第37話 影の襲来
車を降りた影は目出し帽を被った黒づくめの格好をしており、手にはナイフのような刃物を持っている。性別までは分からないが、背丈は高く全体的にアンバランスな肉付きをしていた。明らかに殺意を持って此方へと向かってきている。
ハリーはトランクを持ってメトロポリスの中心部へと走って逃げようとしたが、影たちは逃がすまいと素早く回り込んでハリーの進路を塞いだ。影たちの尋常じゃない動きにハリーは激しく動揺する。
影たちの眼は不気味に光輝いており、黙ってハリーをじっと睨み付けている。
「お前ら…何者だ?」
影たちは答えることなくナイフの刃をハリーへと向けた。ハリーはトランクを盾に構えて影たちの次の動きを見据える。
「まさかと思うが…執政部の手の者じゃないだろうな?」
ハリーの言葉が発せられたと同時に影たちが一斉に動き出した。ナイフの突進をハリーは間一髪トランクで防ぐ。衝撃でトランクが開いて中の服たちが散乱した。ハリーはトランクの脇に忍ばせたリボルバー拳銃を取り出すが、もう一人の影が横から突っ込んでくるのに気づいた。
「チッ!やむを得まい!」
ハリーは騒ぎになるのも構わず、リボルバー拳銃を影に向けると躊躇なく発砲した。発砲音と共に弾丸は影の頭目掛けて発射されたが、何故か弾道は影の頭を掠めていく。ハリーが外したというよりも影に避けられたという方が正しい。
「!!?」
ハリーが影の動きに驚愕していると、すかさず影がナイフを振ってきた。ハリーは瞬時に後ろへ退くが、胸のネクタイが切り取られて地面に落ちた。
「な…確かに頭を狙ったのに…?」
至近距離で放たれたにも関わらず、影はアッサリと弾丸を避けた。まるで常人の動きの範疇を越えている。
ハリーの額から脂汗のようなものが滲み出す。
「コイツらは一体何なんだ?!」
ハリーが叫ぶと背後にいたもう一人の影が再びハリーに迫った。隙を見せたハリーが思わずハッとする。
(危ない!)
脳内に声が響くと同時に黒い塊が目の前に現れ、影の顔に飛び付いた。これには影も予想外だったのか、一瞬動揺を見せる。この隙に黒い塊は影の目出し帽の目を狙って、思い切り爪を立てて引っ掻いた。
「ギャアアアア!!」
影から悲痛な叫び声が上がり、ナイフを落として目を押さえた。もう一人の影も動揺の余り、動きが一時的に止まる。ハリーは素早くナイフを拾い上げるともう一人の影の胸を目掛けて突進した。
突進の勢いでナイフは影の胸に刺さり、体ごと遥か先へと吹っ飛ばされた。
(今だ、ハリー!奴等の乗った車に乗るんだ!)
脳内の声に導かれるようにハリーは影たちの乗っていた車へ乗り込んだ。キーがついたままになっているのを確認すると、急発進してバックする。
影たちが急いで車を止めようとするが、ハリーは構わず影たちを撥ね飛ばして中心部へと車を走らせた。
ハリーがバックミラーを見ると先程の発砲音を受けて何人か警備員らしき人間が駆け寄ってきているのが分かった。
「はあ…はあ…何とか凌いだか…」
しかしハリーが再びバックミラーに目をやると、撥ね飛ばしたはずの影たちがヨロヨロと立ち上がっている姿が小さく見えた。パッと見だが、二人共無事なようである。ハリーは思わず後ろを振り返った。
「バカな…嘘だろ?不死身か奴等は…!?」
ハリーは衝撃的な光景に愕然としながらも気を取り直して車を飛ばすことにした。




