第63話 二人と猫と招待状
ハリーとアリアは警察に見つからないように劉の病室を出ると、自分の病室へと戻った。病室へ戻るとハリーはベッドに倒れ込んだ。
ハリー自身全治一ヶ月ながら体に鞭打ってケヴィンと会うためにリバーサイドパークまで足を運んでいた。どうやら緊張の糸が解けてこれまでの疲労が一気に来たようだ。
慌ててアリアが介抱するが、そのままハリーは気を失ってしまった。
アリアはハリーを寝かせるとベッド脇の椅子に座った。トントは劉の病室から戻るとハリーのベッドの下へと潜っていく。
「…戦争か…」
(全くハリーは何処までも厄介事に巻き込まれる体質だな。劉のいう疫病神というのもあながち間違いじゃないな)
アリアとトントは別々のことを考えているが、何れも今後の不安に関することであった。
アリアの最終目標はグランシステリア王国に戻ることである。が、それを実現するにはまずメトロポリス執政院にある時空転移装置を手にいれなければならない。だが執政院には敵が多い。おいそれと装置に触れるどころか中に入ることすら厳しいだろう。
そしてハリーの最終目標は執政議長であるヘンリー・ダマスカスに会い、婚約者だったマリアの件を問いただすことである。これまたメトロポリス執政院に向かう必要があるのだが、こちらも見ず知らずの人間にわざわざ議長が会ってくれるとは思えない。
どちらも実現するにはハードルが高く、打開策を練ってもまとまらない状況である。
「もういいわ、寝る」
そういうとアリアは上着を脱いで身軽になるとハリーの横に添い寝するように入った。これを見てトントが目を丸くする。
(おいおい!女王様、どういうつもりだ?!)
トントの鳴き声を聞いてアリアがベッドの下を覗いた。
「シッ、トント。寝たくてもベッドや布団がないのよ。だからせめて横にだけならせて」
(だとしてもだな…)
「おやすみ」
アリアの行動にトントは閉口しつつも何も知らない振りをして無理やり眠りについた。
………………
翌朝、ハリーが目覚めるとアリアが横に寝ていることに気づいた。思わず声を上げそうになったが、気持ち良さそうに眠るアリアの顔を見るとグッと堪えてベッドから起き上がった。
ハリーが起きたのに気づいたトントがベッドの下から這い出てくる。
「おはよう、トント。昨日はいきなり倒れて悪かったな」
(おはよう、ハリー。随分無理したみたいだな)
「ああ…体も無理したし、色々なことがありすぎてな」
(まったく…ところでハリー)
「?」
(夕べはお楽しみだったのか?)
「なっ!?違う!!」
トントがニヤケながらベッドに眠るアリアを指差す。ハリーは慌てて釈明するが、トントはクククと意地悪な笑いを浮かべていた。
二人の言い争いを聞いてアリアを目を覚ました。まだ眠たいのか気だるい表情を見せている。
「おはよう…ハリー、トント」
(おはよう、女王様)
「おはよう…って何で添い寝してるんだ?」
ハリーはアリアにストレートに疑問をぶつけた。アリアはキョトンとしつつベッドから立ち上がる。
「何で、ってベッドが一つしかなかったから。病院の誰かに頼む手もあったけど、今下手に動いたら厄介事に巻き込まれるかもしらないと思ってね」
「だからといって…添い寝は…」
「ダメ?」
アリアが上目遣いでハリーを見つめる。ハリーはアリアの視線に顔を赤らめながら、思わず目を反らした。
「…ま、仕方ない。でも今日からはベッドを用意してもらおう」
ハリーはコホンと咳払いして心を落ち着かせる。アリアは少し頬を染めて笑った。思えばアリア自身、笑うのは久しぶりかもしれない。だが、すぐさまアリアの表情が曇った。
「本当のことをいうとね…ずっと不安を抱えているのよ…。誰かの近くにいないと自分が消えてしまいそうな…そんな不安と焦燥感に駆られて仕方ないの」
アリアの本音がポツリと溢れた。ハリーはアリアの顔を見て優しい笑みを浮かべるとソッと肩を抱いた。
「ハリー…」
「そんな大胆な真似しなくても言えば分かるよ」
ハリーの言葉に幾分か安心したのかアリアはハリーの胸に埋もれた。トントはやれやれと頭を掻いて病室の脇にある餌入れに向かった。
そしてケヴィンの一件から少し時間が経つ頃、突然ハリーの病室に一人の使者が現れた。
「ハリー・ライナス様、アリア女王陛下でいらっしゃいますか?」
使者の言葉にハリーとアリアは顔を見合わせる。ハリーは使者に対して「そうだ」と名乗ると使者から予想だにしない言葉が出てきた。
「ハリー様、アリア女王陛下。執政議長の命よりお二方をお迎えに上がりました。是非とも我々と共に執政院へとお越しください」
ハリーとアリアが驚愕して言葉を失った。




