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第56話 巨星墜つ

 ドンとケヴィンが倒れたのと同時に回りの男たちが慌てて駆け寄り、ドンを支える。遠くから様子を見ていたエリックとガーランドが走って噴水広場に向かってくるのが見えた。


 ハリーと紫蘭もドンの元へ行く。ハリーはドンの容態を見るが、既に体力の限界が迫り一刻の猶予もない状態だった。

 エリックとガーランドが辿り着くと急ぎ救急車の手配を部下に命じる。エリックはドンの元に来るとしゃがんで、ドンを抱きかかえた。



「エリック…すまないな。老いぼれの最期の我が儘で振り回してしまった…」


「何を弱気なことを。まだ跡目の御披露目まで生きていてもらわねば困ります」


「フッ…そうだな。…だがどうやら約束は果たせそうにない…」


「こんな時に冗談はやめてください…」



 ドンは無理やり笑みを浮かべようとする。しかし次の瞬間、咳き込むと同時に喀血した。ガーランドが急いでハンカチを取り出し、ドンの口元を拭う。



「ガーランド…お前さんにも迷惑を掛けた。モルトシオネのボスとしてスカルスノフの若頭に謝罪する」


「何を仰います。貴方らしくありませんよ、ドン。詫びることなど全くありませんよ」



 ドンの声は覇気を失い、一層弱々しくなった。ドンは覚悟を決めたのか、上体を少しだけ起こすとハリーを呼んだ。名を呼ばれたハリーは驚いてドンの元に近づく。



「ハリー…お前さんにも礼を言う。お陰で最期の最期でケヴィンの後始末を付けられた。これでもう思い残すこともない…」


「ドン・モルトシオネ…」


「報酬の件なら安心しろ。既にお前さんの口座に振り込むよう手配済だ。せめてもの置き土産として取っといてくれ…」


「やめてくださいよ…ドン。まるで本当に死ぬみたいじゃないですか…」



 弱り逝くドンの姿を見てハリーは言葉が詰まる。ドンとは立場こそ違えど長年懇意にしてきた関係であり、ハリーは一人の男としてドンに尊敬の眼差しを向けていた。



「ハリー…泣いているのか?」



 横から紫蘭がハリーを見て問いかける。ハリーは答えることなく、一筋頬を伝った涙を拭った。



「さてそろそろお別れのようだ、諸君…」


「ドン!まだです!まだ早すぎます!」



 ドンの声が少しずつ小さくなっていった。エリックはドンの体を起こしながら、そうはさせまいと必死に呼び掛ける。ドンを見る全員がその場を動くことなく、その最期の姿をじっと目に焼き付けている。



「エリック…後を…モルトシオネ・ファミリーを…任せた、ぞ………」


「ドン!?」



 ドンの頭がガクッと下がり、体全体が力を失ってエリックの腕にのし掛かった。驚いたエリックは何度も何度もドンの名前を呼び掛ける。次第にその声には涙が混じり、やがて嗚咽に変わった。


 ドン・モルトシオネはエリックの腕の中で静かに息を引き取った。


 ガーランドは静かに天を仰ぎ、胸に手を当てて黙祷を捧げた。回りの男たちも紫蘭もガーランドに合わせるようにドン・モルトシオネへ黙祷を捧げている。


 ハリーは他の者と異なり、無意識に敬礼をしていた。ハリーにとってドン・モルトシオネへの手向けであり、最期の挨拶だった。



「…救急車がやって来たようです、エリック様。非常にお心苦しい状況ではありますが、まずはドンのご遺体を収容いたしましょう」



 ガーランドがドンの遺体を抱くエリックの肩に触れて慰めの言葉を掛ける。だがその時、突然予期せぬ声が辺りに響いた。



「どうした?茶番はもうおしまいか?」



 全員がその声の主に視線を向けた。そこに立っていたのは先程死んだはずの人物…



「ケ、ケヴィン・モルトシオネ…!?」



 驚愕するエリックの言葉にケヴィンは不気味な笑みを見せると、腹部に刺さったドンの仕込み杖を引き抜いた。

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