出したのはそっちだからな。お返しに一発入れさせてもらった」
「ふざけんな!クソが!!」
女を押さえていた男の一人がハリーに殴りかかるが、ハリーはあっさり避けるとボディブローを入れて男を地面に沈めた。
もう一人の赤スーツの男も女を突き飛ばすと足下の棒切れを拾ってハリーに襲い掛かる。ハリーは両腕で棒の一撃をガードした。そして棒が折れるのを見るや、赤スーツの男の右腕を掴んで一本背負いの要領で投げ飛ばした。
車に乗っていた男の仲間と思われる運転手はハリーに恐れを為して、男たちを置いて走り去った。
ハリーは呆然としゃがみこんでいる女に近づく。ハリーは女に手を差しのべると女が恐る恐る手を握り返した。
「立てるか?」
ハリーの言葉に女は静かに頷く。服は薄汚れてあちこちが破れていた。よほど酷い目に遭ったのか体に痣らしきものが見える。
「とりあえずバーに入って落ち着くといい。後で警察にも連絡するから保護してもらおう」
ハリーが女をバーに入るよう促したとき、女がハリーの後ろにある何かに気づいた。
「危ない!!!」
女の叫び声と同時に一発の銃声が響いた。ハリーが慌てて振り返ると、ボディブローで沈めた男の一人が頭から血を吹き出して地面に倒れていた。男の手には拳銃が握られている。
ハリーがハッとして自分の前を見ると女がハリーの肩のホルスターからリボルバー拳銃を抜いて銃口を構えている。
女はブルブル震えると、緊張の糸が解けたのか気を失って倒れて込んだ。