第32話 異世界への門
アリアを連れ立ってケヴィンは執政院と隣の窓のない無機質な外観の建物を繋ぐ渡り廊下へと向かった。渡り廊下の先には隣の建物の入り口と思われる堅牢な鉄扉が見えており、扉の脇に数字を入れるボタンのようなものが取り付けられている。
「少々お待ち下さい。すぐに開けますので」
ケヴィンは鉄扉の前に立つと、脇のボタンを押して数桁の数字を入力した。
ガチャ
内側から鍵が開く音がした。ケヴィンは重々しく扉を開ける。扉の向こうは薄暗くよく見えない。
「どうぞ、お入り下さい。暗いので足下に気をつけて」
アリアは恐る恐る扉の中に入る。すると突然扉が閉まり、目の前が真っ暗になった。
「キャア!!」
「ご心配なく。それより見えますか、アリア様。あの先にある光が」
「え…?」
ケヴィンに促されてアリアは目を凝らすように光を探す。遥か先だろうか、ほんの小さな白い光が確認できた。徐々に光は大きな球体になり、周りには稲妻がほとばしっているのが分かった。
アリアは訝しげに光に近づいてみる。光はパチパチと音を立てて、少し熱い。
「これは何?」
「時空転移装置…メトロポリスと別世界を結ぶ門というやつです」
「時空、転移装置…?何故そんなものを私に?」
「アリア様。メトロポリスとグランシステリア王国はこの装置を通じて繋がっているのです」
「!?何ですって!!」
アリアはケヴィンの方を向いて大声を上げた。ケヴィンは黙って頷く。
「アリア様、我々執政院は時と場所を越える研究をずっと前から進めておりました。ようやく形として完成したのが、この装置です」
「………」
「装置の周りをよく見てください。何か見覚えはありませんか?」
ケヴィンの言葉にアリアは光を取り囲む機械たちの配置を見て、確かに既視感を覚えた。あれは…クーデターでグランシステリア王国を追われて、遺跡に追い詰められたときに光に包まれて…
「あの遺跡と同じ配置だ…」
「ご名答。さすがです、アリア様」
ケヴィンは満足そうに微笑む。そんなケヴィンとは裏腹にアリアは混乱して詰め寄る。
「どういうこと?説明してちょうだい!」
「…分かりました。まずあの遺跡について説明しましょう」
ケヴィンが装置の機械のパネルに触れて何か弄ると光の球体が少し大きくなった。
「時空転移装置の大元はある素粒子の存在にあります。その素粒子が時空をねじ曲げる効力を持っており、この光は素粒子の力を集約したものになります。そしてあの遺跡の形状は素粒子を集約し、力を増幅させるためのもの。遺跡の正体は異世界への『門』だった…と言うわけです。この機械は遺跡の配置を再現し、時空転移装置として構築したものになります」
「素粒子…?」
「ごく最近発見されたものらしく、この素粒子のお陰で研究は飛躍的に進んだそうです。素粒子や遺跡は我々の世界でも存在していましたが、用途や目的までは解明されていなかった。しかし、私がグランシステリア王国に飛ばされたことで遺跡の正体が判明できた…つまり…」
「私はグランシステリア王国に帰れる…?」
ケヴィンはニッコリと頷いた。ケヴィンの言葉を聞いたアリアは光に吸い込まれるように手を伸ばす。が光に触れた途端、バチッと強い刺激が指を襲い、後ろに倒れ込んだ。ケヴィンが慌ててアリアを支える。
「アリア様、お気をつけ下さい。確かに装置の原理は解明しましたが、まだ物体を転移させるためには更なる力が必要です」
「更なる力ですって?」
アリアが指を押さえて痛みを堪える。その声は未知なる力に対する怯えで震えていた。
「はい。その鍵はアリア様、貴女が握っている」
ケヴィンは真顔になると、アリアの胸元に掛かるロケットを見据えた。ケヴィンの不穏な視線に気づいたアリアは慌ててロケットを隠そうとした。が、ケヴィンはアリアの手を掴むともう片方の手で無理やりロケットを引きちぎった。




