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第51話 全面戦争への布石

 ガーランドに連れられてハリーらが向かった劉の病室は別棟にあり、特別室となっていた。扉の前には部下の黒服たちがボディーガードとして常駐しており、侵入者や不審者を監視している。

 ガーランドを見た黒服たちは扉の前を避けて病室の中に入るように促した。



「失礼します」



 ガーランドと共にハリーらが入室すると中にはベッドに横たわる劉と脇で看病している紫蘭。そして見慣れない銀髪にオールバックの眉毛のない若い男が窓辺に立っていた。男はハリーよりも幾分か若く、紺色のスーツに身を包みスラリとした佇まいをしている。



「お待たせしました。ハリー様をお連れしました」


「すまない、ガーランド。手を煩わせた」



 劉が上体を起こしてガーランドに礼をいう。時折咳き込むのでその都度紫蘭が背中を擦っている。



「時に…そちらの嬢さんは?」


「ハリー様のお連れの方です。もしものことを考えて此方へお連れしました」


「…わかった。いいだろう」



 劉はフーッと深呼吸して体を落ち着かせる。ハリーらは劉のベッドを囲むように移動した。



「さてハリー。明日のことだが…予定通りでいいんだな?」


「ああ、問題ない」



 包帯や湿布だらけのハリーの体を見て劉が確認するが、ハリーの中には選択肢は一つしかなかった。ハリーの覚悟を見て劉が銀髪の男に視線を向ける。



「だそうだ。そちらも明日のことについて問題はないのか?」


「心得ている。しかし、まさかケヴィンの奴が本当に生きていたとは驚きだったが」



 銀髪の男の眉間にシワがよる。ハリーはこの男の正体が掴めないのか首を傾げていたが、不意に横から紫蘭に小突かれた。



「ハリー、この男を知らないのか?」


「あ、ああ…たぶん初めましてだ」


「エリックだ。モルトシオネの跡目の」


「な!!?」



 小声で話す紫蘭の言葉を聞いて慌ててハリーはエリックと呼ばれた男を見た。

 確かにドンから聞いていた。今度モルトシオネ・ファミリーの跡目を御披露目すると。その跡目こそが今、ハリーの目の前にいるエリック・モルトシオネだ。



「…確かハリー・ライナスだったな。噂程度だが、養父から聞いている」



 エリックがそういうと左手を差し出し握手を求めた。ハリーは劉の件から一瞬戸惑ったが、観念して「よろしく」とエリックの手を握り返した。



「…ではエリック、ガーランド、ハリー。明日を迎えるに当たり改めて確認したいことがある」


「何でしょうか?」


「ケヴィン・モルトシオネが何を企んでいるのか。何故不可侵関係にあった我々に宣戦布告するような真似をしているのか、だ」


「ケヴィンだけじゃない。我々五大ファミリー内でも瓦解が進んでいる。危ういバランスで均衡が保たれていたものの、アンブロアの独断専行による薬物の蔓延や昨今の執政院の急激な締め付けによるプレッティーノ・ファミリーの反発と不穏な動きが広がっている」


「マダムは我々とは別に動いているようですね」


「蔡一門としては全面戦争は避けたいところだが、如何せんマダムは血の気が多い。加えて様々なところにスパイを送り込んで着々と執政院との真っ向勝負を仕掛けようとしているようだ」


「せめてマフィア間でのいがみ合いは止めるためマダムと手打ちを提案したんだが、ケヴィンの野郎のせいで此方の努力も水の泡になりそうだ」


「加えてアンブロアの不可解な動きですからね。これまでの経緯を鑑みるにアンブロアはケヴィンと組んで執政院側に付いていると見ていいかとしれません」



 呆然としているハリーを他所にガーランドらはこれまで起きた経緯について深刻な面持ちで話し合っている。何とか話に加わりたいものの、如何せんハリーは巻き込まれた外野に過ぎないのでこの場での発言権はないに等しい。

 だが、それでもハリーは恐る恐るだが手を挙げてみた。ハリーに三者の鋭い視線が刺さる。並みな人間なら耐えきれないくらいの、それこそ視線だけで殺されそうな雰囲気ではあるが、ハリーは勇気を振り絞って会話に参加する。



「…ちょっといいですか?ずっと明かすべきか悩んでいましたが、ここまで話が拗れた以上はそもそも何故私が今回の一件に関わっているのかというきっかけから説明させてください。皆様のお話とも繋がりが見えてくると思います」


「…ま、いいだろう。お前さんも当事者だからな」


「そうですね。此方の配慮が足りてませんでした」


「どうも。よろしいですか?全てはエリック・モルトシオネ。貴方の養父であるドン・モルトシオネからの依頼から始まりました。ケヴィン・モルトシオネの捜索、そこから芋づる式に事は複雑に動き始めていきました」



 ハリーは覚悟を決めてこれまでの自分が経験したこと、そして得た情報を三人に共有するように話した。

 ハリーの話は長かったが、三人とも中断させることなく黙ってハリーの話を聞き続けていた。紫蘭やアリアも一旦休憩させようとしたが、都度劉がそれを留めた。



「…以上です。かなり推測の部分は多いですが、ケヴィン・モルトシオネ。まずは彼から色々と聞き出す必要があります」



 ハリーの話が終わったとき、三人は黙ったまま考え込んでいた。妙な沈黙と重い空気が病室を包む。エリックに至っては腕組みしながら二の腕を強く握り締めている。表情こそ変わらないが、内心穏やかではなさそうだ。



「なるほど」



 沈黙を破って劉が口を開いた。全員の視線が劉に向く。



「…執政院が本格的に動き出した以上、どうやら全面戦争は避けられそうにないか。だが、我々は執政院側にもマダム側にも付くつもりはない。我々は我々で生き残る為に戦う選択肢を取るつもりだ」


「同感ですね」


「此方も出来る限りは不毛な争いは避けたい。その為の火種は極力排除しないといけない」



 劉の言葉にガーランドとエリックが同調する。アリアと紫蘭は心配そうに周りを見つめており、ハリーは唇をキュッと噛んでこれからも自分が為すべきことを考えていた。

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