第41話 旧知との再会
ハリーが目を覚ましたとき、周りからお香の匂いが漂ってくるのに気づいた。視界には見知らぬ天井とお香の煙が充満しているのか靄のようなものが掛かっている。
思い切り鼻で呼吸すると、思わずむせてしまう。ハリーが咳で頭を起こすと上半身裸で小さな布団に寝かされているのが分かった。
ハリーが周囲を見回すとお香を焚いている香炉と立派な仏像らしきものが飾られている。此処は何処だろう?頭を更に起こすと身体中に痛みが走った。
「そうだ…確かワゴン車を避けようとして…横転したんだった…」
ハリーは意識を失う直前の記憶を思い出す。と共に此処が病院ではないことにも気づいた。
「…此処は一体…トントは何処だ…?」
ハリーが呻くように頭を押さえていると入り口らしき引き戸からお団子頭に結った小柄な女性が入ってきた。
「目が覚めたか、ハリー・ライナス」
「…!?誰だ?何故俺の名を…?!」
「危うくお前の車とぶつかるとこだった。偶然とはいえ、居合わせたのが知り合いで良かったな」
「知り合いだと!?」
ハリーが怪訝な表情で女性の顔を睨み付ける。過去に何処かで会ったことがあったのか?
「やはり思い出せないか。仕方ない、最後にお前に会ってからもう五年以上経つしな。あのときは私も幼い子供だった」
「子供?」
「五大ファミリーの蔡一門の総帥、蔡大老を覚えているだろう。その側近だった劉宗玄の娘だ」
「…もしや紫蘭か?」
「大当たり」
ハリーから名前を呼ばれた紫蘭はニコリと笑った。突然のことにハリーは呆然とする。
「…大きくなったな」
「まるで親戚みたいな言い方だな」
「いや、俺がマリアに出会ってからずっと会っていなかったからな…」
「マリア…?誰だ、そいつは」
「婚約者だ。…だったが正解だが…」
ハリーの悲しげな表情を見て紫蘭はこれ以上詮索するのを止めた。ハリーはすぐに紫蘭の気遣いに気づいて笑みを見せた。
「それより紫蘭。此処は何処だ?」
「此処?アップタウンのチャイナタウンだ。蔡大老が使っていた豪邸の一部を改装したセーフハウスだ」
「蔡大老が使っていた…?」
「蔡大老は昨年他界された。大老の死による混乱が生じることを恐れて父が影武者として一門を取り仕切っている」
「そうか…全く知らなかった…というか紫蘭、お前たちは元々ダウンタウンにいなかったか?」
「そうだ、大老が亡くなられる直前に父に命じて此方の豪邸に移ったのだ」
劉紫蘭の父、劉宗玄はメトロポリスを裏で仕切るマフィアの五大ファミリーの一つである蔡一門の最高幹部を務めている。蔡一門はメトロポリスに渡る移民たちの職や住居の斡旋を裏で仕切る組織でもある。
ハリーとは警察官時代に移民絡みのトラブルで揉めた際に知り合い、共に解決した経緯があった。紫蘭ともこの頃からの付き合いである。
「劉宗玄は元気なのか?」
「一応な。ただ今は色々と他のファミリーと揉め事が多くて忙しいんだ」
「揉め事?」
「アンブロア・ファミリーを知っているだろ」
「アンブロア…」
ハリーの表情が強ばる。アンブロア・ファミリー…その名を意味するものは…。
「…ドラッグ絡みのトラブルか」
「正解。連中、最近妙な動きを見せている。移民たちの間で新型のドラッグが蔓延しているようなんだ。それをばらまいているのがアンブロア・ファミリーらしい」
アンブロアの名前について紫蘭の顔つきが一気に険しくなった。




