第39話 チェイス・チェイス・チェイス
(おいおいおい!いきなり追われているぞ。どうするんだ、ハリー!)
「とにかく今は逃げる!トント、追っ手がどのくらいか見てくれ!」
トントは素早く後部座席に移動するとリアガラスから追ってくるパトカーの数を確認した。パトカーはサイレンを鳴らしてハリーの車に猛スピードで追いすがってくる。
(此処から見る限りじゃ五、六台といったとこか。まだ来るかもしれない)
「分かった!しっかり掴まっていろ!」
(えっ!?)
トントが返事をする間もなくハリーは急ハンドルを切って右に旋回した。遠心力でトントが座席から転げ落ちる。
(痛て!!もっと優しく運転しろ!!)
トントの抗議に構わず、ハリーはスピードを上げて中心部から少し外れの市街地に車を飛ばした。ハリーがサイドミラーを覗くとパトカーの数が更に増えてきている。
「どうやら応援を呼んだようだな!」
(何処へ行くんだ?中心部を外れたぞ!?)
「これでいい!とにかく追っ手を撒く!」
市街地に入ると周りを走る車の台数が増え出した。ハリーは道行く車の合間をすり抜けて尚も逃走を続ける。パトカーも必死に食らいついてくるが、何台かは他の車輌にぶつかって追跡を断念した。悔しそうな表情を浮かべて警察官が外に降りてくる。
ハリーの車もすり抜ける際にぶつかってサイドミラーを破損してしまい、追っ手の状況がうまく掴めなくなってしまった。
「トント!すまないが、もう一度後ろを確認してくれ!」
(またか!?頼むから急ハンドルはやめてくれよ!)
トントはヨロヨロしながらも後部座席に乗り、もう一度リアガラスを覗き込んだ。
(多少は台数が減ったようだが、まだ追いすがってくるぞ、ハリー!)
「分かった!」
トントの言葉にハリーは再び急ハンドルを切って一気に車をUターンさせた。反動でトントが後部座席からまたも転げ落ちる。
(だから急ハンドルはやめろ!!!)
トントの怒りも受け流してハリーはアクセルを踏み込んだ。追ってきたパトカーの間をすり抜けて今度は逆走する。ハリーの車の動きにパトカーたちは翻弄されたのか、慌てて急ハンドルを切った。が、制御できずスピンして街灯や道路脇の露店に突っ込んで止まる。
「これで多少は撒けたかな?」
ハリーはバックミラー越しにパトカーの様子を伺う。するとトントがフラフラしながら後ろから助手席に戻ってきた。
(ハリー…今回の件、覚えてろよ…)
「悪い悪い。派手にやったが、後は目的地近くまでいって乗り捨てよう」
(しかし、さっきの襲撃から指名手配までの流れがスムーズすぎる。まるでハリーがアップタウンに来るのを知っていて罠に掛けたとしか思えない…)
「確かに…情報が何処からか漏れていたようだな」
(マダム・プレッティーノの裏切りか?)
「それはない。もしマダムが裏切るのなら交渉の時点でとっくに俺を始末しているはずだ。こんな回りくどいやり方は取らないだろう」
(じゃあ執政部か、もしくは他のファミリーの仕業か)
「いずれか、だろうな」
ハリーとトントが推察していると不意に脇道からワゴン車が現れた。驚いたハリーは慌ててハンドルを切ったが、バランスを崩して車は横転する。その勢いで車は横滑りし、街路樹に衝突して止まった。
「痛て…て……。トント…生きているか…?」
(あ、ああ…私は大丈夫だ)
「そうか…。よ、良かった…」
横転した車の中でハリーがトントの無事を確かめると、ホッとしたのか気を失った。
(は、ハリー!?)
トントが慌ててハリーの顔を前足で小突いてみるが、ハリーの反応はない。
(ど、どうしたらいいんだ…?)
呆然とするトントの横からひしゃげた車のドアを開ける音が聞こえた。ドアの外には屈強なアジア系の男と同じくアジア系の小柄なお団子頭に結った女性が立っているのがトントから見えた。
(だ、誰だ!?)
トントがハリーを守るように立ち塞がると、お団子頭の女性がしゃがんでトントの顎に手を置いた。
「心配ない。貴方の主人は私たちが連れていく。貴方も一緒に来るといい」
(そんな話、信じられるか!)
トントが女性を威嚇するが、女性は構わず男に命じてハリーを車から引きずり出させた。そしてトントの方を向いて笑顔を見せた。
「信じてもらえるか分からないが、私は貴方の話が分かる。私は劉紫蘭。貴方の主人は確かハリーよね?」
(何故…それを…?)
「今は話している時間がない。さ、早く行くよ」
紫蘭と男は気を失ったハリーを先程現れたワゴン車に乗せた。トントも慌ててワゴン車に向かって走ると紫蘭がドアを開けてトントを乗せた。




