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第30話 アップタウン・ガール

 アリアを乗せた高級車は「蜘蛛の糸」を通ってアップタウンへの検問所に着いた。運転席の男が検問所の警備員に通行証を見せると、警備員は許可を出した。ゲートが開くと車輌は真っ直ぐアップタウンの中心部へと向かう。


 アップタウンはメトロポリスの富の9割が集中する高層ビル群に囲まれた世界最大の商業地区である。此処に住まうことはメトロポリスの市民にとってのステータスであり、羨望の対象となっている。


 アップタウンの中心には執政院のビルがありその周りを議会や裁判所、金融街に貿易施設が並んでいる。文字通りメトロポリスの心臓部ともいえる。


 アリアは高層ビル群を車窓から物珍しそうに見上げていた。グランシステリア王国には此処まで高い建造物は存在せず、一番高くて教会の尖塔くらいである。



「凄い…こんな建物たちがズラリと並んでいるなんて…さっきまでの景色とは天地の差ほどあるわ…」



 アリアが感嘆の声を上げていると、助手席に座ったスーツ姿の男が振り返った。



「初めての光景ですか?」


「ええ、私の国にはこんなに高い建物はないもの。想像以上に発展しているところなのね」



 アリアが興味深そうに周りをキョロキョロしていると、一際堅牢な建物が正面に見えてきた。周りの建物に比べると高さはないが、年季の入った外観と丁寧な装飾が目を引く。



「そろそろ到着します」


「此処は?」


「メトロポリスの執政院。我々の上司であるジョーカーも女王陛下の到着を首を長くして待っております」



 これがグランシステリア王国でいうところの王宮という奴か。高級車を降りたアリアがまじまじと眺める。


 スーツ姿の男たちにエスコートされるようにアリアは執政院の正面玄関を入り、目の前の大階段を登った。



「何処へいくの?」


「執政院の会議場です」



 アリアは歩きながらスーツ姿の男に質問をする。男は顔色を変えることなくアリアに回答すると迷うことなく三階にある執政院の会議場に到達した。

 男の一人がコンコンとドアをノックする。



「アリア女王陛下をお連れいたしました」



 男が中に聞こえるように少し大きな声でドアに話し掛けた。やや間を置いて鍵が開く音が聞こえる。



「ご苦労、入りたまえ」



 若い男の声が中から聞こえた。アリアにとっては何処か聞き覚えのある声である。男の一人がドアを開けてアリアに入るよう促した。


 アリアが恐る恐る会議場に足を踏み入れると、大きな円卓と幾つかの椅子が配置されたシンプルな内装があった。そしてその真正面には一人の男が座っている。


 年は30歳手前、髪型は前髪を一房垂らした刈り上げにビシッとした紺色のダブルのスーツに身を包んでいた。柔和な笑みを浮かべているが、その顔には傷がありどことなく眼光は鋭い。只者ではないオーラを全身から放っている。



「…ジョーカー…」



 アリアは目の前の男の名前を呼んだ。男は立ち上がってアリアの前まで来ると跪いて、右手の指先にキスした。



「御機嫌麗しゅう、アリア女王陛下」


「本当に貴方なの?」


「はい。グランシステリア王国で謁見しましたジョーカー本人で間違いありません」



 ジョーカーはアリアを見上げて笑みを見せた。アリアはようやく知り合いに会えたのか、ホッとした表情を浮かべた。



「良かった…話が通じる人が居てくれて」


「この度は大変危険な目に遭わせてしまいました。心よりお詫び申し上げます。まさかマダム・プレッティーノの奴が先に動くとは予想外でした」


「マダム…?」


「私の父と敵対関係にあるマフィアの女ボスです。貴女の情報が筒抜けとは執政院に内通者がいるかもしれませんね」



 ジョーカーは立ち上がると少し考えて渋い顔をする。ジョーカーを見たアリアはハリーの話を思い出した。



「ジョーカー…さっきマダムと貴方の父が敵対関係にあるといったけど、もしかして貴方もマフィアなの…?」


「だった、が正解でしょう。もう父もマダムも関係はありません」


「でも貴方を探している人がいるわ」


「私を探している?」


「ええ、確かケヴィンっていってた。貴方のことよね?」


「…!!」



 ケヴィンと呼ばれたジョーカーの表情が一気に強ばった。

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