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第35話 ハリーの覚悟、ドンの落とし前

「ドン、この記事にある時空転移に関する理論についてご存知ですか?」



 ハリーからの突然の質問にドンは眉をひそめる。これまでの話とはまるで異なる絵空事に関することだからだ。



「…下らん戯れ言だ。こんなふざけた記事を書いて売上を伸ばそうだのメトロポリスの新聞社の質も落ちたものだ…」


「正直私もそう思っていました。が、ケヴィンの捜索を依頼された後から実は物凄い重要な事柄であったことが分かってきたのです」


「お前さんまでこんな眉唾物を信じるのか?」


「…ケヴィンが何故大戦中に消息を絶ったのか。それは記事の時空転移の理論にある素粒子の力によって別世界に飛ばされた為だということが分かりました」


「…何をバカな」



 ドンは咳き込みながらも一笑に臥す。だがハリーは尚も続ける。



「又聞きの話ですが、大戦から帰還したケヴィン本人がいっていたそうです。そしてその直後に執政部に拘束された。しばらくして次に姿を現したときには執政部の手駒となっていたということです」


「執政部がケヴィンを拘束していただと?」


「私も何故執政部が動いたのか不思議で仕方ありませんでした。しかし、この記事を見たとき執政部側の思惑が何となく分かってきました」



 ハリーは記事のメトロポリス自然科学研究所所長の談話を指した。そこに記された名前を見たドンの目が驚きで広がる。



「ヘンリー・ダマスカス…!」


「そうです。現在のメトロポリスの執政議長であり、時空転移の理論を提唱していた人物です。これはマダム・プレッティーノから聞いた話ですが、執政部が中心となって現在「時と場所」を越える実験を進めているそうなのです。その責任者こそが議長のヘンリー・ダマスカスではないか。私はそう見ています」


「つまり…ケヴィンが拘束されたのは図らずも時空転移したことを証明できる人間だったからか?」


「推論ですが、大いにあり得る話です」



 ハリーの話にドンの体が再び震え出す。病気のせいか或いは違う感情の揺れ動きのせいか。



「ケヴィンの話の裏付けとして先日別世界から来たという「亡国の女王」を名乗る女性と知り合いました。私も最初は虚言か絵空事と思った。しかしケヴィンが飛ばされたとされる別世界との共通項が幾つも見られた上、結局彼女も執政部の手に落ちてしまいました。恐らくケヴィンもしくはヘンリーの意向が働いたものと推理しています」


「………」


「ドン、私はこの件についてもアップタウンに渡り自力で調査を進める予定です」


「何故だ、ハリー?」


「え?」



 ドンの質問にハリーは思わず聞き返す。



「確かに執政部の連中の動きはキナ臭いが、お前さんがここまでする必要は感じない。あくまでも私の依頼はケヴィンを探して、連れてくることだ。どういう意図があるかは知らんが、結果的に執政院を敵に回すことになるのだぞ」


「…執政部はケヴィンや「亡国の女王」がいた場所についての情報を知る者を一人残らず消しているようなのです。恐らく私も連中の標的になっているものと思われます。その証拠に私の友人だったバーの店主が殺害されましたからね。どうせ狙われるなら開き直って真相を暴くつもりです。私にはその覚悟があります」


「…なるほど。口封じに走るとは連中は妙に焦っているようだな」


「それに記事に載っていた時空転移の理論について本来の発見者はヘンリー・ダマスカスではないかもしれないと思ったからです」


「どういうことだ?」


「…偶然の発見ですが、私の亡き婚約者が残した手紙の中に素粒子に関する成果報告についてヘンリーから脅されていた事実があったのです。記事にはそのことは一切なかった。もしかしたらヘンリーは婚約者の功績を奪ったのではないのか、と私は睨んでいるのです」


「そうか…私の依頼以上にやらねばならない事情をお前さんは抱えていたのか」



 ドンがフーッと再び溜め息を付く。ハリーは慌てて釈明するが、ドンはニヤリと笑った。



「気にすることはない。お前さんの思惑はともかくケヴィンの状況についても知ることはできたのだからな」


「ただ…ドン。状況は著しく悪いです」


「つまり?」


「マダム・プレッティーノのことです。ここ最近の風俗街に対する取り締まりの黒幕はケヴィンが関与していると見ており、命すら狙っています。今回協力を取り付けたことで、下手したら私も片棒を担がされることになりそうです」


「…それについても案ずるな、ハリー」


「ドン…」


「子の不始末は親が尻拭いをする。いつまで経ってもそういうものなんだ。例えどんな事情があるから知らんが、私なりに落とし前は付けるつもりだ」


「それはやはり全面戦争…ですか?」


「若いときはそうしただろうが今は違う。それに私はもうボスじゃない…。マダムやエリックの手を煩わすくらいなら、私が決着(けり)をつける」



 ドンは苦しそうに咳き込みながらも、しっかりした声でハリーに答えた。ドンの只ならぬ様子にハリーも身震いする。



「ハリー、そろそろ私はお暇する。さすがに病院を抜けたことがバレているだろうしな。大騒ぎになる前に戻るとしよう」



 ドンがヨロヨロしながら立ち上がる。ハリーはドンを支えようとするが、ドンはそれを断った。



「ハリー、約束の日にまた会おう。まだお互いに生きていたらだが…」


「…そうですね、ドン。必ずケヴィンを連れてきます」


「あともし依頼が達成できなかったら運河の魚の餌にするといったが、あれはホンのジョークだ。部下の手前、あれくらいはいっておかないと示しがつかないからな。それにお前さんならきっとやってくれるだろうと私は最初から信じていた」


「心臓に悪い冗談はやめてくださいよ…」


「ではまたな」



 ドンは振り返ることなく、返事をするとコーヒーの代金を支払ってカフェを後にした。

 ハリーはドンを見送ると遅れてやってきたミートソーススパゲッティを急いで口に入れた。



「…さて俺もトントの餌を買って帰るとするか」



 ハリーは独り言のように呟くと記事を懐にしまって、家路に付くことにした。

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