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第45話 決断の時

「ぐっ…蔡一門め。人の足下を見る真似をしおって…」


「連中はハリー・ライナスの引き渡しの日と場所を指定してきました。二日後のリバーサイドパークの噴水広場に正午だそうです。必ず貴方が立ち会うようにとのことです」


「…チッ。勝手なことばかり抜かしやがって」



 ケヴィンが苛立ちを露にしてタバコを足でグリグリと踏み消す。スティーブンは動揺しながらも少し考えてケヴィンの肩を叩いた。



「まあ落ち着け、ケヴィン。奴の居場所が分かって良かったじゃないか。指名手配したのは奴を消すのが目的だったんだろ?」


「…奴を消すのであれば、すぐに刺客を宛がう。だが気になるのは何故蔡一門が私を指名するのか、だ?」


「何か裏で蔡一門が企んでいるってことか?」


「恐らくはな」



 ケヴィンは天を仰いで思案する。少しの間をおいてからケヴィンは目で影に合図した。影はケヴィンの意を汲んだのか恭しく頭を下げるとすぐにその場を後にした。



「蔡一門から引き渡される前に暗殺を選んだか」


「私は蔡一門の言いなりになるつもりはない。どちらにしてもグランシステリア王国を知る者、取り分け私の邪魔をする者は何人たりとも生かしてはおかない」


「じゃ、例のドラッグについてはどうする?」



 スティーブンはケヴィンの顔を覗き込んで返事を待つ。ケヴィンは少し落ち着きを取り戻したのか、笑みを浮かべた。



「取り急ぎ試作品を頼む。いつまでに用意できそうだ?」


「そうだな…明日の午前中には第一陣が出来上がる予定かな」


「よし。そいつはアリア女王陛下を実験台にするとしよう。どこまで効能を引き出せるか楽しみだ」



 ケヴィンはスティーブンの肩を叩き返して一本タバコを差し出した。スティーブンがタバコを口に咥えるとケヴィンはライターを出して火を点けた。



 ……………………



 ケヴィンによって執政院内の小部屋に軟禁されたアリアは用意された簡易ベッドに不貞腐れるように寝ていた。

 不自由はさせないとケヴィンはいったものの小部屋の中はハリーの部屋が豪邸のように感じるくらいさもしいものでトイレも部屋の片隅にある。アリアはほぼ一週間近くその中に閉じ込められていた。

 時折食事が運ばれてくるが、食事とはいえないくらい貧しく不味いものばかりだ。これでは囚人並み、いや囚人の方がよっぽど旨いものを食べている。



「はー…一体いつまで此処に閉じ込められるのだろ」



 アリアは溜め息をつきながら鉄格子が嵌め込まれた小窓を眺めた。この窓だけが唯一アリアに外の時間が流れていることを教えてくれている。


 食事の時間以外でアリアの部屋に近づくものはほとんど居らず、ただ静寂だけが延々と続く。誰かと会話したい。赤の他人でもいい。自分が人であるかも忘れてしまうくらい、おかしくなりそうだ。



「ハリー…」



 アリアが弱々しくハリーの名を呟いた。ほんの数時間しか会っていない、よく知らない男なのに妙に忘れ難い。というかこの見知らぬ街で唯一頼れる、そして心から信じられたのが彼、ハリーだった。



「ハリー…トント…」



 アリアがボンヤリとしているとカツカツと部屋に近づく二つの靴音が聞こえてきた。アリアは窓の太陽の高さを見ると、次に目を閉じて音の近づくタイミングを測る。少ししてドアをノックして鍵を開ける音が聞こえた。食事の時間のようだ。

 見張りらしき男と食事を運ぶ男の二人が部屋に入ってくる。簡素なテーブルに食事のトレイが置かれると男たちは再び部屋を出て鍵を掛けた。


 アリアはベッドから起き上がるとテーブルに向かい、食事の内容を見た。相変わらずさもしい食事である。アリアは溜め息を付くと、再び小窓の様子を眺めた。



「どうやらそろそろ動くときが来たようね」



 アリアは一人呟くと髪の中に仕込んでいたヘアピンを力ずくで伸ばして針金状にした。



「…今、食事を運んできた。次に来るのは恐らく30分後。そして食事を下げた後は三時間以上は此方に来ないはず」



 アリアはベッドのマットレスの下に挟んでいた紙を取り出した。紙にはビッシリと時間らしき数字や見張りの人間の特徴が書かれている。さながら乱数表のようだ。空欄にアリアは先程の見張りの特徴と時間を記入する。



「ジョーカー…私を只のか弱い女だとおもっていたら大間違いよ。私をこけにしたことを後悔させてやるんだから」



 アリアは椅子に座って食事を取ると、次の見張りの来るタイミングをゆっくりと待った。

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