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第49話 夢で逢えたら

 ハリーと劉はアップタウン中心部に程近い総合病院に搬送され、すぐに入院する運びとなった。

 ハリーは落下による打撲で全治一ヶ月。劉は胸に受けた傷が深く、命に別状はないものの全治半年と診断された。

 お互いに素性を明かせないため、ガーランドの計らいで偽名を使う形でそれぞれ個室を割り当てられた。



「しかし、全治一ヶ月なんて…もう期日は明日だっていうのに…」



 ベッドの上であちこちに包帯や湿布を付けられたハリーがぼやいた。その脇で寝転んでいたトントが欠伸しながらハリーを見る。



(仕方ないだろ。その体じゃ無茶できない)


「だが、ドンとの約束が迫っている…こんな所でのんびり寝ている場合じゃない」


(とにかく明日のことについては劉宗玄に確認するしかない。でもあの傷じゃな…助かったみたいだが、しばらくは動けそうもないぞ)



 トントが遠い目をして溜め息をつく。するとハリーがゆっくりと体を起こしてベッドから立ち上がった。その様子を見てトントが驚く。



(おい、ハリー。何処へいく?)


「屋上。少し外の空気に触れて頭を冷やしたい」


(そんな状態で上がれるのか?)


「全く動けない訳じゃないから大丈夫。たぶん」



 ハリーの足取りの重さを見てトントが再び溜め息をつく。仕方ないと、ハリーに付いていくことにした。

 ハリーは階段の手摺に掴まって一段一段ゆっくり登り病院の屋上にやってきた。ほんの僅かな距離だが、ハリーは疲労も相まって全身から汗を流して息切れしている。トントが心配そうにハリーにすり寄ったが、ハリーは笑顔を作って「大丈夫」とトントの頭を撫でた。


 病院の屋上には入院患者が使うシーツやタオルなどが干されており、ハリー以外に人気はなかった。陽がやや傾きかけ、メトロポリスの高層ビル群の合間から西陽が射し込む。トントは日向ぼっこするため、少し離れた場所に移動した。ハリーはぼんやりと屋上の端の方へと歩いていく。


 思えば此処に来るのがハリーにとって長年の憧れであり、夢でもあった。今正にその憧れの場所にハリーは立っている。しかし…ハリーが置かれている現状は妄想していた内容とは真逆であり、決して望んだものではなかった。美しい景色とは裏腹にハリーの心は暗い。



「どうしてこうなった…」



 ハリーは夕陽に向けて一人ぼやいた。明日の状況だって自分の体だって分からない。何がどう転べば全てが上手くいくというのだろう。



「明日になれば答えは出るのか?」



 ハリーは誰に問うわけでもなく呟く。屋上の手摺に手を置いて溜め息を付いていると突然、横に人の気配を感じた。


 ハリーはハッとして横を向くと、そこに立っていたのは余りにも意外な人物だった。



「ア、ア、アリア…?」



 ハリーの目の前にいたのはエキゾチックで綺麗なストレートの黒髪で目鼻立ちの整った女性。身なりは少し汚れてはいるが、高貴な雰囲気が全身から醸し出されている。…夢ではない、確かにアリア本人だった。



「ハリー…!!」



 ハリーと目が合った途端、アリアの目から大粒の涙が溢れ出した。そしてハリーが声を発する前に抱きついてきた。言葉にならない嗚咽を上げてアリアがハリーにもたれ掛かる。



「ど、どうした?!大丈夫だったのか?」



 我に返ったハリーは状況が飲み込めていないのか、慌ててアリアに問い掛けた。アリアはグスッグスッと鼻を啜りつつ、何とか落ち着こうとする。



「ごめんなさい…勝手な行動して…私が間違ってたわ…。もう逃げるのに必死で…ようやく此処まで来てみたら貴方がいたから…夢じゃないよね…?」



 アリアは言葉を絞り出すとまたハリーに抱きついて泣きじゃくる。どうやらよほど酷い目に遭ったみたいだ。ハリーは優しくアリアを抱き締め返した。



「ま、何があったのか詳しくは聞かないが、そちらも大変だったみたいだな」


「グスッ…本当に大変だったのよ…脱出するまでに苦労したわ…」



 そういうとアリアは懐から小さな紙切れを出した。そこにはビッシリと時間らしき数字や見張りの人間の特徴、そして出入口までの地図が書かれていた。これを見てハリーの目が点になる。



「な、何だこりゃ?」


「軟禁されてたときにまとめてた乱数表と地図。これを元にして見張りの目を掻い潜って脱出したの…」


「…お前さん、本当に女王なのか?」



 アリアの周到な脱出方法を見てハリーが呆れつつも笑う。それを見てアリアも安心したのか、ようやく笑顔を見せた。



(は、ハリー!彼女は?!)



 そんな雰囲気の中、アリアの姿を見て驚いたトントの声がハリーの脳裏に響く。アリアもトントに気づいたのか、しゃがんでトントを呼んだ。トントはアリアに近づくと、ゆっくり頭を下げた。



「あの時はごめんね、トント。心配掛けたわね」


(ヤバイ雰囲気だとは思ったが無事であれば何よりだよ。女王様、もう知らない人についていくんじゃないぞ)



 やや悪態をついてトントが舌を出した。その言葉を聞いたハリーが肩を竦めてヤレヤレと呟く。これからのことで悩んでいたハリーだが、アリアと無事再会できたことで少しだけ気分を和らげることができた。


 が、その夜ハリーが突如受けた呼び出しによって事態は大きく動こうとしていた。

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