第47話 惨劇
地上へと真っ逆さまに落ちる中でハリーは下に何があるのかを見る。するとチャイナタウンの屋台のテントが落下点にあることに気づいた。
しめた、何とか助かった。ハリーは勢いよくテントの屋根に着地する。が、しかしテント自体の強度が脆いせいで上から崩れ出した。ハリーはテントの布を巻き込む形で地上へと投げ出される。
突然のことに周囲は大パニックとなり、埃に粉塵、罵声や悲鳴が飛び交う。テントの持ち主らしき怒声を受けながら何とかハリーは布から抜け出した。
「い、痛ててて……」
テントがクッションになったものの打撲で身体中が痛い。しかも劉から受けた傷も完治していないので正に満身創痍である。
足を引きずりながら人混みに紛れてハリーは逃げようとするが、前方から騒ぎを受けて駆けつけたパトカー、後方から襲撃者である影が忍び寄る。襲撃者らはパニックになった群衆に揉まれているせいで思うように進めていないようだが、確実にハリーに近づいている。
「今度こそ絶体絶命か…」
ハリーが諦めて歩を止めたとき、前方のパトカーの進路を遮るように黒塗りの車たちが止まった。驚いたパトカーの警官が車たちに近づいて何やら話し込んでいたが、しばらくするとパトカーに引き返して進路を反転すると撤退してしまった。
「な、なんだ…?」
ハリーがフラフラしながら車たちの動向を見ていると一台の車から見覚えのある二人の男が現れた。
一人は劉宗玄、そしてもう一人は…
「ガ、ガーランド・スカルスノフ…!」
思わぬ人物の登場にハリーの体に震えが走る。ガーランドと劉はハリーの元に寄ると、その後方にいる襲撃者に目をやった。
「私の縄張りで騒ぎを起こすとは蔡一門も舐められたものだな」
「劉様。やはり先程の話の続きは不届き者たちを排除してから進めるとしましょうか」
ガーランドは背後に控えた取り巻きらに手で合図を送る。するとマシンガンを装備した男らがガーランドと劉の前に一列に並んだ。
この様子を見た群衆が一斉にマシンガンの射程から外れるように散った。
マシンガンを向けられた影たちは一瞬たじろぐが、両手から鉤爪を出して突進する。
「マフィア風情が生意気な!!」
「構わん。撃て!!」
劉の号令を受けて取り巻きたちがマシンガンを乱射し始めた。無数の弾丸が影たちに突き刺さる。さながらチャイナタウンは地獄絵図と化した。しかし取り巻きたちの間からハリーが見たのは弾丸を避けつつ、突進してくる影たちの姿だった。
「コイツら…一体どうなっているんだ…!?」
影たちの動きに取り巻きたちも動揺したのか、焦りの表情を見せる。しかし、身体能力の限界から影たちはついに蜂の巣となった。一人を除いてほぼ全滅へと追いやることに成功した劉は取り巻きたちに射撃の中止を合図する。
「随分としぶとい連中だったな。ガーランド、知っている顔か?」
「いえ。これ程の身体能力を持ち合わせている以上、他のファミリーの手練の刺客とは思えません。恐らく何らか『処置』を施した者…執政院クラスのバックが絡んだ者かと推察します」
「なるほど…」
劉は少し考え込むと銃弾を受けて虫の息の影に歩み寄り、胸倉を掴んだ。
「おい、貴様らの雇い主はケヴィン・モルトシオネか?」
「…それは、いえない…」
「じゃあ質問を変えよう。貴様らはアンブロア・ファミリーの『処置』を受けた者か?」
「…!!!」
アンブロアの名を聞いた影の表情が一変する。影の様子を見た劉は満足そうに影の胸倉を手放した。
「やはり…な」
「どうなさいました?」
「執政院とアンブロアの関係性だよ。アンブロアめ、五大ファミリーの協定を破って執政院にすり寄っていたようだ。最近妙な動きを見せていたから警戒していたが、自分たち以外のファミリーを潰すために本格的に動き出したな」
「アンブロア…全く虫酸の走る連中ですね」
劉とガーランドが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。呆然としながら事の一部始終を見ていたハリーはようやく立ち上がることができた。
(ハリー!)
「…!トント」
凄惨な光景に騒然とする人混みの中からトントがハリーの元へと駆け寄った。ハリーもホッとしてトントを抱き締める。が、
「ククク…」
不敵な笑い声に劉とガーランドが反応して声の先を見る。声の主は先程銃弾を受けた生き残りの影だった。
「何がおかしい?」
「…お前たちは考えが甘い。アンブロアの『処置』の成果がこの程度と思ったか?」
影は苦しそうに呟くと胸元から小さな錠剤らしきものを取り出し、口を開いて一気に飲み込んだ。すると、突然影が痙攣を始めた。そして痙攣が収まると全身から血を流しながらも悠然と立ち上がった。
「な…!?コイツは何だ?」
「まさか…アンブロアめ、一体何を施したというのですか!?」
劉とガーランドが慌てて身構える。取り巻きたちも急いで二人の前に出ると、マシンガンの銃口を影に向けて構えた。




