第53話 大いなる怒り
◆ハリーが劉たちと話し合いを進めているのと同じ頃、メトロポリス執政院にて。
アリアに脱走されたことはすぐにケヴィンとスティーブンが知ることとなり、執政院内は大騒動となっていた。
アリアの見張りを担当していたケヴィンの部下はまさかアリアに人並み以上の戦闘能力があるとは夢にも思っていなかったようで完全に油断していた。この為、不意を突かれてあっさり昏倒させられていた。
この一報を知らされたときのケヴィンの剣幕は凄まじく、顔を真っ赤にして部下たちに八つ当たりする始末であった。部下らは必死にケヴィンを宥めようとするが、それが却って火に油を注ぐ。
「クソがアアアア!!!」
ケヴィンは絶叫して壁を力任せに蹴飛ばした。スティーブンはケヴィンの荒れっぷりに引きつつも、何とか平静を保って部下たちの報告をまとめる。
「…なるほど。俺達の想像以上にあの女王様とやらは食わせ者だったみたいだな」
「申し訳ございません…まさか此処まで用意周到に脱走計画を練っていたとは思いもしませんでした」
「ま、逃げちまったもんは仕方ない。また探すより他はないわな。そうだろ、ケヴィン?」
「あああん!!?」
スティーブンがケヴィンを向いて同意を促そうとすると、鬼の形相でケヴィンは部下らを睨み付けた。ケヴィンの表情を見て部下たちは完全に縮こまる。
「無能の言い訳など、どうでもいい…あの女、この俺をコケにしやがって。見つけ次第、ぶっ殺す!!」
ケヴィンの口調は極めて汚くなり、アリアに紳士的に接していた時が嘘のようである。どうやら此方の方が本性のようだ。
スティーブンはケヴィンの態度の変化に対し呆れたように溜め息を付いた。
「おいおい、落ち着けよ。明日はハリーだっけ?ソイツの引き渡しがあるんだろ?それが終わってからでも女王様を探すのは遅くないだろ」
「黙れ!!これは俺の問題だ。お前は口出しするな!」
ケヴィンはスティーブンにも八つ当たりするように叫ぶ。するとスティーブンは懐からある物を取り出してケヴィンの前に差し出した。物を見たケヴィンの表情が一瞬素に戻る。
「おい、例のものを持ってきたんだが…こんなに荒れてるんじゃ、まだいらんよな?」
「…ぐっ…今、ソイツを出すのか?」
「女王様を実験台にするんだろ?その実験台に逃げられたんじゃ、コイツの効能も試せない。まだコイツは引っ込めとくぜ」
スティーブンが懐に仕舞おうとすると、ケヴィンがスティーブンの腕を掴んだ。スティーブンが怪訝な表情でケヴィンを見る。
「待て…ソイツを俺によこせ」
「手にしてどうする?」
「この俺が実験台になってやる。もはや執政院だろうが、グランシステリアだろうが関係ない。俺の邪魔する者は全て潰す!!」
「…マジかよ…身の保証はできんぞ。いいのか?」
「いいからよこせ!」
そういうとケヴィンはスティーブンから無理やり物を奪った。ケヴィンの手には黄金色に輝く錠剤が入った小瓶があった。
「持続時間はどのくらいだ?」
「服用からおおよそ24時間は効くはずだ。モルモットで試して計算を割り出した」
「それで充分だ。明日は蔡一門もろとも血の海に沈めてくれる!」
錠剤を握り締めて息巻くケヴィンの元へ影がハリー襲撃に関する報告に現れた。ケヴィンとスティーブンは影の表情から予期せぬ事態が起きたと想像した。
「ジョーカー…申し訳ございません。暗殺が失敗しました」
「チッ…使えぬ奴等よ」
「念のためちゃんと報告してくれるか?」
ケヴィンとスティーブンの応対に影は震えつつも蔡一門とスカルスノフが手を組んだこと、更にエリックまでもが合流したことを明かした。エリックの名にケヴィンの表情は更に強ばる。
「あのクソヤロウ…俺がいない間にファミリーを乗っ取りやがって…いい気になっているのも今の内だけだ!」
「スカルスノフまで絡んできたか…プレッティーノも裏で動いているようだし…やはり全面戦争は避けられそうにないか」
激情に走るケヴィンに対し、スティーブンは今後のことを冷静に考える。
「まあいい。例のものはほぼ形にしたんだ。『処置』の成果も上々だし、他のファミリーが手を組もうが我々の敵じゃない。それに向こうが戦争を仕掛けてくるんじゃ此方の大義名分も立つ。やってやろうじゃねえか。あんたの目指す『浄化』ってやつをよ」
スティーブンがケヴィンの肩を叩いて鼓舞する。ケヴィンはフーッと深呼吸すると、幾分か落ち着きを取り戻した。
「そうだな。何れにしてもマフィアの連中には消えてもらう予定だった。時期は少し早まったが、コイツの効能を試すにはもってこいだ。片が付いたらあの女…アリアを見つけ出し嫌という程嬲りものにしてぶち殺す…!!」
ケヴィンの目つきが極めて鋭くなる。その様子を横目で見ながらスティーブンは不気味に微笑んだ。




