第65話 告白
「アリア女王陛下。時空転移装置の実物はご覧になられましたか?」
「ええ。ジョーカーに研究棟にあった試作品というのを見せられたわ」
「なるほど」
ヘンリーは満足そうに頷く。ハリーとアリアは時空転移装置の存在を話し出したヘンリーを訝しげに見る。するとヘンリーはローブの中からアクセサリーのようなものを取り出す。
「それは私の!!!」
アクセサリーを見たアリアが叫ぶ。アクセサリーの正体はアリアが身に付けていたグランシステリア王国の王位継承者の証であるロケットだった。ヘンリーはロケットを高く掲げる。
「ジョーカーより受け取りました。このロケットの秘密はご存じですね?」
「…ええ、ジョーカーから聞いたわ。時空転移を可能にする素粒子の結晶。時空転移装置の力を増幅させる為の鍵だって」
「よろしい。アリア女王陛下、此方を貴女にお返しします」
ヘンリーはロケットをアリアに手渡した。あっさりと返還されたのでアリアは呆気に取られる。
「もうこのロケットは必要ありません。なぜなら…」
「装置は完成した…?」
「その通り。既に素粒子の秘密を解き明かしました。長年掛かっても実現できなかった時空転移装置をようやく完成させることができました。全てはアリア女王陛下、貴女の持つロケットのお陰。貴方がメトロポリスに来てくださったことで私の『夢』が叶います」
ヘンリーは感慨深げに天を仰ぐ。それに対してハリーは苦い表情を浮かべてヘンリーの前に出た。
「貴方のいう『夢』とはメトロポリスの『浄化』のことですか?」
「…ほう、ご存じで?」
「近々開催予定の五輪と万国博覧会の会場の為に闇や澱みを消す。ひいてはその象徴であるダウンタウンそのものを消そうしている…違いますかね?」
「中々面白い考えだ」
ヘンリーはハリーのいうことを冗談と捉えたのか微笑を浮かべる。しかしハリーは退くことなく更に続けた。
「答えられないのであれば質問を変えましょう。時空転移装置の原理である物質転移の法則をメトロポリス自然科学研究所時代、貴方が発表されていましたね」
「よく知っているね。左様、このロケットを構成している素粒子こそが物質転移の法則を可能にした。正に世紀の大発見だ」
「では素粒子は誰が発見したのですか?」
「どういう意味かね?」
ハリーの質問にヘンリーは怪訝な表情を見せる。ハリーは徐にコートの内ポケットから愛用の手帳を取り出し、その中に挟まった一枚の紙切れを取った。そしてヘンリーに見せつけるように開いた。
「この紙に記された名前は貴方ですね?そしてマリア・ルイーズをご存じですね?」
「マリア・ルイーズ…ああ、思い出した。自然科学研究所時代の職員か。懐かしい名だ」
「此処に書かれた内容…貴方は先程いっていた素粒子の研究成果をマリアに要求していた。ある意味脅しに近い形で…違いますか?」
「確かにそうだな。マリア・ルイーズが中心となって物質転移の法則に関する素粒子の研究を進めていた。ところが彼女は素粒子に対する研究成果を全て破棄すると言い出してね」
「研究成果を破棄するですって?」
ハリーとアリアが思わず顔を見合わせた。ヘンリーはフッと笑いながら続ける。
「素粒子の研究を進めることは大変危険だ。これ以上続けたら取り返しのつかない事態を引き起こすと警告してきてね。だが私は退くことはしなかった。なぜなら執政院の評議員に立候補する予定があり、その公約にメトロポリスの治安を正すと掲げていたからね。この頃からだろうか、君のいう『浄化』の構想を思い付いたのは」
「………」
「まあ彼女に脅しを掛けて奪う形となったが、素粒子の成果を手にし、やっと時空転移装置の原理を完成させることができた。だが、彼女は成果を奪われたのを苦に自殺未遂してしまった」
「その時に警察官だった俺が彼女を助けた…それから恋人として付き合うようになった。そして彼女が亡くなる直前婚約したんだ」
「らしいな。彼女から直接聞いたよ」
「………!!?どういうことだ?」
ハリーは動揺の余り敬語も忘れて聞き返した。ハリーの反応を見てヘンリーがニヤリと笑う。
「いいだろう。一つ真実を明かすとしよう。マリア・ルイーズは私自らが手を下した」
「な、な、何だって!!!!!」
ヘンリーの告白に対するハリーの絶叫が執政院の大階段に響き渡った。




