第67話 ハリーの正体
「嘘だ…そんなこと…デタラメだ…」
ハリーは声を震わせながら否定した。冷や汗が全身から流れだし、目からはうっすら涙が浮かびかけている。アリアはハリーを何とか落ち着かせようと背中を擦り続ける。移動鞄の中のトントも驚愕の事実に言葉を完全に失っていた。
「俺は孤児院育ちだ。物心ついたときには親はいなかったし、顔も知らない。今の今までも実の親のことなんか考えたこともない」
「まあ、知らなくて当然だな。私の息子は幼い内に捨てたのだから。表向きは死んだことにしてね」
「な、何ですって!?」
これにはアリアの方が驚きの声を上げる。ヘンリーはハリーの顔を改めて見た。
「ダマスカス家の資産を独り占めするつもりだった。ちょうど当主も死の床についており、跡継ぎの妻もいない。遺産の相続権は残る私と息子のみ。そうなると息子の存在は邪魔になった」
「……何て人なの…」
「さすがに命を取るのは可哀想だった。だからせめてダマスカス家に関係なく生きてもらうように孤児院へ捨てた。私からの優しさのつもりだ」
「…それが優しさですって?!ふざけないで!貴方の勝手な都合で振り回すなんて…、子どもの人生を何だと思ってるの!?」
何も言えず固まっているハリーに代わってアリアが声を荒げた。アリアは顔を真っ赤にしてヘンリーに詰め寄る。ヘンリーはアリアを宥めるようにして話を続けた。
「まさかこういう形での再会とは夢にも思わなかったがね。ハリー君」
「やめろ…これ以上いうな」
ハリーは腰を引いて後退りした。対してヘンリーはニコリと微笑み返す。
「ハリー・ライナス…いやヘンリー・ダマスカス・ジュニア、これが君の本名だ」
「…ち、違う…」
「そしてようやく君に言えるな。お帰り、我が息子よ」
「う、嘘だ…嘘だあああ!!」
ハリーはショックの余り、その場で膝をついた。余りにも信じがたい事実だった。
婚約者を脅して自殺未遂へ追いやったのは実父だった。しかもその婚約者は自分との繋がりをネタに実父を脅していた。その結果、実父の手で婚約者は殺された。
こんなこと今すぐ信じろというのか??あり得ない。あってはならない。
次から次へと押し寄せてくる情報量にハリーは混乱し、頭を抱えて項垂れた。アリアはハリーの近くに寄って必死に落ち着かせようとする。対してヘンリーはハリーの前に屈み、手を差しのべた。
「感動の親子の再会だ、ジュニア」
するとハリーはヘンリーの手を思い切り払い除けて、毅然と立ち上がった。
「やめろ!俺を『ジュニア』と呼ぶな!俺はあんたの息子じゃない!」
「ほう…まだ現実を直視できないか」
「これ以上、俺を『ジュニア』と呼ぶならあんたをぶっ殺す!騙すカス執政議長!!」
「ダマスカスだ。変に頑固なところは私譲りか」
ハリーの発言にヘンリーの表情が歪んだ。
「マリア・ルイーズ…何故あの女に拘る?既に死んだ人間、しかも過去のことだというに…」
「あんたにその言葉をソックリそのまま返してやる。何故今更俺の存在に、過去に拘るんだ?」
「フッ、執政議長の座を揺るがされたくないのでね。しかもダマスカスは名家中の名家だ。その正統な跡取りを婿養子であった私が捨てたとなると、社交界はおろか世間も黙ってはいまい。まさに一大スキャンダルだ」
ヘンリーは悪びれることなく嘲笑するようにハリーに告げた。




