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第43話 疫病神

 トントの言葉が分かることに対するハリーの驚きとは裏腹に紫蘭はさも当然のような表情で淡々としている。トントはというと頭を掻いて二人のやり取りを興味深そうに見ていた。



「ハリー、やはりこれから執政院にいくのか?」


「そうだな。例えどんな状況になったとしても俺の目的はケヴィン・モルトシオネをドンの所へ連れていくことだ」


「…なあ、ハリー。実はまだ何か別の目的があるんじゃないか?」



 紫蘭がハリーの顔を覗き込んで詮索するように問いかける。ハリーは目を閉じてフーッと深呼吸した。



「鋭いな。確かにケヴィンの件は此処に来るきっかけの一つに過ぎない。紫蘭…お前にだけ伝えておくが、ヘンリー・ダマスカスに会うのも目的の一つだ」


「ヘンリー・ダマスカス?」


「今のメトロポリスの執政院の議長だ」


「メトロポリスの指導者か?そんな奴がお前に会ってくれるのか?」


「簡単に会ってくれる訳ないな。だが、どんな手を使っても俺は執政院にいって奴と話をつけるつもりだ」



 ハリーの口調は強いものになり、目付きも真剣そのものになっていた。その様子を見て紫蘭も何か考え込む。



「それと…執政院にいるのかまでは分からないが、ある女性を助け出さなきゃならない」


「ある女性?」



 紫蘭が興味深そうにハリーの顔を眺める。



「…亡国の女王…彼女との約束も果たす必要がある」


「亡国の女王…」


「俺が執政院に命を狙われることになったのは彼女と接触してからだ。執政院にとって彼女の存在が外部に漏れるのは都合が悪いのだろう。だが俺自身、彼女に助けられた手前、このまま黙って見過ごすことはできない」


「なるほど…命の恩人の救出か」


(…ハリー、我々に残された時間は少ない。となると、そろそろ動くべきじゃないか?)



 横からトントが口を挟んだ。ハリーはトントの顔を見ると苦笑して頭を撫でた。



「そうだな、ドンとの約束の日までもう少しだからな」


「なあハリー、一人で解決しようとしてないか?」


「紫蘭…心配してくれるのは嬉しいが、これ以上拗らせなくないんだ。だからせめて劉宗玄には黙っててもらえないか?」



 ハリーが紫蘭にお願いしたタイミングで庭園の先から一人の男が歩いてくるのが見えた。藍色に染め上げた中華風の高貴な衣装に綺麗に手入れされた長髪、そしてカイゼル髭の男の顔を見て、ハリーが思わず真顔になる。



「劉宗玄…!」


「…久しぶりの再会だな、ハリー・ライナス…」



 劉宗玄はハリーの前まで来ると左手を差し出した。ハリーは反射的に劉と握手する。と突然、劉はハリーの腕を絡めとって庭園へ向けて放り投げた。ハリーは庭園の砂利に背中をつく。



「父上!?」



 驚きの余り紫蘭が劉に向けて叫ぶ。劉は紫蘭の顔を見て鋭い睨みを利かせた。紫蘭は劉の迫力に恐れをなして黙り込む。



「痛ててて…」



 ハリーがゆっくりと立ち上がる。劉はハリーが邸内に戻ってくる様子を見て、素早くハリーの前に移動すると胸に当て身を加えた。



「ぐはっ!!」



 ハリーが呻き声を上げて吹き飛ばされる。トントが慌てて間に割って入ろうとしたが、すぐさま紫蘭に掴まえられた。



(離してくれ!このままじゃハリーがやられる!)


「ダメだ。父上の目付きは本気だ。下手に割って入ったらお前も只ではすまないぞ!」


(そんな…!)



 紫蘭はトントを宥めるように叫ぶ。ハリーが一方的に叩きのめされる様子を二人は呆然と見るしかできなかった。



「ぐぅ…!!」



 ボコボコにされたハリーが膝をついて口から血を吐くと劉がハリーの胸倉を掴んで無理やり立たせた。



「フゥ…相変わらず酷い野郎だな、劉宗玄…」


「相変わらず私に厄介事を持ち込む男だな、ハリー・ライナス。全く貴様の疫病神っぷりは筋金入りだ」



 そういうと劉は手を離し、ハリーは地面に尻餅を付いた。そしてどちらともなく乾いた笑い声を上げた。先程までとは打って変わった二人の様子を見て紫蘭とトントはお互いに顔を見合わせた。と同時に首を傾げた。

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