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第50話 共通の大敵

 病院の屋上で互いの無事を確かめ合ったハリーとアリアは病室に場所を移してこれまで起きたことや知ったことを共有することにした。

 その中で二人が最も関心を持ったのは、やはり『時空転移装置』の存在だった。



「まさか本当にそんなものが執政院で秘密裏に作られていたなんて…」


「ジョーカーが見せてくれたのは未完成らしいけど、あれがあればグランシステリア王国に帰れるかもしれない。でも…」


「でも?」


「グランシステリア王国の王位継承者の証であるロケットを奪われた。あのロケットこそが『時空転移装置』を完成させる鍵なんだとか…」


「…どの道アリアを帰すためには執政院まで行かないといけないのか」



 ハリーの眉間にシワがよる。アリアはハリーが図書館から拝借した新聞紙の記事を興味深そうに見ていた。



「この記事に書いてある素粒子の塊があのロケットの正体らしいの。元々グランシステリア王国の王家は時空を越える技術を持っていた。技術そのものは封印されたけど、装置の原型となる遺跡は未だ残っていて他の世界と繋がることはできていた。その鍵こそが王位継承者の証であるロケット。…ジョーカーは最初からこれを狙っていたみたい」


「なるほど…上手いこといってあんたを騙していたのか。しかし、何の目的があって執政院は『時空転移装置』を作っているんだ?この記事を見る限り眉唾物のものを莫大な費用を投じてまで実現させようとするとなんて…」


「それは…メトロポリスの『浄化』が目的と聞いた」


「浄…化?」



 ハリーの脳裏にクエスチョンマークが浮かぶ。『浄化』の言葉を発したアリアの顔色が悪くなり始める。



「ねえ、ハリー…近々メトロポリスで国際的な大イベントが開かれるのよね?」


「ん?ああ、そうだったな。何でも五輪(オリンピック)と万国博覧会を開催するとかで執政院が大々的にアピールしてた」


「イベントを迎えるに当たってジョーカーはメトロポリスを綺麗にするといっていた。その為にはメトロポリスの闇や澱みを排除すると…」


「どういう意味だ…?」



 ハリーは疑問をアリアに投げつつ、言葉のニュアンスから最悪の事態を想像した。アリアもまたハリーと同じ考えであったのか底知れぬ恐怖に体を震わせる。



「メトロポリスの闇や澱みを『浄化』するって…まさかとは思うが、執政院はダウンタウンそのものを…何らかの形で消そうとしている…?」



 ハリーの予想にアリアが無言で頷く。

 これにはハリーも動揺の色を隠せず、アリアと同じように恐怖から背筋を震わせた。



「ヘンリー・ダマスカスだ…」



 ハリーはポツリと呟く。アリアは首を傾げてハリーを見た。ハリーの目つきはいつも以上に鋭くなっている。



「誰?」


「今のメトロポリスの執政院の議長。アリアに分かりやすく言えば国のトップみたいなもんだ」


「そうなんだ。でもその人が何で?」


「この記事をよく見てくれ」



 ハリーは図書館で拝借した記事をもう一度アリアに見せた。そこに書いてある名前を見たアリアの中で何かが繋がったのか「あっ!」と声を上げた。



「この人が時空転移装置の原理である物資転移の法則を発見したってこと?じゃ、じゃあジョーカーの影にいるのは…」


「ヘンリー・ダマスカス。奴こそが真の黒幕だ」



 ハリーはアリアを見ると真剣な眼差しで答えた。アリアが胸元を押さえて不安な表情を浮かべる。ハリーは決意新たにゆっくりと立った。



「俺にはまだやらなきゃならないことがある。ヘンリーに会って全ての真相を聞き出す」


「全ての真相?」


「時空転移装置の原理にある素粒子…コイツはもしかしたら奴の功績じゃないかもしれないと思ってね」


「どういうこと?」


「…俺の亡き婚約者はヘンリーと同じ自然科学研究所に所属していた。実は素粒子の成果をまとめていたのは彼女だったそうだ。そして婚約者の上司だったヘンリーはその成果を執拗に求めて脅迫までしていた。つまりは…」


「成果を求めて脅迫?まさかヘンリーって人が貴方の婚約者の成果を横取りして発表したってこと!?」


「たぶんな。確固たる証拠はないが」



 アリアの眉間にシワがよる。記事を見て何か思うところがあるようだ。ハリーは深呼吸して窓辺にいき、メトロポリスの夕闇を眺める。



「アリア。どうやら俺達はメトロポリスの暗部に踏み込んでしまったらしい…」



 ハリーが独り言のように呟いた。アリアも心配そうにハリーを見つめる。とそこへ外からノック音が響いた。



「失礼します」



 病室に入ってきたのはガーランドだった。ベッド脇の椅子に座るアリアの姿を見たガーランドはハッとしたが、すぐに冷静さを取り戻した。



「ハリー様。少しよろしいですか?劉様の病室にて今後のことで擦り合わせたいことがあります」


「あ、承知しました。すぐに向かいます」


「そこのお嬢様も」


「えっ?」


「良かったらご一緒に」



 ガーランドが不安そうなアリアに向けて微笑むと劉の病室へと案内すべく促した。

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