第59話 マダム・プレッティーノの強襲
ハリーがリバーサイドパークへ向かっている間、アリアとトントは言いつけ通りハリーの病室に待機していた。本来ハリーは外出できる状態ではないのだが、蔡一門らの賄賂を使って無理やり出ていたのであった。
アリアとトントもハリーを心配しつつ、無事に帰ってくることを祈る。
「それにしても退屈よね」
アリアがベッドに腰を下ろして呟いた。アリア自身も追われる身であり、下手に部屋から出ることができない。一応劉の部下が見張ってくれているが、ケヴィンの件もありイマイチ信用しきれない。
「はー…これなら本か、何か持ち込んでおけば良かった」
アリアが背伸びしてぼやくと、ベッドの下で寝ていたトントが目を覚まして顔を覗かせた。
(女王様よ、ぼやくのは頭の中にしてくれないか?私は眠いんだよ)
トントがアリアに向かって話し掛けるが、肝心のアリアはトントの声を聞くことができないので気づくことなくストレッチを始めている。
トントはやれやれと呟きながら、窓の方へ寄って外の様子を観察する。すると厳つい車が複数台、病院の入り口に停まっているのが見えた。
おや、とトントが視線を向けるとウェーブがかった金髪に厚塗りの化粧、肌が大胆に露出した黄金色のドレスに身を包んだ熟女がタキシードの男にエスコートされて車から降りてきた。
(どっかで見たことある顔だな…はて誰だったっけ?)
トントがぼんやり考えているとトントが起きたことに気づいたアリアが近づいてきた。
「おはよう。ごめんね、起こしちゃったかしら?」
(今更だよ、女王様。ところで何か下の方に来ているみたいなんだが、あんた知らないか?)
アリアはトントが外の熟女に視線を向けているのに気づいて、身を乗り出すように下を覗く。が、突然アリアの表情が青ざめ、逃げるように窓から離れた。
(どうした?)
トントはアリアの様子がおかしいことが気になり、急いでアリアの元に駆け寄る。
「嘘…?どうして此処が…?」
アリアはまるで恐怖に怯えるように体を震わせてその場にしゃがみ込んだ。両腕を掴んで必死に震えを押さえ込もうとしている。
何事かとトントがアリアにすり寄って落ち着かせようとした。アリアは顔をひきつらせつつもトントの顔を見てゆっくり頭を撫でた。
「あの…夜、私を襲った男たちがこの病院に来ている…どうして…?」
(あの夜?もしかしてハリーと初めて会ったときか!?)
トントはアリアの話を聞いてハッとした。つまり先程エスコートされていたのは、マダム・プレッティーノ…。プレッティーノ・ファミリーがやって来たのである。
(なんてこった!てっきりケヴィンの所に向かったと思ったのに…まさか此方を狙ってくるなんて…)
トントは病室のドアを見て威嚇するような姿勢を取る。アリアは何とか体を起こして何か武器になるようなものはないかを探した。
ベッドと簡易机以外にろくなものがない部屋で、掃除用具のロッカーにあるモップくらいである。アリアはモップを手に取るとトントと同じようにドアに向けて構えた。
「何もないよりはマシよ。さ、来なさい!」
アリアは声を震わせつつもしっかりとモップを握る力を込める。しばらくしてドアの外から何やら男たちが揉める声が聞こえてきた。
どうやら劉への面会の強要とアリアの捜索の件で蔡一門とプレッティーノ・ファミリーで一悶着起こしているようだ。
声は近づいているのか次第に大きくなってきた。アリアとトントにも緊張が走る。
ドン!
不意に病室のドアが開け放たれた。白いジャケットの男と赤スーツの男が病室に侵入してくる。二人を見た瞬間、アリアの脳裏にあの夜の出来事がフラッシュバックした。男たちもアリアに気づき、ゆっくりと近寄ってくる。
「これはこれは、お久しぶりですなお嬢さん」
「先日は世話になったな。仲間の仇討たせてもらうぜ。その体でよう!」
白いジャケットの男と赤スーツの男は下品な表情丸出しでアリアとトントを囲むように立つ。アリアは二人から視線を逸らさぬようモップを構えて二人の動きを読む。膝は震えているが、ハリーが不在の今、自分の手で何とかするしかない。
男二人が一斉にアリアに襲い掛かる。トントが赤スーツの男の動きを見て顔面に飛びかかった。トントに驚いた赤スーツの男は慌てて払い除けるが、その隙を見逃さなかったアリアに思い切り頭をモップで打ち据えられた。
「こいつ、大人しくしろ!」
白いジャケットの男がアリアを羽交い締めにする。アリアが必死にもがくが、白いジャケットの男は離すことなく、外にいる仲間を呼ぼうとした。
「離して!汚らわしい!」
「よくもやりやがったな!てめえにはタップリ体で払ってもらうぜ!」
白いジャケットの男がアリアを押さえ込もうとしたとき、トントが男の足に思い切り爪を立てた。白いジャケットの男は脛を引っ掻かれた痛みの余り、絶叫してアリアを離してしまう。
「隙あり!」
アリアはモップを拾い上げると白いジャケットの男の股間にモップを叩きつけた。男は悶絶してその場に倒れ込んだ。
ホッとしたアリアはトントを見ると両腕を広げてしゃがんだ。
「ありがとう、トント…。おいで、すぐに此処から出よう」
アリアはトントを抱き上げると、急いでハリーの病室を出て屋上の方へと逃げる。しかし、その様子を遠目からマダム・プレッティーノが眺めていた。




