第64話 黒幕登場
「本当にいくのか?」
劉の病室に顔を出したハリーとアリアに紫蘭が問い掛けた。劉は少し渋い顔をしつつ、二人をじっと見据える。病室内に張り詰めた空気かま漂う。
「向こうがわざわざ出向いてきたんだ。罠だとしても俺たちは行かねばならない」
ハリーが強い口調で答えた。ハリーの言葉にアリアも黙って頷く。紫蘭が心配そうな表情を浮かべる一方で劉は少し考えると上体を起こした。
「わかった…どの道此処からは我々とは別行動だな、ハリー」
「…そうだな、劉。色々世話になった」
「ふん、人を巻き込んどいてよく言う」
劉は悪態を付くが、紫蘭はまだ俯いたままである。様子を気にしたアリアが紫蘭の元に行くと、両手で紫蘭の右手を握り締めた。アリアの行動に紫蘭が驚く。
「私たちのことは大丈夫だから、そんな顔しないで」
「…私はまだあんたが信用ならんがな」
「ハリーは私が必ず守る。約束するわ」
アリアの言葉に紫蘭は目を丸くし、ハリーと劉は苦笑した。
「そんなに頼りなく見えるのか?俺」
「よくお気づきのお嬢さんだ」
紫蘭はまだ不服そうな表情だったが、アリアが下がるとハリーの方へと近づいた。
「死ぬなよ、ハリー」
「お互い様だろ。劉のことを頼むぞ」
ハリーは紫蘭に右手を差し出した。紫蘭は溜め息を付くとハリーの手を握り返し、そして笑みを見せる。
紫蘭の様子にハリーとアリアがホッとしていると、病室のドアがノックされた。
「どうやらお迎えが来たようだ」
ハリーとアリアは顔を見合わせて頷くと劉の病室を後にする。ハリーは自身の病室に戻るとコートと帽子を羽織り、出発の用意をした。
トントがベッドの下から顔を出し、ハリーの元へと近づく。
(ハリー…)
「トント、心配するな」
(やっぱり私もいく!お前さんだけにアリアは任せておけん!)
「はあ!?何をいってる?これまでとは訳が違うんだぞ。ある意味敵の本陣に行くようなもんだ。それに動物は執政院には入れない」
(失礼な。私はお前さんの相棒だぞ。違うか?)
「しかし、そうはいっても…」
(ダメでも付いていく。私の行動力はお前さんが一番理解してるだろ)
ハリーはこれまでのことを振り返り、トントが神出鬼没だったのを改めて思い出した。そしてその度に助けられたのだ。ハリーは溜め息を付きながら、猫用の移動鞄を出して入るよう促した。
「今回だけだぞ。ダメならすぐに出るんだ」
トントはハリーの言葉に対し、満足げに鞄の中に入った。
「俺も甘いな…」
ハリーはぼやきながらトントの入った鞄を持つと部屋の外で待つアリアと共に病院の階下へと降りた。
…………………
執政院からの使者数名と共にハリーとアリアは送迎用の高級車に乗り込むと病院を出発した。病院から執政院はそこまで距離があるわけではないが、執政院に近づくと周りの景色が様変わりしてきた。何ともいえない重々しい雰囲気が周りの建物から漂っているように感じる。
ハリーにとって執政院はこれまでの人生でまず関わることがない場所でもあった。それだけに入り口が見えてくるとその顔に緊張の色が見える。
アリアは一度足を踏み入れているのもあって緊張する様子はないが、それ以上にケヴィンに酷い目に遭わされたのがトラウマになっているのか若干震えていた。
送迎の車中、誰も言葉を交わさぬまま執政院のビルへと辿り着いた。二人は車を降りると威圧感のある正面玄関口を抜けて目の前の大階段へとやって来た。
「此処が執政院…」
敵陣といえる場所だが、ハリーは興味津々で執政院の中を眺める。一方でアリアはハリーの後ろから辺りの様子を慎重に窺っていた。すると大階段の上から一つの影が姿を現したのに二人は気づき、慌てて顔を上げる。
影の正体はスキンヘッドにモノクルを掛けた壮年の男だった。黒いローブを身に纏い、胸元には黄金色に輝く紋章をあしらったブローチを着けている。
ハリーは男の姿を見て、顔をしかめた。対して男は仰々しく此方に頭を下げて挨拶する。
「貴方は…まさか…?」
アリアは先日来たときには顔を合わせていないので分かっていないようだが、ハリーは新聞紙の写真を見ていたので男の正体にすぐ気づいた。
「お初にお目にかかりますな、アリア女王陛下。私はメトロポリスの執政議長を務めておりますヘンリー・ダマスカスと申します。以後お見知りおきを」
「…貴方がメトロポリスの執政議長…」
アリアがハリーの後ろで固まる。対してヘンリーは柔和な笑みを見せ、今度はハリーに目線を向ける。
「そしてハリー・ライナス君。君とは初めまして、だったかな?」
「…?どういう意味ですか?」
ハリーはヘンリーの言葉に引っ掛かるものを感じ、思わず聞き返す。しかし、ヘンリーは答えることなく、コホンと咳払いすると大階段を降りて二人に近づいてきた。
「よくぞ参ってくださいました。先日はジョーカー、いやケヴィンが大変失礼いたしました。執政議長として心よりお詫び申し上げます」
「い、いえ。そんなことはもうどうでもいいわ。それよりも…」
「時空転移装置、のことですな」
ヘンリーの言葉に二人は思わず生唾を飲んだ。




