第3話 ゴッドファーザーの息子 パート1
謎の男たちに拉致されたハリーは乗せられた車の中で曲がり角や信号待ちの回数を頭の中で数えていた。
しかし、よくよく考えてたら男たちもバカではないので撹乱の為にわざと目的地まで遠回りしている可能性もある。
やむ無くハリーは途中で数えるのを止めて何故このような事態に巻き込まれたのか、心当たりを探ることにした。
まず真っ先に考えたのがマフィアとのトラブル関係である。ハリーの行動パターンを見計らい、計画的に拉致をしたと考えると相応の恨みを買っていることになる。
しかし、ハリーも治安の悪いダウンタウンに生きる身である以上、マフィアの恐ろしさを熟知している。故に不用意に関わることを避け、なるべく「平和」に過ごすことを第一と考えている。何故ならこの都市でマフィアとトラブルを起こすことは即死を意味することになるからだ。
次に考えたのが借金絡みのトラブルである。ハリーの探偵事務所の経営状況だが、はっきりいって全くよろしくない。トントの餌すら買えないくらいお財布事情は逼迫しており、あらゆる伝手を頼って借金を重ねている。
時折仕事が入るが、収入としては乏しく借金の返済や家賃の支払いに消えていく。税金も滞納しており、そろそろ差し押さえの督促状まで届きそうである。
(ざまあないな、ハリー)
トントの声がハリーの脳内に響いた。事実であるため、ハリーはぐうの音も出ない。
とはいうものの男たちは借金取りには見えない。何処かに拉致して強制労働させようとでもいうのだろうか。
ハリーがしばし思案していると急に車が止まった。目的地に着いたようである。男たちに引っ張られるようにハリーも車外に出された。
男たちに囲まれるようにハリーは歩かされる。前がよく見えないので転ばないか不安であるが、それに構わず男たちはハリーを押して進ませた。
少しばかり歩くと目の前に椅子のような物が置かれた。男たちはハリーを椅子に座らせるとゆっくりと離れた。
男たちが離れた途端、周りに静寂が訪れた。此処はどこなのだろう…ハリーに不安が過り、心音が高まる。
「ご苦労」
ふと前の方から声が聞こえた。年輩の男性のしわがれた声のようだ。どうやら男たちはこの男性の部下のようである。しかし…この声、どこかで聞いたような…
ハリーがぼんやりと考えていると頭に被せられたズタ袋が外された。目の前が急に明るくなり、ハリーは目を細める。
「久しぶりだな、ハリー。若い衆が手荒な真似をしてすまない」
ハリーがゆっくりと目を開けると、白髪頭の老紳士がソファに座っているのが見えた。シワの深い表情は柔和であるが、眼光の奥は鋭く只者ではない雰囲気とオーラが漂っている。更にその両脇には屈強なスーツ姿の男が二人、ボディーガードのように背筋を伸ばして立っていた。
「ド、ドン・モルトシオネ…!?」
ハリーは老紳士の顔を見るや一気に血の気が引いた。目の前にいたのはメトロポリスの裏社会を牛耳るマフィアの五大ファミリーの一つ、モルトシオネ・ファミリーのボスだったからである。
ハリーとは警察時代に賄賂や司法取引で面識を持っていたが、直接対面するのは恐らく初めてかも知れない。
しかしドン自ら、自分と会うとは…何か自分の預かり知らぬところでトラブルでも起こしたというのか…?恐怖で震えるハリーの中でクエスチョンマークが反芻する。
「ハリー…君を此処に連れてきたのは他でもない。折り入って君に頼みがある」
ドンはハリーの目を見てゆっくりと口を開いた。ハリーはドンの言葉に思わず頷いた。
「君にこの男を探し出してもらいたい」
そういうとドンは一枚の写真をハリーに見せた。写真には若い軍服姿の男が写っている。よく見ると目元や顔の作りはドンを彷彿させている。
「この人は…知り合いですか…?」
「私の息子だ」